月が綺麗ですね
告白というものは緊張するもので、誰かに頼めるならそうしたいくらいなのである。
だからこういう時こそ神頼み。鶫橋の神様に願いを託す。
「よっ」
「おう」
幼馴染の雄也が部屋着でこっちに向かってきた。
「待った?」
「全然」
本当はすごく待った。俺が誰か女子に告白するんじゃないかって噂になるくらい、ずっと鶫橋の上でタイミングを伺ってた。おかげで夕日の頃はとおに過ぎて、代わりに月が綺麗に水面に映っている。
「どした?」
「いやぁ」
「ん? 誰かに告白でもしようとして、言い出せなかった?」
「半分くらい正解、かなぁ」
「半分?」
遠くの方を見ていた雄也が振り向いた。
凛々しい顎元が、正面でもくっきりとしているのが良くわかる。
「好きなやつに告ろうかなって思って、ずっとタイミングはかっててさ」
「ほうほう、それで?」
ニヤつきはじめる雄也。今度は可愛い。
「今かなって思って」
「今?」
「うん、雄也、俺お前が好きだ」
「うん……うん?」
無理もない。変な空気が流れる。
「ごめん、困るよね。男が男を好きになるって、病気だよね、俺」
「いや、それは……」
逃げたい。呼んでおいてアレだけど、早く帰ってほしい。でもそばにいて欲しい。でも見られたくない。
誰もいない時間で本当に良かった。川のせせらぎ以外に雑音は無い。あるとしたら、それは俺の今にも破けそうな心臓のドクドクだ。
「ごめんほんと。でも今言いたいんだ。言いたくて言いたくて、タイミングとかどうでも良くなった。俺は雄也が好きだ。以上!」
「じゃあ、俺からもちょっと話そうか」
えっ? 何この展開。
「俺、正直びっくりしてる。毎日遊んでる相手だからなおさらね。しかもはじめてなんだ、告白されるのも、男からっていうのも。俺自身はそういうのに抵抗ないっていうか、気持ち悪いとかは特に思わない。それがお互いに本当に好きあってるならいいんじゃないかと思うよ。でも……」
でも、か。
「ごめん、俺正直お前のことは恋愛対象として見たことなかったし、今もドキドキしてるけどこれは恋愛のそういうのじゃなくてその、なんというか、緊張の? なんか変な感じのドキドキなんだよね」
「そう……」
「いや、落ち込まないで! っていうのは酷だよなぁ。どうしようこういうのわかんない……」
「あ、いや雄也は悪くなくて」
お互いに慌てて焦っているのが見え見えだ。
「俺は、お前を認めるよ。認めるって言ったら上からになるのかもしれないけど、別にゲイとかホモとか気にならないから、これからも普通に接するから! アレならみんなには話さなくてもいいし、カミングアウト? するなら手伝えるなら手伝うし」
「あ、うん、それは、大丈夫ありがとう」
「とにかく、俺は今は友達としてお前が大好きで、とりあえず今はそういうのは、ごめん。でもこれからも仲良くしてくれたら嬉しい、かなぁ。あ、あと告白されたのははじめてだから、それは本当に意外で、嬉しいのかよくわからないっていうか、よく分からないけどたぶん、嬉しいんだと思う。それは本当にありがとう。うん、そんな感じ」
正直、ここまでの反応を貰えるなんて思ってもみなかった。絶対に気持ち悪いと思われると思っていた。いや、もしかしたら無理してくれているのかもしれないけど、それも含めてありがたいと思った。
月が綺麗ですね、なんて洒落た告白もあるみたいなことを聞いたことがあるけど、そういう告白じゃなくてきちんと自分の言葉で伝えたいというかぶつけたかった。それが叶えられただけ良かったんだと思う。
このあと2人で雑談しながら一緒に帰った。お互いにさっきまでの事はなかったかのように話題を逸らし続け、無理やりに笑い合った。いつも通りに雑談できるようになるのに、それから1週間ほどかかった。あの時の告白は、たぶん雄也の中ではなかった事にされているんだと思う。でも、それでも十分だった。自分の気持ちをぶつけるためだけの告白は、結末がどうであれ、相手にあまりダメージが出ない方が安心するものだ。これでいい。これでいいんだ。
鶫橋で一緒に水面に映る夕日を見ると成功率が上がる。この伝説にはきっと兄弟伝説がある。それはきっとあの時と同じような、水面に映る綺麗な月が何かしら関係していて……あ、でも雄也とは一緒に月を見ていないからこれは関係ないか。あの時一緒に月を見ていたら、成功率は上がったのだろうか。そう思うと、月を見ずにずっと雄也の顎元を見ていた自分を少し後悔した。




