転移先は良く知っている世界でした
親友と仲直りしたので初投稿です
◇◇◇
「シェリー、上のお客さんはまだ寝ているのかい?」
30代後半ぐらいの壮年の女性がシェリーと呼んでいる少女に尋ねる。
シェリーという名前を題材にした曲もあるぐらいだ…うん、そのシェリーではないぞ。
ただ、あの曲は名曲だし一度は聞いてもらいたいものだと吉岡は思ってます。
気になる人はウェブ検索エンジンでチェックしてみよう。
「ううん、お客さんは今朝部屋を引き払ったよ、さっき私が掃除したし…。」
「何の音かね…部屋の本棚の本が落ちたのかしら…ちょっと二階に行って様子を見てもらっていいかね?」
「うん、分かったよ母さん。見てくるね」
シェリーは母親に見てくると言って二階を駆け上がる。
先程掃除したはずの部屋だ。何の問題もないだろうとドアノブに手をかけて部屋のドアを開ける。
するとそこには4人の青年が見たこともない部屋でうずくまっていた。
内装は非常に近代的で、この宿にはふさわしくないほど立派な作りをしており、机の上には見たこともない機械が鎮座している。
皆、気を失っており、シェリーは思わず金切り声のような悲鳴を上げた。
「キャーッ!!!母さん!!!大変!!!男の人達が…倒れているよ!!!」
悲鳴を聞いてシェリーの母親が慌てて駆け付けると、確かに若い青年が倒れ込んでいる。
呼吸はしているが、気を失っているようだ。
呼びかけても反応が無い。
「シェリー、すぐにお湯とタオルを持ってきて、それと当番のエディさんを呼んできて頂戴」
シェリーは母親に言われた通りにお湯とタオルを持ってきた。
当番のエディもやってくる。
エディは目の前に倒れている4人の青年を見て驚きつつも、シェリーの母親に言われた通りにベッドに寝かせる。
シェリーの持ってきたタオルにお湯を付けると、絞って青年らの頭の上に置いて様子を見ることにしたのだ。
青年らがどんな経由でこの宿に入ってきたのかは分からないが、彼らをほっとけないのだろう。傍にいて青年らの目が覚めるまで椅子に座ってジッと待っていた。
「う~ん……………寝ちまったか」
一番最初に目を覚ましたのは吉岡であった。
変なテキストファイルを開いてパソコンがおかしくなったところまでは覚えている。
だが、それより先は全く覚えていない。
暫く寝てしまったような感覚が体中にあるような気がする。
何故か頭の中で「海ゆかば」の曲が流れている。
あぁ、相当寝ぼけているのだなと自分に言い聞かせて再び寝ようとする。
だが、ここで吉岡は気が付く。
(なんで俺ベッドで寝ているのだろうか…)
確か部室にいたはずだ…ふと、見知らぬ天井というか覚えのない部屋にいることに気が付く。
「こ、ここは…ッ!!!!」
がばっと上半身を起こして部屋全体を見渡した吉岡の目に映ったのは、壮年の女性が座ってこちらを見ていたのだ。
だが、ただの女性ではない。吉岡の大好物である獣人の女性だった。
白銀の髪に狐の顔をした女性、モフモフな尻尾もあり、しかも胸もデカいときたもんだ。
吉岡にとってこれほどまでにない【最高女性獣人】が目の前にいるのだ。
余りの衝撃にそのまま胸がキュンとなってしまい、そのままベッドに頭を打ち付けるように倒れてしまっ
た。
◇◇◇
「部長!部長!起きてください!!!目の前に部長の大好きなモフモフな人がいますよ!」
「…ハッ?!ここは一体…それにこの素敵な女性型獣人さんは?ここは楽園か?」
「あらあら素敵だなんて、お世辞でもおばさん嬉しいわ…」
「部長、口説くのは一先ず後にしましょう。どうやら俺たちはとんでもない場所にいるようですぜ、こちらの女性はエリスさんです。俺たちはエリスさんから先に話を伺いましたが…覚悟して聞いていただきたい」
吉岡が二度目に気を失ってようやく彼の目が覚めたところで、吉岡はエリスから重大な話を聞かされたのだ。
とはいっても、吉岡は筋金入獣人愛好家魂を必死に抑えてエリスの話を聞く羽目になったが…。
エリスによれば、この場所は横浜だと答えた。
ただ、横浜と言っても現在の横浜ではない。
エリスは今年を西暦1938年と答えたからだ。
1938年…あの変なテキストファイルに書かれていた数字も1938と書かれていた…何か関係あるのかという前に、会話の中に重大な情報が投下された。
「この国は亜細亜連邦に属する日本州ですわ、あまり歴史には詳しくは無いのですが…15年前に連邦制に移行したと言われています」
亜細亜連邦日本州…それは吉岡がカオス第二次世界大戦MODで設定したアジアに属する国家の国名と一致した。そして情報は絨毯爆撃の如く投下されていく。
「…詳しく知らないということはエリスさんはもしや移民の方ですか?」
「ええ、14年前に…強硬的な宗教を後ろ盾に持った者たちによって祖国で革命が起きて…国を追われたのです。着の身着のままの状態で逃げてきました…」
