ゲリラ豪雨
嘘でしょこんなときに限って急な雨。
今日は熱中症になるくらい暑い日だったのに、下校時間に限って雨が降るなんて。
もちろん傘は持っていない。雨って傘を持っていないときに限って降ってくる。わざとでしょ。
とりあえず下駄箱のところで雨宿りしよう。川のすぐ側にある学校だから、洪水でもしたら危ない。
「あれ? 都まだ帰ってなかったんだ?」
「いやいや、こんな雨じゃ帰れないでしょ」
同じクラスの桃子だ。
「まぁね。てかさ、どうしよ、今日は斉藤くんの例のあれなのにさぁもう最悪」
例のアレとは、ハナ高特有の告白方法である。天気のいい日に鶫橋で告白するときに夕日が丸いほど成功率が高くなるらしい。今日はこの調子だと夕日は見られないし、天気が良くなっても水が濁って見た目も悪そう。
「かわいそうにねぇ、またのチャンスを待つしかないね」
桃子は恋に恋する女子高生。卒業式に片思いだった先輩の思い出の物をもらってたらしいけど、そんなことは忘れてもう次の人。
「まただよ!? 私春先にも斉藤くんに申請してたまたまその日に限って先生に呼び出し食らってさぁ、毎月チャンス伺ってたのになかなかいいチャンスなくてさぁ、もうすぐ夏休みだよ? せっかく今年の夏はいろいろ一緒に行こうと思ったのに」
「申請って。いいじゃん直接言っちゃえば」
「それは無理ぃ。絶対フラれるもん。鶫橋伝説使わないと普通に撃沈だよぉ」
「桃子のそうやって甘える姿は誰が見たって可愛いんだから、いけるって」
「無理ぃ」
自信もてよ乙女。そんな可愛い名前と癖を持ってるんだから大丈夫だって。
雨脚もだいぶ弱くなってきた。さて今日は桃子と恋バナしながらダラダラ帰ろかな。
と、その時。
「大、傘ある?」
マサル? 斉藤大?
それは聞いたことのある女子の声。
とっさに隠れる私。下駄箱の影から斉藤の姿を確認した。まちがいない。そしてその後ろにいるのは、隣のクラスの彩花だ。
まだ気づいていない桃子を強引に引っ張り込む。
「え、何?」
しーっと人差し指を顔の前に持ってきてサイレントシグナルを出す。
不思議そうな桃子が何があったのか確認しようと辺りをキョロキョロ。あ、だめだって!
「え、斉藤くん……」
アウトー! これはアウト!
桃子が斉藤を発見してしまった。
たちまち顔を赤らめる桃子かわいい。
しかし次の瞬間、斉藤の見えていなかった右側の肩から、彩花の髪が顔をのぞかせた。
「え、斉藤くん……」
さっきとは明らかにテンションが違う桃子。
雨上がりの校庭に消えていく斉藤と彩花。
そして下駄箱で固まる私と桃子。
ゲリラ豪雨は収まったけど、収まったあとは雨が降っていたときとギャップが大きすぎて戸惑う。
「桃子、帰ろ」
「うん」
これは土手道で桃子を励ます会3時間コースだなぁ。
もやもやする気持ちとアスファルトからの熱気がやけに体を重たくさせる。
校門を出て土手に上がって、目の前の鶫橋を見ることもなく、脇の土手を歩きながら桃子を励ます会がはじまった。
どす黒い雨雲からは、虹は出てこなかった。




