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第7話 祭壇

 翌日は宴をすることもなく、ようやく祭壇作りを行うことになった。

 まずは場所の選定だがどこもかしくも植物が生えているためなかなか良い場所が見つからなかった。

 しばらく探してみると一箇所だけ樹木も少なく開けた場所があった。


 その場所は村人たちが水を得るために一所懸命に穴を掘っていた場所だ。

 大量にある穴には雨水が貯まりいくつもの池が並んでいるように思える。

 村人たちにとっては過去を思い出させる辛い場所だが、今は光を反射する池が幻想的に見える。


「この場所に作りませんか?過去を忘れないためにも。」


「そうですな。今回の干ばつで多くの村人に犠牲が出ました。それを忘れないためにも良いのかもしれませんな。」


 過去を忘れないために、亡くなった人々を忘れないためにこの場所に鎮魂の意味も込めて祭壇を作ろう。

 そう決まればあとはどのような形に設計するかだが、これには多くの村人たちが頭を悩ませていた。

 はっきりいってそんなもの考えもつかないからだ。


 俺自身いきなり祭壇を作れと言われても鳥居と祠くらいしか考え付かない。

 それに祭壇を作るにしても一体何を奉ろう。祭壇があるのにそれに合ったものがないとまずいのではないだろうか。

 レアーに関するものが良いのだろうがそんなものはわからない。なので一旦村人たちから離れ連絡を取ることにした。


「はいは〜い!レーちゃんだよ!」


「今日はテンション高いですね。まあそれはいいです。それよりも祭壇を作ることになったんですが、何を奉ったら良いでしょうか?木彫りのあなたを作る案も考えたのですがどうしましょう?」


「え〜…そういうのはなんだかなぁ…可愛いのがいいなぁ。それでいて信仰を得られるやつ。」


「なかなかな無茶を言いますね。そう言われましても…そうだ!もう一つ聞きたいことがありました。未だにこの辺りの雲はないみたいなのですがもしかしてこのままだとまた水不足になりませんか?」


 雨問題。それは未だに解決していない重大な問題である。

 この村周辺に来る雨雲を何者かが人為的にこないようにしているのだとしたらいずれ水不足が起こるのではないだろうか。


「あ〜…それか。ちょっと待ってね。う〜んやっぱりまだまだ降りそうにないね。もともと雨の少ない土地みたいだし水源は重要かも。けどこの辺り水脈もないし数年もしたらこの森自体無くなるかもしれないね。」


「それってかなりまずいんじゃないですか?そんなことになれば信仰を失いますしせっかくの仕事もダメになりますよ。」


「それは困る!そうなると…そうだ!精霊が集まっているし働かせよう!池の方に行って!」


 精霊を働かせるとか…。正直それでいいのかとも思ったがまあ言われたことに従おう。

 そのまま池に近づくと右だ左だと言われるがままに移動する。


「よし!そこでいいよ。その池にいる精霊が一番力が強そうだ。その子に交渉してみて。」


「その子って…俺見えないんですけど…」


「ええ!そっか!力が足りなくてそこまでは干渉できなかったか。まあそれはいずれということで…ちょっとスピーカーにして。私が直接交渉するから。」


 言われたままスピーカーにしてスマホを前に突き出すと何やら大声で話し出した。

 何やらごちゃごちゃ話しているが正直精霊と神が会話している様子には絶対に見えない。

 しばらくそのまま待っているとレアーが俺に話しかけてきた。


「待たせたね。今交渉したところなんだけどここで暮らすのは問題ないらしい。ただ力を使うには依代が必要なんだ。聖宝具があればいいんだけどこの村にそんなものありそう?」


「間違い無くないですね。そもそも神器がないかもう探したじゃないですか。その時に見つかってないのならもうありませんよ。俺だってそんなものはもってません。あるのはペンや傘といった持っていたものだけですよ。」


「それだ!すぐに傘を取り出してくれ。それが使えるはずだよ。」


 俺が持ってきたのはただの傘だ。そんな聖宝具だかなんだか知らないけど大したものではない。

 まあ文句を言ってもしょうがないので取り出してみると何か周囲の空気がざわめき出した。


「やっぱり!その傘は聖宝具になっているよ。しかも結構上のランクだね。神器までは行かないけど精霊たちがざわついているから間違いないよ。」


「聖宝具って…これただの傘ですよ?値段は高かったですけど。」


「確かにそれはただの傘だった。だけどその傘は私のいる神界からその世界に移動したんだ。その間に力が宿って聖宝具と化したんだよ。普通ならそんな傘じゃあ聖宝具にはならないけど私が直接触りもしたし良い具合になっているよ。」


