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超短編ホラー

超短編ホラー15「レムスリープ・ドリーム (不眠症の夢) 」

作者: 青木森羅


 不眠。

 それが私につけられた病名だった。


 ここ数週間、まともに眠れた記憶のない私は、それどもなんとか仕事に支障が出ないように頑張っていた。

 いたはずだったのだけれど……


 やってしまった。

 仕事中不意に訪れた立ちくらみでその場にへたり込み、目を覚ますとそこは病院だった。


「えっと……相模優子(さがみゆうこ)さん、ですね。最近は、よく眠れていますか?」


 一番近くの大きな病院に担ぎ込まれた私は色んな検査をうけ、白衣の先生に問診を受けていた。


「それが……眠りが浅くて、すぐに目を覚ましてしまうんです」


 そう答えた結果が不眠だった、検査を受けた結果はいたって問題がなかったそうだ。


「睡眠薬って飲んだことあります?」


「いえ」


 これまでの人生で睡眠に困ったことなど一度もなかった。


「そうですか。なら、あまり強くないお薬を処方させてもらいますので、しばらくの間は様子を見ていきましょうね」


 白衣の先生はニコリと笑った。

 私はお礼を言い、お辞儀をして診察室を出た。


 会計を終えて上司である秋田に電話をすると、


「大丈夫か、相模?」


 そう心配してくれた。


「この度は大変申し訳ありませんでした」


 電話越しだというのに頭を下げてしまっている自分が、妙に間抜けに思えた。


「いいさ。それで? 体の調子はどうなんだい?」


「今は良好です」


 私は、一日でも早く仕事に復帰をしたかった。いま、やっているプロジェクトは、私が長い間温めてきた企画がようやく日の目を見る機会を得たもので、どうしても失敗させる訳にはいかないんだ……!

 だけど、そんな私の気持ちを知らない彼は、


「本当か? とりあえず、最近疲れてそうだったから、明日まで休んでいていいよ」


 やさしさで言ってくれた事ではあるのだろうけど、私にはいらないお世話。


「いえ、明日にも復帰したいのですが……」


「いいから。明日の予定は、代わりに俺がやっておくからさ。ゆっくりと休むんだ、これは課長命令だ」


 最期の語尾には笑いが混じっていた、心配させまいとしているのだろう。


「じゃあ、ゆっくり休みなよ」


 そういうと、私の返事も聞かずに電話は切れてしまった。


 家に帰ってもこれといってやる事がない私、は久しぶりに料理でもしようかと近くのスーパーに買い物に行った。


(そういえば、こうやって食材を選ぶのっていつぶりだったかな?)


 ふと、浮き上がった疑問と共にある男性の顔が浮かんできた。


「……達也」


 そうだ、前の職場で出合った彼と住んでいた頃はよく料理を作りに行ってたんだ。

 けど彼と別れてから、同じ職場だと居たたまれなくて仕事を変えて、そして料理もしなくなって……


「そっか、忘れてたな……もう」


 あれから、三年

 彼氏ができる事はなかったけど、仕事にただがむしゃらに向かって進んで来れた。


「もう、いいよね」


 彼と一緒に忘れてしまった料理を、もう一度してみよう。


 誰もいないひとり暮らしの部屋。

 ガスコンロを少し掃除して、料理を作り始めた。久しぶりだったから、なんだか妙に気持ちが高ぶって多めに作ってしまった。

 残ったら、明日にでも食べればいいだろう。


 食器を片付けて、シャワーを浴びた。


「あ、そうだった」


 コップに水を注いで、テーブルの上に置くとカバンの中から白い小さな袋を取り出す。


「寝る前にこれを飲まないと」


 睡眠三十分前に服用と書かれた袋の中から、包装紙に入ったカプセル錠をふたつ取り出し、口の中に放り込んだ。

 ゴクン、ゴクゴク。


 テレビを消し部屋の明かりを暗くすると、部屋の中はカーテン越しに外から洩れる明かりだけになった。

 外の景色を眺められるように置かれたベットに潜り込む、ここから毎日眺める外の景色は私のお気に入りだった。ベランダの柵に少し邪魔はされているけど、それでも人口の明かりが見えているだけで良かった。


 天井を眺めるように体を横にした私は、うつらうつらと意識が夢の中に落ちていくのを感じていた。


(ベランダに……誰か、いる?)


 カーテンの隙間から見える外の景色に、顔の見えない男性が立っている。


(誰……?)


