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電話

 土手で拾った古いエロ本の中に、昔自分が書いたことのある作品があった。あの頃は自分の性欲だけを信じて書き続けたが、アイディアが尽きてそこからは全く相手にされなくなった。あの頃の懐かしさがこみ上げてきて、俺はその作品を読みはじめた。

 作品の最後に、この作品の主人公が出てくれる電話番号というものがあった。当時はけっこう電話してくれる読者さんがいたことを覚えている。もう10年以上前である。実はこの電話、俺の前の電話番号にかかってくるようになっていて、変声期をつかって俺自身がエロい女になりきって、読者の方と直接会話をするというものだった。そんな事も忘れるくらい時間が経って、電話番号ももう変えてしまった。

 何の気なしにその電話番号に電話をかけてみた。

「おかけになった番号は、現在使われておりません」

 ハッとした。

 使われるだけ使われて消耗したらポイ捨てされた過去とは違う過去を思い出した。

 原稿に追われる毎日。なのに電話もかかってくる。もう嫌になった俺は逃亡。そのまま10年以上行方をくらましている。手に持ったこのエロ本の会社はあのあとクレーム処理にも困っただろう。作品は途中で未完結のまま作者が行方不明になり、ある程度人気のあった電話企画も誰も出ない。電話番号を変えたのではない。前の番号を捨てて、前の自分を捨てて、新しい自分として新しい番号を手に入れただけだった。都合の良い記憶を作り続けて廃人となった俺は今、新しい自分としてこの古いエロ本と対峙している。

 古雑誌売の仲間に頼んでみると、この手のボロいエロ本は年代や状態によって値段はまちまちで、俺の旧作が載ったこのエロ本は5円で引き取ってくれた。

 今の無価値の自分と、昔の5円の自分。死にたくなった。

 駅構内で休憩していると、係員に追い出された。

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