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俺たちは、王家の馬車に乗せてもらい、できるだけ急いで王都に戻ることになった。
ロゼからすべてを教えてもらった。様々な疑問が頭を駆け巡ったが、整理して考えてみると、ある一つの仮説が浮かび上がったのだ。
馬車の中には、俺たち虹本一家。ロゼとセピア。マロネさんと負傷したグレイさんがいた。
グレイさんの傷は、どうやら軽くはないものの、剣を握ることはできなくなるとか、そういったものではないそうで、痕は残るが、障害などは残らないそうだ。よかった、本当に。
「全く情けない話です。皆様をお守りするのが我が役目というのに」
さして知りもしない村人をかばって負傷するとか、俺にはとても真似できない。そんな彼を、情けないなんて誰が思うだろう。
それに。
「大丈夫ですよ、グレイさん。もうすぐ、何もかもが終わります」
馬車は行きより遥かに早く進む。村長さんから近道を教わったのだ。何でも、秘密基地に通っているときに見つけたらしい。
本当はもっといろいろ話を聞いてみたかった。村長さんたちも、久々に見る日本人に、もっと話したそうだったが、今は国の一大事だ。
既に被害は甚大だ。無関係な人々が犠牲になり、ピーヌスさんは魔物に腕を喰われたのだ。ピーヌスさんが命を取り留めたことで、あの親子には深く感謝されたが、これからどれだけ大変になることか。彼は樵だ。一家の大黒柱が、その商売道具でもある腕を片方失ったのだ。それがどういうことか。
俺の怒りが顔に出ていたのだろう。ロゼが、不安そうに俺を見た。
「ごめん。あまり顔に出さないようにする」
俺が言うと、彼女は少しだけ笑って、すぐに俯いた。
「これからどうしよう」
今回の、一連の出来事の黒幕は見当がついている。だが、あの人の犯した罪を示す証拠がない。あの盗賊にもなれないチンピラたちから、辿るのは無理だろう。
ただ、一つわからないことがある。
「なぜ、あの人はこんなことをしたのだろう。ロゼを憎む気持ちから、俺たちやロゼを傷つけようとすることはわかる。だが、無関係の人を巻き込むなんて」
ロゼは何も言わないが、同じようなことを考えているのだろう。
「城に戻ったら、父に全て話します。確かに証拠はありませんが、このままでいいわけはありません。わたくしはこの国の第二王女として、あの方を訴えるつもりです」
ロゼの決意に満ちた言葉に、俺は頷いた。
だが俺たちは油断していた。俺たちの会話を、聞いているものがいることに、気づいてもいなかったのだ。
ところで帰りの馬車だが、行きと違ってほぼノンストップだ。なぜなら、途中に騎士団と馬が待機しており、中継地点で馬を入れ替えればいいからだ。
騎士団はいくつかに分かれ、途中の場所で待機するグループと、俺たちを迎えに来たグループと別れていたのだ。
「すごいな。行きもこういう風にしてくれればよかったのに」
「あの時点では、まだオルゴが絡んでいるかわからなかったので。父も、騎士団を動かしてはくださらなかったのです。それに……」
ロゼの言いたいことは、俺にもわかる。そりゃそうだよな。
いくら国王とはいえ、勇者でもない連中のために、兵は動かせないよな。
今更ながら合点がいった。国を救う勇者として招聘された俺たちが、やけに国王から冷遇されていたのも、護衛がたった一人しかつかなかったのも。すべては、俺たちが勇者ではなかったからだ。
騎士たちは、俺たちが勇者だと思っており、あのでかいアーバをオルゴだと思っている。
あれほどのサイズの熊……アーバは、彼らの目にはまさしく化け物に映ったことだろう。
騎士の一人が、戦利品として持ち帰ろうとしたものだから、俺とロゼが慌てて止めた。あれは村のものだ。それに彼らなら、毛皮も肉も、きっと、全てを余すことなく使ってくれる。
馬車は王都に入った。夜通し走ってきたので、さすがに早い。
「蒼ちゃん、これ」
姉ちゃんが俺にリュックを差し出した。姉ちゃんは弓袋を担いでいるので、俺がリュックを持つことになっているのだ。
「そうだった」
姉ちゃんのリュックを背負い、俺は降りる準備をした。城は、下手したら相当に油断ならない場所かもしれない。
あの人はロゼを殺すつもりだろうし、邪魔な俺たちだって、必要とあらば殺すだろう。
彼女の放った刺客が倒された以上は。
城に到着した俺たちを、場内の人間が温かく迎えてくれた。どうも、騎士団員から話が伝わっているらしい。
勇者たちが、オルゴを見事討ち取ったと。
本当は違うのだが、こちらとしてもしばらくは都合がいいので、否定していない。
それに、これのおかげで、ロゼが褒め称えられれば、その分、あの人は何か行動に移そうとするだろう。その時が尻尾を掴むチャンスなのだ。
そう思っていたはずなのに。
城に戻り、滞在していた部屋に戻ったところで、俺たちは、やはり気が抜けたのだと思う。
王に謁見し、報告をする、それまでの間に、ロゼが行方不明になってしまったのだ。




