カオス第二次世界大戦MOD完成!
親友と大喧嘩したので初投稿です。
Hard of Blow Force
略してHOBFはノルウェーのbravery社から発売されたリアルタイムストラテジーゲーム(略称はRTS)である。
主にプレイヤーは世界各国の大統領や総理大臣といった国家の重鎮となって国を運営しながら、迫りくる第二次世界大戦を生き抜くゲームだ。
ゲーム開始時は1930年、1935年、1940年、1943年の4つであり、それぞれ史実に沿った軍備ユニットが自国に置かれている。
歴史にもしがあった場合の世界…例えば太平洋戦争でオーストラリア・ハワイを占領し太平洋の王に君臨する日本帝国や、鍵十字で埋め尽くされるヨーロッパから欧州完全赤化に成功するソビエト連邦など、もしかしたらあり得たかもしれない歴史を指導者や最高司令官の立場で遊ぶのがこのゲームの醍醐味だ。
きめ細かな歴史イベントや外交設定、動作環境の扱いやすさからやりこみゲーとして幅広いユーザーに支持されており、ユーザーの有志で作られたMODと呼ばれる改造データが数十万と作られている。
その中でも特に人気なのは、空想上のドラゴンやエルフ、魔法学や錬金術などのファンタジー要素をゲームの中に取り入れたファンタジーMOD「fantasyWW2」1900年から歴史分岐し、スチームパンクな世界線の第二次世界大戦MOD「England Of stream」の二つはゲームを購入したユーザーの半数が必ずといっていいほどダウンロードしているものだ。
歴史が好きな人なら必ずプレイしているゲーム、それがHOBFだ。
それはこの場所でも例外ではない。
東京にある某有名私立大学に置かれている「歴史研究部」
彼らは年度末に行われる部活動発表会に備えてこのHOBFを使ったMODを作っている最中であったのだ…。
「部長!スカンジナビア共和国に大量の獣人科学者亡命イベントって…これ部長が獣人大好物人間だから入れたんですか…これ入れるとスカンジナビア共和国の科学力かなり底上げしちゃって逆にバランスブレイカーになりかねないですよ!」
「いいじゃねーか!獣人は俺にとってハートなんだ!獣耳好きとはわけが違うよワケが!!!」
「せめて5人だけにしてくださいよ!!!なんで一度に30人も亡命してくるんですか!!!殆どの技術項目に50パーセントもプラス補正掛かってますよ!!」
「それは大キエフ公国のポーランド領を占領したゲルマン・コミューンの連中が迫害したんだ!それに英国は英国第一党が政権握っているからヨーロッパで逃げ場が無いのよ逃げ場が…」
俺はケモナー、はっきり分かるんだ…とため息をつきながらMODの修正に取り組んでいる部長は三年生の吉岡守だ。
吉岡の担当は各国の配置ユニットや国境の位置情報と各国主要イベントの入力作業である。
現在作っているMODは有史以来の歴史をかなり入れ替えてしまったMODで「カオス第二次世界大戦(仮)」というタイトルで制作が進められている。
架空の第二次世界大戦が行われたらどうなるのか…。
もし、人類の他にも高い知能を持った種族がいたら…をコンセプトに作られている。
この世界の歴史では、人類・亜人・獣人の三種類の種族が誕生しており、亜人は人間と獣人のハイブリッドだったりエルフや猫耳やアラクネとかがこれに分類される。
正確に言えば鳥人とか爬虫類人とか明らかに人外な見た目でも亜人扱いに分類されたのは細かく設定過ぎるとゲームでエラーが起きてしまうからである。
その中でも獣人は吉岡が愛してやまない。Furryとか言われている顔がモロに動物を頭部を除いてほぼ人間化したのが好きな上に、ニッチな同人イベントまで顔を出すから愛が重たすぎる。
