推定理論
今朝通勤途中に、雪道を走っていたら紅葉マークを貼った軽トラが、黒塗りの高級車に衝突したのを見たので初投稿です
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「…で、二人は追手から逃げてきたって訳か…どったんばったんすっごーいカーチェイスアクションを繰り広げながら…」
吉岡は温かいタオルを持ってきて、ビルの粉塵まみれになっていた小谷と佐々木に言いながら渡す。
エリスの手伝いを嬉しくやりながら仕事に励んでいたところ、突然ドーンと建物が揺れるような大きな衝突音に驚き、窓の外を見てみると車が派手に龍風の宿の前の雑居ビルに突っ込んでいたのだ。
雑居ビルは幸い空き店舗だったこともあって死者はいなかったが、雑居ビルに突っ込んだ車は白煙を上げて運転席と助手席にいたリザードマンと鳥人は血塗れになって意識を失っており、後部座席にいた小谷と佐々木は外壁を突き破った衝撃で発生した雑居ビルのきな粉色の粉塵に身体を被ったまま、辛うじて意識を保っていた。
エリスがすぐに警察を呼んできたのだが、その警察がどう見ても普通の警察官ではなかった。
物々しく短機関銃で武装した警察官が黒塗りの車両を連ねて現場付近を封鎖したからだ。
小谷と佐々木に怪我は無いかとエリスが駆け寄って尋ねると、二人は怪我はしていないと告げる。
運転席と助手席にいたリザードマンと鳥人は黒塗りの車両に入れられる。
その後に一般の警察官に現場の指揮を任せると、そそくさと去って行ったのだ。
(こりゃ…ただ事じゃないな…いや、すでにこんなに派手にやってしまうとはな…あいつらに何があったんだ?)
落ち着いた際に吉岡は小谷と佐々木にタオルを持って話しかけて今に至る。
「図書館から出る時には…あの鷲のような頭をした鳥人グループに後をつけられていたのに気が付いたんですよ、それで駅まで逃げようと考えたのですが…」
「…図書館の最寄り駅までの道が狭い上に、万が一塞がれたら逃げ場が無いと判断した。だから俺がタクシーに乗るように提案したってわけだ」
「そうだったのか…しっかしよく付けられているって分かったな」
「そりゃ露店が並んでいる場所に黒スーツの着た連中が佇んでいるのはおかしいだろ?あと仕草だよ仕草…黒スーツの連中は首元に手を当てて何か話をしていたからな、多分小型無線機みたいなものを使って車の連中と連絡とっていたんだろ…多分、もう俺達の正体がばれたとしか思えない…」
「まじかよ…じゃあ転移者ってもう分かったのか?!俺達昨日はどこにも出かけていないのに何で分かったんだよ?」
小谷は場違いな黒スーツの男たちと、彼らの仕草によって狙われていると判断した。
その推理は半分当たっていた。
警察がその日のうちに捕まえた鳥人を優しく尋問した所、政府高官の家族等を狙った誘拐集団だと判明したのだ。
彼らは大企業の重役や政府高官などを誘拐して身代金を要求する悪党であり、これまでに7件もの誘拐事件に関わっていた大物であり、その身代金の一部を孤児院や病院に『名無しの善人』という名前を添えて寄付を行っていたようで、いわゆるダークヒーロー集団のような組織である。
しかし、彼らは誘拐する相手を間違えた。
小谷と佐々木は昨日転移したばかりの人間だ。
警戒していた小谷と佐々木が視線を張り巡らされた結果、その警戒網に引っかかり尾行していたのがばれた。
そして、彼らは転移者ではあるが金持ちと言われるほど富裕層でもない。
仮に捕まったとしても彼らの知っている人は龍風の宿にいる吉岡と丸山、エリスとシェリーと当番のエディしかいない。
万が一小谷と佐々木が捕まっていたら…エリスは内務省直属の諜報機関のメンバーであるので、父親のヘルマンに緊急電を送って軍隊を動かしてでも捜索して見つけ出そうとするだろう。
尋問した警察官は鳥人に同情こそしたが、その犯罪を見過ごそうとは思わなかった。
例え一時的に貧しい人々を救ったとしても、名無しの善人が行った行為は誘拐という罪の重い行為である。
犯罪は犯罪だ。
より深く調べると、身代金の大半は彼らの私服や豪遊費に賄われたのだ。
あの黒塗りのセダンカーも彼らが足回りとエンジン部分をクロノA2の純正品から競技レース用の部品にカスタマイズした特注車であったことも判った。
その後、名無しの善人のアジトが判明し警官隊が突入。
小谷と佐々木を誘拐しようとしていたメンバーは鳥人が捕まったことを受けて、アジトを放棄しようと撤収作業の真最中であったことも災いして一網打尽に捕まってしまった。
この少なからぬ小谷と佐々木の功績は、当然エリスにも情報が届くのであった。




