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虹本家の家族旅行  作者: うばたま
第一章 虹本家の朝
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3

 「大体、あっちの偉そうな……いえ、立派な身なりの男性の周りには、強そうな人たちがたくさんいるじゃないですか。俺たちは、ごく普通の民間人ですよ。何もできません」

 ごく普通かどうかは置いておいて、どう考えても、あのおっさんの周囲にいる、甲冑を着込んだ騎士(?)たちが、俺たちより使えないとは思えない。

 なにしろ、じいちゃんも父さんも、現役の時はすごかったとしても、今では引退した身の上だ。

 母さんは専業主婦、姉ちゃんと俺は高校生。特に俺なんか、見ての通りのヒョロヒョロのもやしっ子。この体育会系の家族の中で、唯一運動音痴な落ちこぼれだ。

 「いいえ。オルゴの呪いに対抗できるのは、異界から来た勇者様だけなのです」

 うわあ、一気にファンタジー色が濃厚になった。呪いだって。なんとまあ、非科学的な。

 オルゴってのが何かはわからないが、話の流れからして、悪い奴なんだろう。正直、ここ最近ゲームもパズル系ばっかりで、こういう正統派RPGはあまりやってなかったんだよなあ。



 ロゼの話をまとめると、この世界にはオルゴって生き物がいる。

 オルゴは種族を指す言葉であり、この世界には、オルゴが何体かいる。

 オルゴは呪いをかけることができ、厄介なことに、この世界の人間は、オルゴの呪いを受けると、原因不明の高熱や痛みで苦しんだ後に、衰弱して死んでしまうのだ。

 まるで毒だ。

 オルゴは基本的に人間たちに干渉してくることはないが、ごく稀に酷く攻撃的な奴がいて、呪いをかけてくる。そうなると、人間たちには手が出せなくなる。何しろ、オルゴの呪いを食らったら、例外なく衰弱して死んでしまうのだから。

 その対抗策が、俺たちのような異世界の人間を呼ぶことだ。なぜだか異世界の人間は、この呪いに対して免疫でもあるのか、全く効かないらしい。

 呼び出した異世界の人間を勇者と呼ぶのだそうだが、今回は問題が一つある。通常、勇者は一人だけなのだ。それなのに、今回は総勢五名+二匹。一体これはどういうことだと、後ろのおっさん、後で聞くとこの国の王様が慌てている、というわけだ。

 「どなたが勇者様なのでしょう」

 そんなこと、俺たちが訊きたい。

 「文献では、『勇者が武器を掲げしその時、サルタティオは成立する』とあります」

 サルタティオっていうのは、俺たちを呼び出した、この魔法(儀式?)のことだろう。たぶん。

 おそらくだが、その魔法を遂行したのが、ここにいるロゼじゃないだろうか。杖持っているし。

 「武器、ですか」

 俺は振り返って家族を見回した。

 あの時、俺たちがここに来る直前、じいちゃんは真剣の手入れをしていたし、父さんは庭で素振りをしていた。母さんはフライパンからハムを俺の皿に移し入れてくれていたし、姉ちゃんは学校へ行こうと、弓袋を持ち上げた。俺は、今も手に持っているノートに、期待の新人選手の情報を書こうとしていたところだった。

 武器を掲げると言ったら……じいちゃんか?俺がじいちゃんに視線を向けると、ロゼが困ったように首を傾げた。まあ、こんな年寄りが勇者様となると、ちょっと無理がある。

 バットも武器になるから父さんかも?弓道具持っているから、姉ちゃんの可能性もあるのか。フライパンが武器として扱われるとは思わないが、純粋に攻撃力の面で言えば、武器と言えなくもないかもしれない(ついでに防御力も高そうだ)。ということは、俺以外の面子は、勇者である可能性があるわけか。

 「俺以外の誰かみたいです」

 俺が言うと、ロゼは困惑したように俯いた。後ろでは、さっきの王様とやらが、焦れたように何か言っている。

 ロゼは一度後ろへ下がり、王様に何事か告げた。王様や、その周りの人間の値踏みするような視線が妙に気に障る。「お前たちが本当に役に立つのか?」と言わんばかりの目だ。勝手に呼びつけておいて、それはない。こっちだって予定があるというのに。

 しばらく後にロゼが戻ってきて、申し訳なさそうに告げた。

 「ともかく部屋を提供しますから、今はお休みください、勇者様」

 言われて気付いたが、俺たちが急にこの場に「呼び出され」てから、一時間ほど経っている。お互いに混乱しているし、状況すらよく理解できていない。一度、頭を冷やした方がよさそうだ。

 俺は、せっかくの冬休みが奇妙な方向へ進んでいくのを、ひしひしと感じていた。



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