プロローグ
「久しぶりだね 神代君元気かい?」
歳を食った医者が陽気に話しかけてくる。
「先生、元気だったら病院に担ぎ込まれたりしませんよ」
嫌味の一つや二つは言いたい気分だ。
こちとら病人で検査の結果待ちで2時間も待たされたのだから。
「いやぁ、チョット驚いたよ 一応 健康体だと思ってたけどまさか
腫瘍が見つかるなんてねぇ」
一応って何ですか一応って・・・
つい先日までピンピンしてたんだけど・・・
しかし、持病で倒れて救急の医師がアレコレ検査してその結果が今出たと
随分と遅かったなあ いつもの事だって言ったのに無理矢理検査させられたんだ
結果として 何か病気が見つかったのは嬉しいのやら悲しいのやら・・・
それよりも今は腫瘍の話だ。詳しい病状を聞かねばなるまい。
「良性ですか悪性ですか?」
「普通はもっと別な事を聞くと・・・まあいいや安心していいよ良性だったから」
なら心配ないか、今の時期におちおち入院してられないからな。
「ただし、とんでもない疾患が見つかったんだなぁ これが」
疾患?MRIで撮った位置からして腎臓か?
「人工透析でも必要になったんですか?」
腎臓の疾患かと当たりをつけてみる。
「惜しい、問題が見つかったのは副腎の方 あと検査結果もMR Iじゃなくて
血液検査の方」
副腎?何でまたそんなとこが?
「ホルモンの分泌量を調べたらビンゴ、単刀直入に結果から言わせてもらうとね
神代 夕輝 君・・・・君は女の子だったんだよ」
は?オンナノコ?
それってつまり
「クラインフェルター症候群の親戚みたいなものですか?」
性別に関係する病名を適当に言ってみる。
そうすると思わぬ反応が返ってきた。
「おおよそ そんなとこだと思ってくれて構わないよ、正式な病名は副腎性器症候群
先天性副腎過形成とも呼ばれている」
そんあ病気があったのか初耳だな。
「聞いた事ない病名ですね」
「昔は極々稀に起こってたらしいんだけどね、21_水酸化酵素って
酵素が不足して起こる先天性の遺伝子疾患だったんだけど殆どの場合
新生児の検査で発覚してたんだ だけど君の場合は事情が違うんだよね〜」
「事情と言いますと?」
「さっき説明した良性の腫瘍だったんだよ、それが検査の邪魔をしていて
数値の異常が見つからなかったんだよ」
ああ、大体言いたい事は分かった。
「で、どうしたらいいんですか?」
昔ならともかく今は高校生 おいそれと休んで単位を落とすわけにはいかない。
長期の入院は致命的だ。早い段階で治療の方針を決めておかないと後々困ってしまうし。
「一先ず腫瘍を手術で摘出してホルモン剤で治療ってとこかな
急を要する訳でもないから冬休みにでも入院しておくれ」
なら安心かな、・・・しっかし女になっちゃうのか。
「ちなみに男のままって選択肢はないですかね?」
「ホルモン剤とか別口で薬が増えるし、手術の手間がかかるけどいいの?」
「遠慮します」
手間がかかるのは御免被るね。
「はっはっは、良かったらこの同意書先に書いといてくれるかい
なるべく早く手術室空けときたいからね」
いけしゃあしゃあとぬかしやがって。
先に面倒くさい事済ませたいだけだろ・・・
でも一応書き込んどく、こっちも先に済ませたいのは同じだし。
「まあ気が変わったらいつでも言っておくれ、おっと言い忘れてたけど
大事をとって今日は泊まっていきな、仮にも救急車に乗っけられたんだから諦めて
養生しときな、あとご家族に話は通しておくように何事も早い方がいいからね
それじゃあ」
ふぅ、あのヤブ医者も帰ったし、昼過ぎる前に誰かに来て貰っとかないと
流石に着替えを持ってきてもらわないとだし・・・
はてさて困った。親父もお袋も海外だし、姉さんに至っては3徹目で荒んでるから
呼べそうにないし、弟が倒れたってのに引きこもってるって事は連絡絶ってやがるな
全く何で締め切り守ってないんでしょうね・・・
はて誰を呼ぼうか・・・
「よう 暇か?」
「何が暇かだ 主語がないぞ主語が」
このキレのあるツッコミをかましてくれる男は 藤峰 幸太郎
僕の相方で幼馴染だ。ちなみにこいつの実家は探偵屋をやっていて父一人子一人が
食っていくのに困らないぐらいには稼いでいるらしい。母が幸太郎を産んですぐに
亡くなったらしく、親子助け合って暮らしているとうのが彼の言い分だが、
実情は僕が経理の処理を手伝ってやってるから赤字が出ていないだけだ。
僕がいなくなったらどうするんだか・・・
「まあいいか、それより体の方は良いのか?また倒れたってな」
いけしゃあしゃあと一体 誰のせいだと思ってるんだか・・・
「お陰様で絶賛入院中だ この野郎!」
そもそも僕が倒れたのはコイツが僕に無茶な仕事を持ち込んだのが原因だ。
とある事件で疑われた学校の後輩の無実を証明するために証拠が必要だったとかで
寝ずに証拠を集めて2徹目でバタンキュー・・・
無実は証明されたが、その代償として僕の尊い健康がまた失われた。
「その件は悪かったって、詫びの印にこうして見舞いに来てるだろ」
見舞いに来るだけが詫びの形じゃないぞ!