軍人や政治家のアイコン画像は漫画研究部など吉岡や他の部員のツテでほぼ無償だったが、獣人系のアイコンだけはこだわってケモナーで有名なイラストレーターなどを総動員し全てコミッションで描いてもらう徹底ぶりである。
その結果コミッションの依頼費用が30万円もオーバーしてしまう。
部費の三分の二を使っても金が足りなかった結果、ポケットマネーまで出してイラストを完成させたのだから他の部員は尊敬していいのか呆れていいのか解らないと思ったそうだ。
ケモナーの鏡である。
その隣で家から持ってきたノート型のゲーミングパソコンで黙々と作業をしているのは吉岡と同じクラスで副部長の小谷進次郎。
口数は少ないが、言われた仕事は難なくこなしているので、部長から頼りにされている。
小谷の担当は各国の歴史設定、政治状況や戦術、国内の治安の安定性及び生産能力の設定作業だ。
カオス第二次世界大戦では、ゲーム開始時には殆どの国家を同一の生産能力で均等化させてあるのだ。
というのも、史実のアメリカのような超強大工業国家があるとゲームバランスが崩れてしまうからだ。
1941年時だと米国の工業力は民需工場だけでソ連の3倍、日本とは10倍もの差が開けているのだ。
1年から2年程度であればまだ生産体制が整っていないアメリカに対して枢軸陣営に勝機はあるが、それを過ぎるとアメリカが物量に物を言わせて枢軸陣営を圧殺してしまう。
このゲームでは枢軸陣営側は1941年のアメリカ参戦までにどれだけ軍隊を有して攻略するかが重要である。
ただ、先も言ったようにカオス第二次世界大戦MODでは各国の戦力は均等化されているので、AIやプレイヤーの行動次第で戦局はコロコロ変わっていくように調整されている。
先程部長に文句を言っていたのは二年生の佐々木英二、赤い眼鏡が特徴的な奴である。
元々ゲームをあまりやらず、家でゲームで遊ぶのを禁止している家庭に育った為、大学進学で初めて自分専用のゲームを買ったのが偶々HOBFだった。
HOBFを買った途端に完全に虜になってしまい、どれだけの最小防衛戦力だけでポーランド軍はドイツ軍の猛攻を耐えられるか?真珠湾攻撃と同時に日本がソ連に宣戦布告して両国を降伏まで追い詰めることができるか?アルバニアだけで枢軸陣営に勝利するといったHOBFをプレイしている人間からしたら「マゾにも程がある」と言われるような戦力差の厳しい戦い方を行い、それで勝利してしまうような人間だ。
吉岡からは「佐々木とオンラインで対戦すると10回中1回勝てればいいほうだ」と言うぐらいなので、歴史研究部の中では一番このゲームをやり慣れている。
佐々木の担当は各国の首脳陣営、研究技術陣営の構成、外交イベント、兵器の設定である。
彼がこだわったのは兵器の設定で、例えば獣人が主要の国家は近接戦闘が主体になる密林でプラス補正が掛けられていたり、兵器も種族の特徴に合わせてプラス・マイナス補正が加算されるというものだ。
これにはかなりこだわって設定しまくった結果、データ量が思っていたよりも多くなったのは秘密だ。
「これであと10人の軍人を追加すれば終わりですわ、それにしてもエライ大規模MODになってしまいましたなぁ…」
背筋を伸ばして大きな欠伸をしている美男子長身筋肉男が一年生の丸山兼助。
元々テニス部の部員だったが、試合中に足を酷く痛めてしまい医師からテニスの続行を諦めるように言われて渋々テニス部を退部してしまった悲運の男だ。
元々佐々木の学校の後輩であり、事情を知った佐々木が丸山を引き入れて歴史研究部の花としている。
美男子であることから、高校時代には四股するぐらいの度胸とかも兼ね備えている、とんでもない性の喜びとかを知っている歴史研究部唯一の非童貞野郎でもある。
そんな丸山が担当したのは各国の将校及び政治家、艦艇のデータである。
