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エリスさんモフモフ

ガムを噛んでいたら気管に入りかけて死ぬかと思ったので初投稿です

「みなさん、お茶が入りましたよ~」


今年で13歳になった宿の女将であるエリスの愛娘シェリーはドアをそっと開ける。

一時間前に倒れていた青年たちにお茶と菓子を持ってやって来たのだ。


ほうじ茶と醤油で味付けした煎餅せんべいを盆に乗せて青年たちとエリスのいる部屋に入る。

青年たちはやや困惑しながらもエリスからお菓子とお茶を飲んでくださいと言われ、真っ先に吉岡が礼を言って煎餅を頬張りだした。


「んん~っ!!!煎餅うまい!!!やっぱこれは現実だってハッキリわかんだね」


「よく部長はこんな非常事態な時でも煎餅食べれますね…」


「だって佐々木よぉ~…俺コミッションで金使いすぎて一日一食しか食べれないんだよ…だから無料ただで食べれる時に食べるしかないんだ!」


「シャキッとした眼差しで見つめられながら言われても、それダサいだけですよ」


佐々木に華麗にスルーされるも、煎餅を美味しそうに食べる吉岡を見てエリスは口元を抑えて笑った。


「うふふ…吉岡さんってば、そう慌てなくてもまだお煎餅はありますし…はっ、うっかりしてましたわ…改めて紹介します。私の娘…シェリーですわ、シェリー…皆さんにご挨拶なさい」


「あ、は、初めまして…シェリーと申します…以後、お見知りおきを…」


シェリーはペコリとお辞儀をすると、それに合わせるように歴史研究部のメンバーは一斉に頭を下げた。

大和撫子に相応しい桜色と紅色の二部式着物を着ている。

エリスと同じ獣人種である彼女は狐の顔立ちをしていて、これまた吉岡のストライクゾーンに入りそうになる。

だが、吉岡はここでグッと堪える。


(ケモロリは確かに素晴らしいが…口説くのはいけないよなぁ…いや、その前にエリスさんが未亡人とはいえ…人妻に手を出すのはどうか…だが、せっかくのメスケモさんだぞ?!空想上の世界でしかいないとされている獣人さん!!!モフモフしたいと願いながら数十万円を絵師さんに貢がせて色んなメスケモのお姉さんのイラストを描かせて貰っていたんだ…目の前にいるとぉっ…このまま悩殺されかねん!!!)


暫しの間お茶を堪能した後で、吉岡たちは部室に入ってエリスとシェリーにパソコンを見させた。

部室と共に転移してしまった吉岡たちだが、その原因やらがわからない以上、いつ帰れるか不透明のままだ。

幸いにも友好的に接触できたエリスやシェリーたちのおかげでなんとか生きているが、この先どうなるのか見当もつかない。


一先ず「エリスさんやシェリーさんに助けてくれたお礼に映画でも見せてあげよう」と吉岡が提案してきた。

金も渡せるものはないが、せめてこれぐらいはと吉岡の提案に部員全員が賛成した。

エリスとシェリーは夜8時になったら見に来ますと言って、夕飯の支度をしに一旦一回に戻って行った。


「…で、部長…俺達これからどうします?いつまでもエリスさんに迷惑かけるわけにはいきませんし…かと言ってこの亜細亜連邦の国籍をもっているわけじゃないし…」


エリスとシェリーが出て行った後で丸山が吉岡に不安そうに尋ねた。

吉岡達は部室に自分達が使っているカバンやバックの類を持ってきており、財布には紙幣やクレジットカード、健康保険証、小谷に至っては自動車免許証まで持ってきている。

だが、これらのものを警察に届けても「は?」の一言で思考がフリーズしてしまうに違いない。


『俺達未来から来たんですよ(笑)』


『こんな奇怪なものを持ち歩いているなんてお前たちは何者だ?拷問だ!とにかく拷問にかけろ!!!』


…憲兵に無実でも自白・・を強要されるのがオチである。

第二次世界大戦のタイムスリップものの小説ではオーソドックスになんやかんやで「山本五十六海軍司令官に会談する」「陸軍のお偉いさんに面会する」「やんごとなき御方の御前でお話する」の三パターンにたどり着く。


だが、この世界は吉岡達、歴史研究部が作り上げた「カオス第二次世界大戦MOD」の世界に非常に酷似した場所だが、海軍や陸軍やお偉い御方の御前で面会できるかわからない。

ゲームの各国歴史概要は詳しく書かれているが、大臣ならまだしも末端職員や軍人がどのような人事でどのような方針で物事が進んでいるのかはまでは設定できない。


「とりあえず各国の歴史概要をもう一度よく読んで確認するしかないな…小谷、こいつは…もしかしたら俺達がいるこの世界はカオス第二次世界大戦MODの世界じゃない可能性もある」


だから吉岡達からしたら自分達が作り上げた世界のはずなのだが、もしかしたら自分達が想像した世界と空前絶後の範囲で酷似した全く別の世界である可能性も捨てきれないのだ。