 そう思った途端、男はこちらにグワっと近づいてきた!


「!」


 声もなく、私は跳ね起きた。

 しかし、そのベランダには人の姿はなかった。


「また、同じ夢……」


 私の不眠の理由はこれだった。

 何度も同じように見る夢、それも全く同じシチュエーションで、誰かがこちらを覗いている夢。

 汗が流れ出た体と下着が触れ合っていて気持ちが悪い。


「着替えよ」


 そそくさと着替えを済まして、携帯電話で時刻を確認した。


「まだ、三十分も経ってないよ……」


 恐々としながらも、もう一度布団に入る。

 単なる夢だとは理解してはいるものの、何度も同じ怖い夢を見ると流石に滅入ってしまう。

 


「う……ぅん」


 私は、いつの間にか眠っていたみたいだ。


「いまは……九時か」


 いつもなら、すでに会社に向かっていなくては行けない時間だった。

 ただ、今日は急な休みだ。とはいえ、外に出かけるという訳にもいかないので、家の事をする事にした。

 掃除に洗濯、ここ一週間は忙しすぎてあまり手をかけていられなかった事をして過ごす事に決めた。

 そんな事をしていると思ったよりも時間が掛かってしまい、すでに昼過ぎだった。急いで昼食と、後から出かけるのは億劫だったので夕食分の食材を買ってきた。

 それからは、特に決まってなく家のPCでネットサーフィンしたりテレビを見たりと過ごし、お風呂に入って、寝る事にした。


(明日は、頑張らないと)


 今日、休みをくれた会社の為にもこれからはもっと頑張らないといけない。そう思うと、不思議と心の奥底から力が湧いてくるようだった。

 睡眠導入剤を飲んで、いつものように電気を消し、外を眺めて横になる。


(あの夢、今日は見ないといいな)


 そう願いながら目をつぶる。

 だが、そこにはまたあの男がいた。


(なんでこう、同じ夢ばかり)


 男はいつものようにベランダに立って、じっとこちらを眺めていた。

 ただ、彼を見て浮かんだ感情は恐怖ではなく怒りだった。


(あんな男に怯えなきゃいけないの!)


 私は思い切って布団を飛ばして起き上がると、


「どこかに行きなさい!」


 そう、叫んでいた。


「……あれ?」


 叫んだ。声を出して、布団を剥いで。

 ガラガラと、ベランダの扉がスライドした。フードを被った男の口元が笑みを作っていた。


「ゆ、夢だよね……」


 叫んだ、叫んでしまったんだ。本当なら誰もいないはずのベランダに向かって、意識をもって叫んだ。

 布団を剥いで、外から室内に入りこむ風で次第に寒くなる体。


「夢じゃないよ」


 逆光で男の顔は見えなかったが、声だけで分かった。


「か、ちょう……?」


 急いで口を塞いだが、漏れたつぶやきはソイツにも聞こえたらしく、

 ゆっくりとその影は頷き、私に迫ってきた……



 私の悲鳴を聞きつけた他の住人が警察を呼んでくれたらしく、私はなにもされずに済んだ。

 警察から聞いた話では、彼はしばらく前から隣に住んでいたという。その時期は、私が夢を見始めた時と不思議と重なっていた。


 予知夢、だったのだろうか?

 いや、たぶん違う。私には彼の姿が夢の中でも見えていたのだろう。浅い眠り、レム睡眠の時に。


 上司は、そのまま警察に連れていかれ実刑判決が出た。それ以降は、関わり合いたくなかったので刑事さんに尋ねる事すらしなかった。


 私はというと、仕事を止めてあの家を出た。今は別の街で平穏に過ごしている。


 けど、まだ時々あの夢を見る事がある。

 男がベランダに立っているのを。


 ただ、最近はなんだかおかしかった。夢の内容が変化しているのだ。家は今の家になっていて、またベランダから彼が覗いている。


 ただ、今の家にはベランダがないのだけれど、彼はどうやって覗いているのだろうか?


 浮いているなんて、生きている人間ならありえない事だろう。

 生きているのならば……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 改稿お疲れ様です♪ 文章の中でフルネームを書くのは好みではないのですが(不自然になるので)、医者の問診という形にもっていったのは自然な流れで上手いと感じました♪
[良い点] 日常に潜むホラー、いいですね。 ラストの引きも好みです♪ [気になる点] 達也の名前が出るまで主人公の性別が解りにくい感じがします。
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