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夕食の席では、話題は隣村のことよりも、もっぱらここ最近を騒がせている獣の話が多かったらしい。夕食後グレイさんと話している時に、そんなことを聞いた。
ちなみに、部屋の割り当ては男部屋が二部屋、女部屋が二部屋だ。
女部屋の一つに母さんと姉ちゃん。もう一つがロゼとセピア。セピアは王女と同じ部屋であることに恐縮したようだけど、この場合仕方がない。
男部屋の一つには父さんとじいちゃん。もう一つが俺とグレイさんだ。言葉が通じるのが俺しかいないのだから、これは当然だろう。
マロネさんは、怪我の具合が悪く……実はさっきの戦いで、足の骨にひびが入っているそうだ。ずっと言わないでいたようだが、歩き方で父さんが気付いた。マロネさんは結局、村の医者の元へ行っている。今夜は医者の家に泊まるそうだ。
で。こうして一つの部屋の中、男二人でだべっているわけだが。
グレイさんが村長に聞いた話では、最近ここいらを騒がせているといえば、思い出すのはあの盗賊団じゃなわけだが、どうも関係ないらしい。あいつらは、数日前に隣村からこちらに来た、いわば流れ者なのだそうだ。流れ者ならそのうちどこかへ行くから、そう気は張らなくていいのかもしれない。
それに今は、それ以上に厄介な存在の噂が囁かれていた。
「どんな奴なのですか?」
「アーバという、非常に巨大で獰猛な魔物です」
ほう。やっぱりこの世界には、魔物と呼ばれる存在がいるらしい。一気にファンタジーっぽくなったな。俺は不謹慎ながらも、少しワクワクしながら続きを聞いた。
「アーバは見た目は恐ろしく、全身は黒く、強力な牙を持ちます。それ以上に彼らの前肢は鋭い鉤爪を持ち、この一撃を食らってしまうと、人間ならひとたまりもありません。鉄製の兜を被った戦士でも、兜ごと切り裂かれ、絶命すると聞いたことがあります。また、硬い毛皮に覆われているため、その辺の弓矢では傷一つ付けられないと」
なんとなく、熊に近い気がする。
「このアーバ、数年前に絶滅したはずですが。もしまだ生き残っていたとしても、できれば鉢合わせしたくはないのですが……」
できれば、じゃなく、絶対にしたくない。熊なんて銃でも簡単に倒せないんだぞ。
「この地域にはアーバはほとんどいなかったのです。まず出没しないし、出たとしても、大抵小さなものが多く、被害と言えば、農作物や家畜程度だったのです。それゆえ、一部の噂では、オルゴではないかとも言われていますね」
「ちょっと待った。オルゴとは、どういう外見をしているのですか」
今の今まであまり考えてなかった。というか、勝手に想像していて、イメージが定着していたのだが、オルゴという生き物の外見を、俺はきちんと聞いていなかったのだ。
ちなみに俺の抱いたイメージでは、オルゴとは、尻尾と角の生えた、青白い顔した人間。ゲームや漫画に出てくる悪魔みたいなのを想像していた。
それかドラゴンとかグリフォンみたいなでっかい生物とか、人魚とかセイレーンとかハーピーとか、妖しく美しい魔物みたいな?
俺がこっそり抱いていた妄想を語ると、グレイさんはため息をついて言った。
「ソウタ様。異世界に夢を見過ぎです」
全く持ってその通りだが、なんか傷つく。いいじゃんか、夢くらい見たって。
「オルゴは千差万別です。人間にそっくりな姿のものもいれば、獣のような外見をしているものもいます。知能が高いものもいれば、獣と大差ないものもいます。ただの人間に、獣の角が生えているなんてものもいました。醜いものもいれば、美しいものもいる。共通点は、寿命が人間より遥かに長いことです。数百年生きると言われています。なので、こうだとは一概には申し上げられないのです」
つまり、人間そっくりなオルゴの場合、その姿のまま、例えば人間の住む世界に入り込んでしまったら、全く見分けがつかないということではないか?寿命が長いなんて、年月かければ見分けのポイントになるだろうが、すぐに知りたい場合はどうしようもない。
「どうやって見つけるんですか、そんなもの」
「一応判別する方法はあるのです。彼らの目は、日光をしばらく当てると、淡い赤に変化します」
淡い赤……それってつまり、ピンクということではないだろうか。
俺が思わず顔を上げると、グレイさんは小さく頷いた。俺が、何を考えたかわかったのだろう。
「ええ。ロゼ様の瞳は似た色ではありますが、もちろん違いますよ。オルゴの場合、普段は全く別の色で、光を浴びている時のみ変色しますから。あと、死んでしまったら、たとえ日光を当てても瞳の色は変わりません」
なるほど。ロゼがやたら引っ込み思案なのも、そういった背景ゆえのものなのかもしれない。
今思い出したが、ロゼのあの不自然な眼鏡も、目の色を隠すためのものだったのだろう。
「そして、巫女になりうる人間は、大抵瞳がロゼ様のような、美しい薄紅色であることが多いのです。と言っても、あのような色は珍しいですよ。大抵は赤みのある茶色とか、紫とかが多いです」
要するに、赤みのある色ということか。
敵に回すと、人類に勝ち目はない存在であるオルゴ。そして、そのオルゴへの唯一の対抗策である勇者を呼ぶことのできる巫女。この二つの、意外な共通点を見た気がする。
しかし、ロゼは巫女であると証明できるまで、割と大変だったのではないだろうか。巫女だと知らしめたからいいようなものの、もし巫女ではなかったら。口さがない人間というのはどこの世界にもいる。




