中洲
中洲という未踏の地に思いを馳せる。
もともと土手に座って、ぼーっと眺めながら、行き来する白い鳥を観察するのが好きで、それがエスカレートしたのか中洲自体に興味を持ち始めている。
背中の後ろで集団で掛け声をしながらランニングをする女の子たちのクスクス笑い声が聞こえてくる。どうせ私のことを笑っているのだろう。でも別にそんなの気にしない。中洲は純粋にそこに存在していて、私の興味の視線に隠れることもなく受け入れてくれているのだから。
土手に挟まれて、一部を鶫橋の影が覆っている、小さな森のような中洲。
白い鳥も黒い鳥も時々パーキングエリアみたいに移動中の休憩場所として利用している。
中洲に生えている木々には特に実がついているわけでもなく花が咲くわけでもないが、風のない日の夕暮れ時に、沈みゆく太陽と重なる様子は独特のゾクゾクするような美しさがある。
降り立ってみたいけど、一旦川を泳がないといけないし、物理的ではなくても精神的に神聖な場所と認識してしまって上陸できたとしても恐れ多い。
だから私は土手から眺める。眺めるだけで精一杯である。
上流から流れてきた水は中洲を通じて二手になり、また中洲を通じて一つになる。
中洲は再会のシンボルなのである。
あの島へもし行くことができれば、また女房と会えるような気がする。
でもそれはもうかなわない夢でもある。
その瞬間、風が吹いた。
夕日の濃い橙色が、ちょうど中洲を赤いペンで強く塗りつぶすように揺れた。
こっちに来てはだめだと言っているように。
夕日で手を振る中洲に、私は別れを告げた。