ホームレスの家
いつものように土手の深い草むらの中にある秘密基地でのんびりしていると、外から草むらをガサゴソとかき分けてくる音がした。慌てて身構えると、汚い格好をしたおじさん。どうやらホームレスの人が迷い込んできたみたいだ。
「すごいな、兄ちゃんが作ったのかこの家」
「はい、まぁ」
おじさんはまるでモデルルームを見に来たお客さんみたいに端から端までしっかり観察して回った。これが本当の家なら立派な家宅侵入罪なのだが、そこはそんなに気にならなかった。それよりもおじさんの身体から漂ってくる悪臭のほうが気になって仕方がなかった。
「おじさんなぁ、昔は家作る仕事してたんだ。この家はちゃんとしてるから本当に雨風凌げそうだなぁ」
「あ、そうなんですね」
浩二と二人で作った秘密基地。浩二との大切な思い出がここには詰まっている。
「おじさんなぁ、家がなくて、いつもそこらへんの公園で寝たりしてんだ。天気が悪いと最悪でな。こういう家があるのって、幸せなことなんだなって、そんな家を作る仕事をしてたんだって痛感したんだ」
そんな事を言いながら、おじさんは僕が川辺で拾ってきたエロ本をペラペラとめくり、この女優は昔お世話になっただの、この女優はクスリで逮捕されただのどんどん話を進めていった。
「兄ちゃん、この家、俺が住んでもいいか?」
「えっ」
突然の申込みにドキッとした。もし僕が本当の不動産屋さんならヘコヘコしながら喜ぶだろうが、この思い出の詰まった秘密基地をどうしようか迷った。ただ、クサイ臭いの奥にキラリと光る銀歯と垢だらけのおじさんの笑顔に同情心が湧いてきて、結局了承してしまった。
「じゃあ、僕が管理人で、友達の浩二くんが大家さんってことで。たまに遊びに来るので仲良くしてくれるなら貸しますよ」
「よしきた! 家賃は新しいエロ本でいいか?」
「別にいらないです」
ガハハと豪快に笑うおじさんにつられて僕も吹き出した。入居祝にと古い瓶に入った何かの液体も差し出してきたが、怖かったので遠慮した。
その日から僕は管理人に、浩二は帰ってくるかはわからないが大家さんに。もし帰ってきたら焦るだろうな、と思いながら、影が伸びるおじさんの背中姿を見ながら秘密基地を後にした。