 まさかそんなことになっているとは思いもしなかった。

 いやまてよ。あのレアーの所を通ってきたものが全て聖宝具になるのならば俺の持っている服やその他全てがそうなっているのだろうか。

 よくはわからないが、もしかしたら身につけているもの全て国宝級のお宝という可能性もある。


「しかも傘だからね。ちょうど良いよ。そこ精霊は水の精だからね。水に大きく関係する傘はもってこいのアイテムだよ。」


「水って…確かに関係しますけど雨よけという役割で行けば水とは相性が悪いんじゃないですか?」


「そう考えればね。けど逆に雨がないと、水がないとそれは役割を持たない。雨がないと意味のないものだからね。それと日傘としても役に立つからね。大地を日差しから守るという意味で大地の精にも役に立つ。この森に宿った精霊にもちょうど良いよ。その傘を開いて水の上に浮かせておくれ。それだけで十分だ。」


 物は言いようだなとは思ったがまあいいだろう。

 言われた通りに傘を開いて取手を上にして池に浮かせてやる。

 するとまるで生き物のように傘はくるくると回り、池の中央へと向かっていく。その様子に気がついた村人たちが今度は何事かと集まりだした。


 その傘は見られているのを知ってか知らずかさらに勢いよく回りだした。

 すると池の水の一部が浮かび上がり子供のような形を作り始めた。するとそこに植物が伸びてきてこちらも子供の形を取り始めた。


 何やら動いているがその様子は水と植物というなんともシュールなものだ。

 だが少し見方を変えてやるとまるで子供同士が仲良くじゃれついているようにも見えた。

 しばらく傘の周りを回りながら遊ぶ二つの子供。その様子を見ていると傘の方へ手を伸ばし傘の取手に触れた。


『キャハハハハハ』


 まるで幾人もの子供がこの森中で笑っているように思えた。

 怖くはない。むしろ本当に楽しそうに、嬉しそうに笑う声を聞いてなんだかこっちまで楽しくなってきてしまう。


「お、おい!あれ!」


 一人の村人の声を聞いて池の方に視線を戻すと先ほどまで回っていた二つの子供の形をしていた水と植物が一つになっている。

 何事かと注視してみると傘を手に持ち俺に向かって手を振っている。


 俺が手を振り返してやると満足そうにしているように見える。

 するとその周囲を大量の水と植物が包み込み大きく天に向かって伸びていく。

 村人たちもあまりの光景に悲鳴をあげるものまでいる。


 俺は近くにいたものだから足元の植物が伸びていくのに巻き込まれ天高く上昇していく。

 飛び降りようかと思ったが足に絡みついて身動きができない。

 そのまま身を任せていると草の中を潜っていき何が何だか分からなくなった。

 すると急にその草から飛び出した。そこはあの天高く伸びていった植物の頂上である。


「すげぇ…これは…」


 俺の眼前に広がるのは木々の緑と真っ青な空だけである。

 こんな光景は今まで見たこともなかった。

 しかもこの感動する光景を作ったことに俺も関わっていると思うと何か涙が出てきた。


「どうだい?これはなかなかいい景色だろう?」


「レアー!ってスマホ切ってなかったのか。」


 あまりの衝撃でスマホをつけっぱなしということを忘れていた。

 レアーがこちらの世界に来たのかと一瞬本気で思ってしまった。


「私もこっちから見ているよ。こういった光景は何度見ても良いね。

 さて、これで初仕事完全に終了ということでいいのかな?」


「そうだな。これでこの村の人々はもう大丈夫だろう。それに信仰も得られたしよかったな。」


「そうだね。では、株式会社レアー商会!初依頼見事完了!」


「やっぱりその名前変えたほうがいいんじゃないのか?この世界株式ないだろ。レアー商会でいいんじゃないか?」


「いいじゃないか!株式ってつけるとなんかかっこいいし。いちいちそんな細かいこと気にしてたら今後やって行けないぞ!」





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