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ベストナイン

 最後の夏の大会が終わった。

 球場から帰るバスは、チームメイトのすすり泣きと嗚咽でしんみりしていた。

 鶫橋を渡って学校まで着き、応援してくれたチア部や保護者の方々に感謝したあと、部室を経由せず直接、土手のグラウンドまで移動した。縹川高校野球部恒例の、最後のノックが始まる。

 サード、ショート、セカンド、ファースト、レフト、センター、ライト。投手と捕手はノックには参加せず、最後の20球投げ込み。3年生全員で行う、大切な行事である。

 今年の3年生はちょうど9人。それぞれのポジションに一人ずつ。彼らにとっては最高のメンバーである。最後の大会は2回戦で惜しくも負けてしまったが、最後までどちらが勝つかわからないシーソーゲームだった。悔しい気持ちを原動力に、最後の練習を全力で取り組んでいく。手伝いに回る1,2年生は、先輩たちの最後の勇姿に大声で盛り上げた。

 土手のグラウンドには照明設備がない。夕日が縹川に映し出されはじめた頃、監督の最後の一本の号令がかかった。すでに試合で体力を使っている3年生、そこから約1時間の最後の全力ノック。へとへとの体を気持ちで動かし、最後の一級をにらみつける。

 一人、また一人と監督からの最後の一球を受け取り、本塁側に一人ずつ戻ってきては監督に挨拶をする。

 7人のノックが終わり、19球投げきった投手がマウンドに登る。捕手は肩をぐるぐる回して、最後の強肩お披露目にやる気全開。ノックを受け終わった二遊間コンビが、二塁付近で準備する。

 いつもどおりに振りかぶり、もうここで壊れても後悔しないという気持ちで、エースは大きく踏み出して右腕を振り切った。気持ちのいい全力投球。捕手はそれにぶつかるように捕球すると、二塁まで送球した。吸い込まれるような送球。二人の最後の全力投球も終わって、グラウンドは拍手に包まれた。

 1,2年生は先輩のこの姿を見て、次の新チームに向けて心を引き締めた。

 代替わりの大切な儀式が終わり、同時に縹川に夕日が落ちた。鶫橋からの群衆の拍手は、まだ鳴り止まない。

 

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