粘着
図書館を歩いて数分後…。
小谷は後ろから付いてくる男の存在に気が付いた。
黒いスーツを羽織って帽子を深く被っている男が4人、小谷と佐々木から10メートルほど間隔を開けて歩いている。
最初は会社員かと思ったが、小谷と佐々木の歩く速度に合わせて歩く速さを調整しているのが分かった。
小谷は佐々木につけられていると告げる。
「佐々木、後ろに帽子を被った黒スーツの連中が俺達を付けているぞ」
「えっ?!本当ですか…?」
「ああ、何度も大通りを曲がったりしているけど…その度にこっちを見ながら付けているようだ」
露店の商品を覗くフリをしながら後ろを確認すると、確かに黒スーツの男たちが10メートルほど離れた場所に佇んでいる。
今いる場所は横浜市内の露天市場だ。
スーツを着た男たちが入るには些か不都合を感じる。
小谷はこれでほぼ確信し、佐々木に気を付けるように注意を促した。
「気を付けろよ佐々木、相手は4人のうち3人は人間種だけど…もう一人は亜人種のようだ」
亜人種の中でもとりわけ目立つ鳥人…。
ワシのような凛々しい顔立ちで小谷と佐々木と視線が合うと、鳥人は直ぐに視線を逸らした。
「たしか…鳥人って奴ですかね?半獣半人で足の指が3本の…」
「だな、結構かわった靴を履いているようだな、3本の指がピッタリ入る靴か…かなり早いかもしれんから万が一の時は全速力で逃げろよ」
「分かりました、ではこれからどうします?駅に向かいますか?」
「いや、とりあえずタクシーを見つけよう、タクシーのほうが安全だ。歩いて向かおう」
露店で駄菓子とラムネ瓶を購入してから小谷と佐々木は車の通りが多い国道でタクシーを拾う事にした。
幸いにもタクシーと書かれた車を見つけて小谷と佐々木は手を挙げる。
タクシーは小谷と佐々木の前に止まり、後部座席になだれ込むように乗り込む。
運転しているのは亜人種のリザードマンだった。
「お客さん、どちらまで?」
「横浜の龍風の宿までお願いします」
「…龍風の宿ですかい?」
小谷と佐々木が現在世話になっている龍風の宿に行くと言うと、リザードマンの運転手は困惑した様子であった。
「龍風の宿…あそこはかなり予約で一杯ですぜ、今から行っても宿に素泊まりでは…」
「いえ、もう俺達は予約を取っておりますので問題ないです。なるべく急いでください」
「わ、分かりました…」
タクシーが発進すると同時に、後ろでは黒スーツの男たちが慌てて仲間と思われるセダンカーに乗り込んで慌てて小谷と佐々木が乗ったタクシーを追いかける。
タクシーは道路交通法を逸脱しない範囲でスピードを出しているが、セダンカーのほうが早いようで、あっという間に距離が縮まった。
「あーっ…もう後ろに付けられていますねこれは…」
「もしかしたら俺達のことを探っているのかもな…どっちにしても龍風の宿につくまでに撒かないと…」
セダンカーは煽り運転するようにタクシーの後ろでパッシングをしている。
リザードマンの運転手はスピードを上げて逃げようとするが、セダンカーが後ろからガツンとタクシーに当ててくる。
後ろからだけではなく横からもぶつけてきたため、リザードマンはそれに激怒して逆にセダンカーにぶつけ始めた。
「クソがっ!!!俺の車に傷つけやがって!!!もう許さねぇぞおい!!!」
夕暮れの横浜で始まったカーチェイス、不安そうに運転手と相手の車を見つめる小谷と佐々木。
激怒しながらクレイジーな運転をするタクシー運転手のリザードマン。
必死にタクシーを止めさせようとする謎の男たち。
その光景は多くの横浜市民の目に留まり、まるで映画のような光景だったと語られる。
激走!YOKOHAMATAXI!
次回の予告タイトルにピッタリなセンスになるかもしれないと小谷は一瞬思ったが、そんな生優しいものではないと、この後思い知らされることになる。