ランニング
土手沿いのランニングはへとへとになると足がふらついてきて、つまづいたら川まで落っこちてしまいそうだ。
鶫橋でぼーっと突っ立っている男子を尻目に、今日もバレー部全員で掛け声をあわせながらノロノロ進んでいく。
「ファイトー、ショイ!」
「ショイ」
「ショイ!」
「ショイ」
「ショイ!」
「ショイ」
ショイってなんだ?
わっしょいから来てるのはわかるけど、じゃあわっしょいってなんだ?
掛け声は習慣化して無意識のうちに出てくるので、ランニング中は考え事をする空間ができてしまう。
「ファイトー、ショイ!」
「ショイ」
「ショイ!」
「キショい」
「ショイ!」
「キショい」
キショい? 気色悪い? 悪口なんだけど、なんだか笑いがこみ上げてくる。
「ファイトー、ショイ!」
「キショい」
「ショイ!」
「キショい」
「ショイ!」
「キショい」
いかんいかん。でも一度考えだしたら止まらない。
「斉藤ー、キショい!」
いやいやいや、いかんよこれは。だめだよ。悪口がシンプルすぎるよ。でも、響きが面白くなってきてしまった。こうなったらもう……。
「斉藤ー、キショい!」
「キショい」
「キショい!」
「キショい」
「キショい!」
「キショい」
あーあ。完成しちゃった、不謹慎悪口掛け声。罪悪感はあるけど、聞こえてしまうんだから仕方ない。
それからランニングが終わるまで、ずっと笑いをこらえたまま走り続けた。空耳怖い。
そういえば、さっき鶫橋でぼーっとしていたのは2組の斉藤だったような気がする。んふっ。