「14年前…というと1938年から逆算して1924年…あっ?!ゲルマン・コミューン政権の獣人種族の迫害!?」
「はい、その通りです…」
吉岡は思わず叫んだ、ゲルマン・コミューン政権と。
それは小谷が歴史設定で作った国家と一致したのだから無理もない。
ドイツ・デンマーク・オランダ・オーストリア・チェコ一帯を支配地域に治めるゲルマン・コミューン政権は「人間種が信仰する西欧教の元で国民は平等であるべき」をスローガンに第一次世界大戦後の1919年、戦争に敗れ全ての植民地を失ったプロセイン帝国で広まった宗教社会主義思想が元だ。
ヨーロッパは西欧教と呼ばれるキリスト教に類似した宗教を信仰している者が多く、大戦で心を痛めた民衆の多くはこの西欧教にすがるようになり、やがて西欧教のバックアップを受けたプロセイン社会主義党が大幅な議席を獲得する。
その一方で国家元首のレオパルド・リヒテンシュタイン皇帝は亜人種の長耳族であり西欧教ではなく精霊教を信仰していた。西欧教以外の者を排除するべきだと主張するプロセイン社会主義党を危険視して1923年10月にプロセイン社会主義党の解散を命じた。
だが、プロセイン社会主義党はこれを拒否してプロセイン帝国南部で革命軍と名乗り反乱を起こした。
反乱は次第に大規模になり軍では鎮圧しきれなくなる。
1924年6月9日、プロセインの帝都ベルリンは軍から離反し蜂起を起こした治安部隊と市民によって制圧された。
帝国を脱出しようとしていたレオパルド・リヒテンシュタイン皇帝以下一族は革命軍支持派の市民に捕らわれて市中引き回しの末、革命軍によって銃殺刑に処される。
国名もプロセイン帝国からゲルマン・コミューンとなり、西欧教を信じぬ者は異端者であると公言するようになった。
プロセイン帝国に住んでいた亜人や獣人種族にとって、自分たちが信仰している宗教はそう簡単に捨てられるものではない。祖先から信仰していたものを易々を変えられないと多くの者が国外に脱出を図った。
その多くは亜人や獣人を受け入れていた隣国スカンジナビア共和国に逃げたが、すぐに国境が閉鎖されると完全に警備が行き届いていないアルプス山脈の国境を越えて亜人や獣人を受け入れている亜細亜連邦などの遠方の国家に脱出した。
エリスの場合は後者であった。
アルプス山脈を越えてゲルマン・コミューンとは政治的中立の立場をとっているヴェネツィア同盟を経由して亜細亜連邦に向かう際に夫を肺結核で亡くしており、エリスはゲルマン・コミューンに対して良い印象を持ってはいない。
「私は幸運にも脱出できましたが…それからは隣国との国境はかなり厳しい警備になり、脱出できない状況になったと聞きます。ゲルマン・コミューン政権は西欧教に改宗した亜人や獣人に対してのみ、国民として認めているそうですが…それ以外の人達はケダモノ扱いしていると…一昨年脱国した者がそう証言していました、政府は根拠のない陰謀によって国を動かしていると…」
「それが”ゲルマン・コミューンの陰謀”…か…確か佐々木の首脳陣営設定でもあったな…」
「ええ、ですが…あの時に思いついた設定が…こんなに現実となってくると…俺の胸が痛いです…」
佐々木の設定したゲルマン・コミューン首脳陣営設定では【ゲルマン・コミューンの陰謀】というフォーカスによってゲルマン・コミューンに対してマイナス補正がかかっている。
そのマイナス効果は…
●国民総生産能力マイナス5パーセント
●徴兵兵士数マイナス5パーセント
●国民団結度マイナス5パーセント
…の三つである。
宗教社会主義となった結果、西欧教以外の宗教は弾圧の対象となり、たとえ歴史ある文化遺産でも”西欧教の教えに背く”という理由で他宗教の教会や博物館などを爆破したりと某イスラム過激派組織のようなことをしでかしているのだ。
国民は表では政府に忠誠を誓っているが、実際のとこ過激すぎる教えであるが故にまともな人間からしたらウンザリしているというのが現状である。
一応そのマイナス補正を補うように【西欧教による軍内部の統一】というフォーカスがある。
これはプラス補正効果であり、主に…
◯陸軍戦術教義補正プラス5パーセント
○戦車生産能力プラス5パーセント
○空軍・海軍ユニットの移動速度プラス2パーセント
戦闘面で若干有利になる補正が付いているのだ。
あくまでもゲーム、ゲーム内の内容として設定しただけの話のはずなのだが…。
こうも第二次世界大戦を模した歴史世界に転移するなんて誰が思いついたのだろうか…?
(俺達の知っている歴史が壊れる…?)
いや、吉岡…これ君が主導で作ったMODの世界線の歴史だからな?それ理解しようね?
というわけで、カオス第二次世界大戦MOD~転移された青年たち~の幕が切って落とされたのである。