何気にこれが一番根性のいる作業で、この世界ではゲーム開始時に20カ国ほどが存在しており、政治家が最低でも三名必要で、軍人に至っては将校が陸海空それぞれほどアイコン付きで10名入力する必要がある。
その中でも大変なのが艦艇名のデータ設定である。
このゲームでは海軍ユニットは細かく分類されており「小型戦闘艇」「駆逐艦」「現代型駆逐艦」「軽巡洋艦」「フリゲート艦」「重巡洋艦」「戦艦」「大型戦艦」「超大型戦艦」「護衛空母」「空母」「大型空母」「潜水艦」「巨大潜水艦」と14種類存在し、種類ごとに名前も変わってくるのだ。
日本を例にすると「駆逐艦 雷」「現代型駆逐艦 ゆきかぜ」「戦艦 金剛」「超大型戦艦 紀伊」のように現代型駆逐艦は戦後に開発された海上自衛隊の艦名だったり、超大型戦艦に至っては現実では実現しなかった架空艦の名前となるのだ。
これを入力しなければデフォルトの設定に従って「駆逐艦 1」というシンプルな名前になってしまうのだ。
各国20カ国の初期配置された30隻一個艦隊の艦名を入れた上で、最低でも各艦艇1ユニットに対して50隻分入力するようにいわれた結果…丸山は14000隻分もの艦名をひたすらに入力するという地獄を味わった。
とはいえ、佐々木が5カ国分の3500隻分ほどは手伝ってくれたので実質的に丸山がやったのは10500隻分である。
「漢祭級護衛空母 摩那板」
「ユージュアル級重巡洋艦 パンパカ」
「センチュリドン級巨大潜水艦 クルァー」
…など明らかにネタみたいな艦名もいれてあるとかないとか…。
決して部長が童貞だから虐めていたわけではない筈だ…多分…。
そんな訳で、イベントを設定し終えてエラーが無い事を確認すると、ついにカオス第二次世界大戦MODが誕生したのである。
「で…出来たぞ!!!」
「ついに完成したんですね…長かった…」
「よくやったぞみんな…これで部活の発表会で文句なしの出来になったよ…」
これにてMOD制作終了…!MODデータを配布するだけだと吉岡は満足そうに頷く。
「あとはこのゲームを掲示板で配布して、MODデータを顧問に提出するだけだぞ…ん?ちょっと待て…なんだこのデータは…?」
吉岡はファイルフォルダーに不審なものがあるのに気が付いた。
一先ず部活の顧問にデータを送ってからそのファイルを覗いた。
【Kaosww2.MOD.Reality viewing mode.txt -【1938】-1KB】
直訳すると”カオス第二次世界大戦MOD現実視認モデル”と書かれたデータである。こんなものを入れた覚えはない。
部員に聞いたがそんなデータは入れたことが無いときっぱりと言われた。
テキストファイル自体は1KBしかないものだ。さっさと捨ててしまおうと思うも、何のデータか気になった吉岡はそのテキストファイルをクリックした。
「な…なんだこりゃ?!」
「め、目が回るぅっ?!」
すると、その場にいた全員の視界がぐにゃっと歪み、ぐちゃぐちゃになるような感覚に襲われる。
一体何が起こったのか分からないまま、歴史研究部のメンバーは突如として大学の部室から姿を消した。
いや、部屋自体が古臭いヨーロッパ風の内装にすり替わっていたという奇妙な出来事が起こった。
部屋のアンティークや使われている電化製品などは全て80年前のものばかりであったという。
この事件で大学側は集団失踪事件として警察に捜索届けを出したが、メンバーは誰一人として帰ってくることはなかった。
彼らが残した「カオス第二次世界大戦MOD」は失踪事件後に何者かによって自動的に掲示板にデータがアップロードされているが、誰が何の為にアップロードしたのかは不明のままである。
そんな彼らの失踪先に纏わる物語である。