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虹本家の家族旅行  作者: うばたま
第二章 虹本家の冒険
13/35

 「それってさ、その王女様、蒼ちゃんのことが好きなんじゃないの」

 姉ちゃんはたまにとんでもないことを言いだす。

 密かに少女趣味な姉ちゃんは、意外とこういうコイバナが好きだ。少女漫画もよく読んでいるし。

 「無茶言うなよ。どこをどうしたら、そんな展開になるんだよ」

 乙女な思考も悪くはないけど、時と場合は考えてほしい。

 「そうかなあ。蒼ちゃんが好きだから、蒼ちゃんと仲良くしているロゼに腹を立てたんじゃないかしら」

 「いや、あれはロゼのことが心底嫌いって感じだったからな。ロゼを貶めるためなら、何でもいいんじゃないかな」

 実際そうなのだと思う。昨日はついあれこれ考えてしまったが、やっぱりあの意地悪女が、ロゼに対するいじめの延長で、ああいった突飛なことを言いだしたに違いないと思い始めていた。

 「で、本当のところどうなの」

 やたら目を輝かせながら、姉ちゃんが身を乗り出してきた。

 「はあ?」

 「最近の蒼ちゃん、ちょっとかっこよくなった気がするのよね。頼りがいが出てきたって感じ」

 それって、言語の通じないこの世界で、俺が多少意思の疎通ができるからってだけだろう。

 「誰か好きな子ができたんじゃないの。例えば、ロゼとか」

 「そんな余裕ないよ」

 この状況でそんな発想ができるバイタリティがあれば、彼女いない歴イコール年齢なんて事態にはなっていないはずだ。

 「それか、セピア。よく話しているじゃない」

 「こっちの言語を教えてもらっているだけだよ」

 「でも、実際こっちにきて仲良くしている女の子がいるわけよね。しかも二人も。どっちもかわいいし、蒼ちゃんも、嫌いってわけじゃないんでしょう」

 「まあね」

 嫌いだったら、会話したいとは思わないだろう。

 「蒼ちゃんはどっちが好みなの」

 「好みとかはないよ。大体、俺たちは新月の日には帰してもらうんだし、そうなったらしょっちゅう会えない。むしろ、二度と会えない可能背の方が高いわけだ。それなのにそんな気になれないよ」

 「そっか。それもそうね」

 姉ちゃんは、ずっと帰りたがっていたはずなのに、どこか寂しげだ。気持ちはわからなくもない。俺も含めて、俺の一家は割とこの状況を楽しんでいる。


 どうして俺たち二人がこんな会話をしているかというと、それは暇だからに他ならない。

 今現在、俺たちは大きな幌馬車に揺られている。

 オルゴが出現したという場所に向かうために、王様が用意してくれた馬車だ。でかい幌馬車で、立派な馬が二頭で引いている。布張りになっていて、外の景色は見られないが、おかげで冷たい風に当たらず、こうやって会話もできる。

 しかも、外部からの攻撃対策なのか、布をかぶせる前に細い鉄線を張り巡らせている。布で覆われているから外からはごく普通の布張りの馬車だが、実はかなりの防犯対策が整っているわけだ。

 馭者台に若い男の人が乗り、馬を走らせてくれている。この人はマロネさんといって、セピアのお兄さんだそうだ。

 馬車といえば、本当はもっと豪勢な造りのものもあるのだが、あまり目立つのはまずいというわけだ。

 というのも、世間一般では、勇者の存在は知られていない。いや、知ってはいるが、今回招聘されたという事実を、世間の皆さんは知らされていないのだ。

 たぶん、人を襲うオルゴが出てきたことも知らされてはいない。

 この辺の事情はよくわからない。あの時の広間にいたのは、国の重鎮ばかりだったそうだ。そうなると、事情を知らされているグレイさんやセピアは、それなりの地位にいるわけではないだろうか。考えたら、城の侍女とか、それなりに身元がしっかりしている必要があるだろうし。

 馬車にぴったりくっつくようにして、一頭の馬が走っている。その上には、グレイさんが乗っている。彼が護衛として、俺たちについてきてくれているのだ。

 馬車の中には虹本家の面子と、ロゼ、そして世話係としてセピアもついてきている。

 ロゼと言えば、妙なことに、眼鏡をかけている。レンズは少し色味の強いもので、結構でかい。目が悪いようには見えなかったが、本当はよくなかったのか。それとも、瞳の色素が薄いから、日光から目を守るためか。

