秘密基地
草いきれに蒸れる生暖かい匂いの秘密基地が、眼の前で青空を遮っている。
深い草むらで覆われている鶫橋の裏側。
その入り口には、長い二本の茎の太い草が、踏切のように交差している。
それをかき分けて入ると、川辺で拾った腐った畳を何枚も並べた床に、絵に描いたようなみかんのダンボールがぽつんと置かれている。
この秘密基地を浩二と作ったのは、ちょうど一年前だった。まさか転校していくとは思わなかったから、お互いに私物をどんどん持ち寄っていたのを思い出す。引っ越す前に一緒に整理したからもう何も残っていない。
いじめられっ子だった浩二はこの秘密基地を逃げ場としてよく利用していた。放課後は必ずこの秘密基地によって、いじめっ子が家に帰る頃を見計らって二人で一緒に帰っていた。この土手を覆っている深い草むらと鶫橋のおかげで、秘密基地はその秘密性を十分維持できていた。浩二が転校していくまで、ここは秘密基地のまま存在できていた。
いじめが直接的な原因なのかどうかはわからないが、浩二は夏休みのはじまりを待たずに、終業式のあとすぐ引っ越していった。長い夏休みのあと、いじめられっ子がいなくなった教室では新たなカモが選出されるだろう。そのときに一番狙われそうなのは、浩二と仲良くしていた僕である。
浩二はこの秘密基地で、何を思っていたのだろう。気が紛れるようにヘラヘラしていた僕は、やはり今思うと浩二がいたからいじめの対象にされていなかっただけで、浩二がいることに安心しきっていたのかもしれない。いざ自分が次の標的にされそうな今、僕はこの夏休みをどう過ごし、新学期からどうこの秘密基地と溶け込んでいけばよいのか。生暖かい風に乗って、不意に不安が襲ってくる。
橋の裏側で草むらと同化している秘密基地の中で、僕はこの秘密基地とどう同化し、草むらに変化できるのかをこの夏休みの自由研究にすることを決めた。
風に乗ってやってくる不安を遮断するために、僕は長い二本の茎の太い草を、踏切のように交差し直した。
僕の長い夏休みが始まった。