「報酬は?三課の宮本さんから幾ら貰ったの?」
僕らは事件に首を突っ込んだり、巻き込まれたりしたりする事が多いので
必然的に警察には度々ご厄介になる。なので顔見知りの刑事からは経費として
幾らか下ろしてもらい僕の治療費に当てているという訳だ。
「あぁ〜それがだな〜・・・・・・スマン犯人捕まえ損ねて金 貰ってない」
僕の中で何かがプッツンと音をたてて切れた気がした。
「んだとゴラ、二徹して散々お膳立てしてやって捕まえ損ねただぁ〜
こちとら 入院費と手術費がまた必要なんじゃボケナスゥ!」
怒りに任せてアイアンクロー、これくらいやっても許されると思うよ。
だって頑張ったんだから、倒れるまでやったんだからさ。
「イデデデ ギブギブギブ、今回の取り分7:3でいいから許してください
イデデデーーー」
「8:2」
「いや流石に俺の取り分が・・・」
貴様に拒否権があるとでも?
「お前 小遣い 僕 治療費それとも9:1がいい?」
有無を言わせぬ恫喝だな、こっちも金が無いんだよ悪いな・・・
「すんません、でも昼飯代が・・・イデデデ」
そういやコイツ 学食だったな。
「作ってやるから安心しろ」
弁当なら今更一個や二個作る量増やしても対して変わりないし。
「マジで じゃあ10:0でいい」
チョロいな でもいいや有り難く頂いておこう
「まいど〜」
しっかし、こいつ昼飯作るだけでいいのか?
なんか悪いことした気分だな。
「あぁ、そういえばさっきの話マジか?」
「さっきのって何だ?」
「手術だよ、今度のはヤバイのか?」
何だよ 一丁前 に心配してくれるのか。
「あぁ〜、そんなに問題じゃない 腫瘍を切除するだけでリスクは
ほとんどないってさ」
間違ったことは言ってない・・・はず。
だって、女の子になりますぅ〜なんて言えるかっての
理由は特に無いけどなんか嫌だし・・・
「それならいいけど ヤバそうなら相談してくれ あとコレ
頼まれたもの持って来たぜ」
遅えっての頼まれものはさっさと渡せってんだ。
「先に渡せよ、あんがとさん 洗って返すよ」
はぁ、着替えを頼めるのはコイツくらいだし、
他にいない事はないけど変に話が拗れるのもなぁ・・・
流石にあの惨劇の二の舞は回避しないと・・
「そんじゃな、なんかあったら連絡くれ」
「おぅ、僕が戻るまでに犯人挙げとけよ」
念のために釘を刺しておく、コイツは目を離したらすぐ別の仕事し始めるし。
「ええっと いつお戻りになるので?」
「明日の昼」
「チョット張り込み行ってきまーす!」
「頑張ってこ〜い」
さてと、用事も終わったし寝るか・・・・・・
いくら倒れたって言っても寝足りないだなあこれが・・・
おやすみなさーい グゥ・・・