全力下校時間厳守先生:権堂
生徒指導の先生は威厳があってこそ務まる。権堂先生はまさに絵に描いたような生徒指導の先生である。担当科目は保健体育、浅黒い肌に無数のシワ、パンチパーマで上下ともに白のジャージ、酒ヤケの声で竹刀ではなく木刀をいつも携行している。そっちの筋の人なのではないかという噂が生徒の間で広まっているが、もちろんきちんとした先生である。
そんな権堂先生は登校時間と下校時間に毎日校門の前で腕を組んで生徒たちを保護している。
「はいお前1秒遅刻、はいお前とお前もー、はいそこぶーたれないー」
権藤先生の流れ作業は今日も順調に進んでいく。生徒たちも怖くてなかなか言い出せないようだ。そんな時、ある一人の生徒が権藤先生にタレコミをした。
「先生大変! まだ校舎に残ってる生徒がいるみたい!」
「なんだと!? もうとっくに下校時刻は過ぎてるんだぞ!? まったく、どこのどいつだ!」
権藤先生は校門を閉めたあと、校舎まで走った。下校時刻だけは絶対に厳守していたのに、こんな所で記録が途絶えてしまうとは。先代に申し訳が立たない。権藤先生の心の中にはそれだけしかなかった。
突き止めた先は3年生のある教室。もう卒業間近で受験もあるっていうのに、一体何をしてるんだと権藤先生は怒っている。
ガラッと開けるとそこには二人の男女が立っていた。二人の間には包装された箱。
あ、そういうことか。権藤先生は勘付いた。今日はバレンタインデーだ。
「下校時刻過ぎてるぞ!」
権藤先生はいつもよりも弱めにそういった。弱めは弱めだが、普通の人からすれば怒号であることに変わりはない。
「す、すみません!」
頬を赤らめている二人の男女は、今度は顔面蒼白。
「もう遅いんだから、男子はちゃんと送ってあげること! それが守れないなら生徒指導だ! 守れるか!?」
「はい! 守ります!」
隣の女子生徒は顔をまた赤らめた。
「よし! 行け!」
逃げるように教室を飛び出す二人。それを見てため息をつく権藤先生。バインダーの遅刻者の欄には0とだけ書いて、教室をあとにした。




