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虹本家の家族旅行  作者: うばたま
第二章 虹本家の冒険
16/35

 その村の名前はフラットリーというのだそうだ。

 時間をロスしてしまったが、何とか陽が沈む前についた俺たちは、そのまま村長の家だとかに行くことになった。

 そうそう、途中捕まえた男二人は、ただの盗賊だと言い張っていた。真偽は定かではない。覆面を取ってみると、どこにでもいるような、うだつの上がらない男の顔があった。外見だけで言えば、どこからどう見ても人間だ。

 田舎だからか、村に入る時物凄く警戒された。幌は破られ、馭者は怪我をし、おまけにこの国の西洋風な顔立ちとは明らかに違う、典型的なアジア系が何人もいるのだ。警戒もされるか。

 今現在隣の村では、正体不明の病気(と村人は思っている)が流行っているのだ。外部からの侵入には、警戒もするだろう。

 いろいろ考えたが、いつまでも盗賊たちを手元に置いておくわけにもいかないので、村の役所に引き渡した。村人によると、ここ数日前から、黒装束、黒覆面の集団に積み荷を盗まれたという事件が何件か起きているらしい。そうなると、こいつらはやはりただの盗賊か。

 村長に国から、隣村の調査に来たと告げ(あらかじめそうする予定だった)、王家のサインが書かれた委任状を見せると、すぐに村長が手厚くもてなしてくれた。

 この周囲を騒がせている盗賊を二人捕まえたことで、かなり感謝された。田舎町だから、旅人を襲うこいつらの存在は、かなり迷惑なものだったらしい。

 そういえば、ロゼはあれからすぐに目を覚ました。大泣きしたことを、相当に恥じているようだったが、気にすることはないと思う。

 むしろ男たち相手に怯むことなく渡り合った彼女を、俺は尊敬する。

 それに比べて俺は情けないとしか言いようがない。

 表だって口には出さないが、俺は、あの一件で結構落ち込んでいた。

 盗賊を生け捕りにしたのはじいちゃんと母さんだし、追っ払ったのはグレイさんと父さんと母さんと姉ちゃん。それにクロだ。セピアだって、あんな細い体で、勇ましく戦っていたというのに。

 俺がしたことと言えば、ビビッて縮み上がっていただけだ。役に立たなさで言えば、シロと同じ。いや、シロはあれからロゼの湯たんぽになってやっていたから、それ以下だ。

 男としては非常にみっともないものがある。そりゃ、今のところ俺は通訳の役割を果たしているのだから、役立たずというわけではないことはわかっている。

 けれども、だ。

 ああいった不測の事態が起きた時、驚くほど俺は使えない奴で、俺以外の家族はみんな、あんな恐ろしい奴らも蹴ちらせるのだ。

 ここであれこれ不貞腐れていても仕方がないのはわかっている。そう、俺は不貞腐れているのだ。男のくせに、女にかばわれ、震えているしかできなかった自分にうんざりし、俺って一体なんなの?みたいな気分になっちゃっているわけだ。

 だからと言って、そのことを口にしたらもっとみじめなだけだ。そもそも、誰も悪くない。

 こんな、命に係わる一大事に、長年肥大させていたくだらないコンプレックスなんか持ち込む方がおかしいのだ。

 「お疲れですか?」

 俺が黙りこくっていると、横からグレイさんが声をかけてくれた。

 「い、いえ」

 「今日は村長の家に泊めてもらえるそうです。いろいろあって大変でしたからね。お言葉に甘えましょう」

 確かにいろいろあった。

 村長の家というのは、かなり広かった。村長ともなる人は、やはり成功するのか。それとも、お金持ちだから村長に選ばれるのか。そんな風に考えていたら、実は村長宅は、昔は宿屋もやっていたらしい。今も、来客があれば泊めることも多いのだとか。

 お城の豪華な造りとは大きく違うが、結構居心地がいい。床も壁も木製で、温かみがあるせいか。ソファや絨毯なんか渋い鶯色で、何となくそれが和室を思わせる……気がする。

 「ここの村長さんは、少々変わっていまして」

 案内をしてくれた、下働きの女性が教えてくれた。

 「以前の人生の記憶がおありなのですよ」

 「ほう、珍しいな」

 グレイさんが感心したように言うが、珍しいなんてものじゃないだろう。

 「え?前の人生?前世ってことですか?」

 「そうですよ」

 あっさり認めた後グレイさんが首を傾げた。

 「ソウタ様のいらっしゃる世界では、そういった方はいらっしゃらないのですか」

 全くいないというわけじゃないかもしれないが……。

 例えば、海外で女の子が、全く知らない夫婦相手に、「私はあなたたちの娘でした」とか言って、夫婦の娘だった頃のエピソードを、家族以外は知りようもないことを語り始める。その夫婦は確かに以前娘を亡くしていて、娘を亡くしたのが、その子の誕生日だった……とか。そういった話は聞いたことがあったが、そういうのは、信憑性のないオカルトとかそういう類のものだと思っていた。

 全く違う世界から、人間を突如呼び出せる魔法が、普通に存在する世界なのだから、そういった不可思議なこともありと言えば、ありなのか。

 「いるのかもしれませんが……あまり、そういうのは信じられていないのです」

 「そうなのですか。こちらでは、稀に以前の人生の記憶を持つ者がおります。大体子供が多く、次第に忘れてしまうのですが、中には大人になっても覚えている者もおりますよ。ここの村長もそれなのでしょう」

 そこまで言って、ふと思い出したようにグレイさんが続けた。

 「そういえば、ロゼ様も、お小さい頃は以前の記憶があったと仰ってましたね。時が経つにつれ、忘れてしまわれたようですが」

 そうだったのか。それにしても、前世の記憶を持つとか、どんな感じなのだろうか。俺には全く想像もできない。

 俺は、虫全般は平気なのだが、なぜか毛虫だけは恐ろしく嫌いだ。嫌いというより、怖い。なぜかと言われてもわからないが、もう、無条件に怖い。子供の頃持っていた昆虫図鑑でも、毛虫のページは開かないようにしていたし、触ることすらできなかった。

 なぜいきなりこんな話をするのかと言えば、姉ちゃんが、毛虫を怖がる俺を見て、蒼ちゃんは前世で毛虫に殺されたんじゃないの、とよく言っていたからだ。

 もし姉ちゃんの言うことが本当なら、俺にも、多少なりとも前世の記憶があるということか……って、んなわけないか。

 とにかく、俺からすればやはりピンとこないわけだ。こっちの世界の人は、俺って実は前世の記憶がまだ残っててさー、なんて会話が、俺って昔ちょっとヤンチャでさー、みたいなノリで成立するみたいだが。

 俺たちの世界の、前世がどうのっていう話も、もしかしたら本当なのかもしれない。今度その手のオカルト本でも買ってみようか。異文化を取り入れるとはこういうことか。

 村長さんが用意してくれた部屋は四部屋。というのも、客室が四部屋しかないからだ。宿屋にしては少ない気はする。もちろんありがたく使わせていただくが。


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