 今日のロゼは、ドレスとはうって変わって、動きやすい服装になっている。旅装束というものなのだろう。華美なところは少しもなく、セピアもまた、似たような格好だ。一応身分を隠しているため、王族と悟られないようにしているのだろう。

 最初は、世話係なんか悪いよ、そんな大層な、なんて思っていたのだが、来てもらって正解だった。何しろ、俺たちは火もまともに起せなかったのだから。そりゃ、この世界にライターなんかあるわけない。

 目的地は、朝出発すれば、夜には着くような場所だから、それほど苦労しないとはいえ移動手段は馬車だ。動かしているお馬さんは、生き物だから当然疲れるし、腹も空く。

 ちなみに、オルゴが出現したといわれる場所の一つ手前の村で、今日は泊まる予定だ。勝手のわからない場所に行くとすれば、視界のいい昼の方がまだしもだからだ。

 途中の休憩時に、セピアがかいがいしく火を起こし、お茶を淹れてくれた。昼食は、弁当を用意してくれていたから料理まではしなかったが。

 そういえば、俺たちが気に入っていたタールフという果物も持ってきていた。いつも綺麗に切られた状態でしか見たことがなかったのだが、タールフは、あの繊細な味とは裏腹に、ものすごくごっつい見た目の果物だった。

 大きさは野球ボールくらいで、濃い茶色の殻に入っている。まるで、小さなココナッツといったところ。殻は相当に固く、専用の割る道具が必要なのだそうだ。そうやって見ると、大きなクルミみたいな感じか。

 タールフは割った後、食器の代わりにもなるとかで、使い勝手はいいようだ。確かに、物凄く固いからな。父さんが持った感触としては、野球ボールとほぼ同じサイズだそうだ。

 考えてみたら、ここ数日出された料理を何も考えずに食べていたが、この世界だと、料理だって簡単じゃないよなあ。いや、俺のいる世界だって料理は簡単じゃないとは思っているが。

 こうして、目的地まであと半分ってところで、俺と姉ちゃんの件の会話というわけだ。

 どちらも日本語で喋っているので、ロゼとセピアは何も言わない。まさか、自分たちが話題に上がっているとは思ってもいないのだろう。ちょっと罪悪感が。

 じいちゃんはうとうとしているし、父さんと母さんは、正月用にとっておいた、浮いたお金の使い方について、あれこれ話している。お年玉はいいわよね、とか聞こえたのは聞き間違いだろう。

 クロは馭者台が気になるのか、やたらそちらを見ながらそわそわしているし、シロはロゼの膝の上で眠っている。あいつ、年のせいか、寝ている時に涎を垂らす癖があるんだが、ロゼの服につけてやしないだろうな。

 「でも、どっちが好みってのはあるでしょ」

 終わったと思っていたのに、どうやらまだ終わっていなかったらしい。姉ちゃんはやたら俺の心情を聞きたがる。

 実際どうだろう。

 ロゼには、実はそういった思いを全く抱いていない。

 昨日あの意地悪王女に言われるまで、ロゼを異性として、全く意識すらしていなかった。これは、この異常な状況下のせいというわけではないと思う。

 だって、セピアには、かわいいなと思うくらいの感情は湧いたからだ。

 ロゼの場合、そういった感情は一切湧かない。

 顔立ちを見れば美少女だと思う。気品もあるし、かといって意地悪王女みたいにお高くとまっているわけでもない。ちょっとおとなしすぎる気はするが、でしゃばってああだこうだ言うような女じゃないことは、むしろありがたい。

 ここまで褒めておいてなんだが、だからと言って、好きになるとか、惚れたという感情は生まれないのだ。

 考えたら妙な話だ。もしクラスに美少女、しかも、割と好みの子が気さくに話しかけてくれたら、俺なんかコロリと参りそうな気がするのに。

 そういったものより、何だろう。まるで、姉ちゃんに接するような気分にしかならないんだ。妹がいたら、こんな感じなんじゃないだろうか。

 少なくとも恋愛気分とは全く違う。この辺りが、なぜかは全くわからないのだが。

 セピアに関しては、前述の通り。かわいいな、と思う気持ちはあったが、それで終わり。

 何しろ、あと一週間もすれば、元の世界に戻るのだ(だと思いたい)。それまでに、何とかオルゴを倒せたらいい……んだけどなあ。


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