SF映画でよくある「別次元の世界」…異なる歴史を歩んできたもう一つの地球の話なのだ。

獣人も亜人も空想上の世界だった吉岡達だが、こちらでは何万年も前からこの地球で繁栄した知的生命体だ。


どんな反応をして、それがどんな結果をもたらすのかまでは把握できない。

あの1KBしかないテキストファイルが吉岡達のいた世界と獣人や亜人が暮らすこの世界にリンクないしジャンプするための手段だったとしたら…。

なぜ歴史研究部が飛ばされたのか…?という結論に至る。


考えていても仕方ないからパソコンを起動して様々な国家の情報がこちらと正しいのか比べる必要が出てきた。明日図書館でこちらのゲームテキストにある資料とじっくり睨めっこして差異があるかないかだけ確認するということで歴史研究部の目的は一通り決まった。


夕食の時間が終わり、宿の時計で午後8時丁度、吉岡の腕時計で20時3分にエリスとシェリーが吉岡達の部屋にやってきた。

仕事を終えた二人は作業着姿ではなく、ちゃんとした服装で入ってきたのだ。

エリスは入学式とかに出席するときに使うような紫色のセレモニースーツで、シェリーは黒っぽいシャツと紺色のスカートを履いている。

二人ともまるで出かけるようにやってきたのだ。


「えっと…エリスさんにシェリーちゃん…この機械で映画を観るからもっとラフな格好でもいいんですよ?」


「えっ?!でも映画を観るのでしょう?あまりはしたない格好では…その、映画を観ている他の人からも見られませんか?」


エリスはどうやらパソコンの液晶ディスプレイ側から他の観客から見られるのではないかと思い、化粧までしてやってきたようだ。


(確かに映画を観るって言われたら昔の人だと映画館のようにデカい建物の中に入りにいくような感覚だからなぁ…今はスマホとかからでも視聴できるからこれもジェネレーションギャップってやつか…)


(次からは気を付けないといけないですね…エリスさんは俺達のこと理解してくれたはいいですが、これじゃあ情報量が追い付けなくなってパンクしちゃいますよ…)


佐々木と丸山は耳元でひそひそと囁いている。

1938年ではパソコンはおろかDVDやビデオデッキは無い時代、映像媒体を見るには映画館に行くしかなかった。テレビ技術自体はベルリンオリンピックで試験放送がされていたことからテレビ自体はあったのだが、まだ実験の域を超えていない。

1941年にアメリカで白黒テレビが放送されるまでは一般庶民がテレビを見るということはまずなかった。


部室はどういうわけか電気が通っているが、スマホと同様にインターネットアクセスだけはオフラインのままだ。

それに、吉岡達歴史研究部をコノ場所に転移させた1KBのテキストファイルは探したが何処にも見当たらなかった。あれがあれば…なにか重要な情報を掴めたかもしれないが、無くなってしまってはその手掛かりすらつかめない。


(そう物事は単純に解決できないってか…)


吉岡は少しため息をつきながらもパソコンの電源ボタンを押した。


「吉岡さん、その箱と鏡のようなものは一体なんでございますか?」

「この箱はパーソナルコンピューター、そしてこの鏡のようなものが液晶ディスプレイというものです。私達がいた世界では一般庶民でも買える代物ですよ…ただ、こちらの世界ではコンピューターは開発段階で計算処理能力も遅く、そして機械も巨大なはずです…この時代には相応しくない代物かもしれません」

「そのようなものを私達が見ても大丈夫なのでしょうか…?」

「見るだけでしたら大丈夫です、箱に入っている機械は繊細なのでいじらないようにしていただければ問題ないかと」

「わかりました」


エリスは異質な箱に入っている機械という認識だったが、当時の人達からしてみれば無理もない代物であることには変わりない。

吉岡がパソコンを起動させてパスワードを打ち込むと、画面が表示される。

画面に映っているフォルダーやらゲームアイコンやらエロゲーのアイコンやらがあるが、華麗にスルーする。


映像ファイルの中から『健全・・映画』の項目をクリックし、映像や作品の著作権保護期間が終了した作品などを集めた「パブリックドメイン」と呼ばれる安価で購入できる映画ファイルが吉岡のパソコンに30本以上あり、その映画の中から1950年代までに製作された白黒映画の中から吉岡は一本の映画ファイルをクリックして再生ボタンを押す。


歴史研究部で以前研究していた『20世紀前半における映画史について』で取り上げた中でも歴史研究部一同全員が太鼓を押して絶賛した映画だ。

1926年にフリッツ・ラング監督によって製作され、あまりにも製作費がかかりすぎて制作会社が倒産するほどだったが、その作品によって様々な人々がインスピレーションを受けた名作映画。


「メトロポリス」


その映画を皆で椅子に座って鑑賞会を行ったのだ。

エリスとシェリーはその映画をのめり込むように鑑賞し始めた。

佐々木が気を利かせて紙コップに2リットル入りのペットボトルに入っている烏龍茶と柿ピーを一人一つずつ渡して皆で液晶ディスプレイに移る映画を堪能する。

資本階級と労働者階級に二極化された世界を巡る物語はエリスとシェリーでも十分に分かる話だったようで、映画が終わりエンディングに入ると二人は拍手して堪能した様子だ。


堪能した二人は吉岡達にお礼を言って自室に戻って行った。

同時に歴史研究部のメンバーも二人が映画を楽しんでくれたことに感謝しながら、明日の為に資料のまとめを作るために夜遅くまで作業をするのであった。

あと吉岡は獣人のエリスに心を半分ぐらい奪われていたのだが、それは歴史研究部のメンバー全員が知っている。

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