プレイバック№2
こんなの知らない。
私は断じて――『赤ずきん』のこんな結末を知らない。
アカンラザールの森は鬱蒼としていた。
まだ日が高い時刻のはずなのに、夜の海みたいに暗くて静寂に包まれていた。
旅行会社の企画で、『大自然に癒されよう!』的な自然を満喫することを売りにしたツアーがある。
でも、この森が人を癒してくれるとは到底思えなかった。どころか、油断すると樹木の枝が伸びてきて攫われそうな、それ自体に呑み込まれてしまいそうな、おどろおどろしい雰囲気がある。
私が知っている自然とは違う、中世の生きている森だった。
抱きかかえる腕のなかで、『赤ずきん』は身を縮こまらせている。
間近で見る頭巾は、赤の濃い配色で臙脂色に近い。彼はか細い身体を小刻みに震わせている。
「ふう、なんとか間に合ったな」
森番のハッサンが荒い息をついた。
対面に立つヨッチと同様、筋骨隆々とした腕で槍をかまえている。
彼らは、『赤ずきん』を襲おうとしていた『オオカミ』を間一髪で捕らえたのだ。その、生け捕りにされた『オオカミ』の姿から私は無意識に目をそらした。
「どうして顔を背ける。これは、おぬしが選んだ結末じゃろう」
美貌の侍医、セフィーレスさんにたしなめられた。はっとするような冷たい声。叱られた子供のような気分になって、ゆっくりと瞼を開く。
私が、望んだ結末? これが?
すると、『オオカミ』はまっすぐにこちらを見据えていた。
私ではなく、『赤ずきん』を――。彼らは狙いを定めた獲物への執着が異常に強いという。
ああ。
それの愚鈍で暗い瞳とかち合ったとたん、『私』こと暮森公子はゆっくりと意識が沈んでいくのを感じた。
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エピソード2、赤ずきん編です。のんびり更新して参ります。よろしければお付き合いください。