第6話 聖なる大地
今、俺は少女の家にいる。家の外は狂喜乱舞する村人たちでいっぱいだ。
久しぶりの雨ということで皆一様に雨に感謝している。
先ほどからかなりの量の雨が降っているので水害が起きないか心配だったが今のところは雨漏り程度で住んでいる。
少女たちは外で体を洗ったり喉を潤しているようだ。
ちょうど良いので今後のことをレアーと相談してみよう。スマホを取り出し連絡してみるとすぐにレアーが出た。
「今大丈夫ですか?雨降らせるのに忙しいんでしたら後にしますけど。」
「大丈夫だよ〜。今はジョウロを固定した状態だから特に忙しいことはないかな。ただそっちは今日の夜まで雨を降らせるつもりだよ。だいぶ大地が弱っていたからね。周囲に精霊も見えなかったぐらいさ。ただこの雨で今日の夜までにはだいぶ戻ると思うよ。」
「精霊とか言われてもわからないんですが…まあ雨を夜まで降らせるというところだけ理解しました。それで今回の依頼なんですが報酬はどうしますか?この村では金品もないですしあなたもそんなもの要らないでしょう?」
「まあ金品には興味ないけどもしも神器があったら貰っておくれ。神器を使えばそっちの世界と私を繋ぎやすくなるからさ。報酬に関してはそうだね…祭壇でも作ってもらおうか。信仰することによって私も力を使いやすくなるから。形はどんなものでも良いけどかっこいいのにしておくれよ。」
祭壇か。それくらいならこの村の人々にも作れるだろう。
どんなものを作るかは村人たちに任せよう。
それから少しの間話していると少女たちが戻ってきたようだ。
「すみません。長くお待たせしてしまって。」
「大丈夫ですよ。それよりも濡れたままでは風邪をひいてしまいますよ。火を起こさないと。」
「そうか…そうですね。もう火を使ったのもずっと前のことなので忘れていました。」
そういうと積み上げていた薪を集める。
ある程度溜まったところで何やら手をかざしつぶやいている。すると急に炎が燃え上がった。
「い、今のは…」
「あ、実は私簡単な魔法なら使えるんです。村の中でも珍しくて私の他に数人しかいないんですよ。とは言っても本当に簡単なものなので飲み水を作ることもできなくて…」
魔法。そんなものはおとぎ話や漫画くらいでしか聞かない。
魔法みたいな現象ならいくつも見たことはあるが本物を見るのは初めてだ。
レアーのあれは魔法なのか?まあよくわからないのでこれが初めてということにしておこう。
「けど私の力なんて商人様に比べたらちっぽけなものです。本当に村を救っていただいてありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
二人の少女が俺の前で土下座をしている。こんな状況を見られたら外聞が悪くなる。
「頭を上げてください。皆が助かって何よりですよ。それと何か勘違いしているようですが私にはなんの力もありませんよ。」
「で、でも雨を降らせてくれました。」
「あれはあなたの祈りの甲斐もあってです。私は単に神レアーからの使いでこの村に来ただけですから。強いていうなら…使徒ってやつですね。」
「そ、それってもっとすごいような…つまりは聖人様ということですよね。」
確かにそうかもしれない。
レアーが神だとするならば俺はそれの、神の使いで聖人と言われてもおかしくはない。
しかし俺が聖人なんて何か笑わせてくれる。
その後報酬の話になったが彼女たちと話してもしょうがないので後で村長らを交えて話をすることになった。
今すぐ話をしても良かったがこれだけ騒いでいる中、報酬の話というのも空気を読めていない。
なので村人たちが落ち着いてからということになった。
結局話をしたのは昼を回った頃だ。
村人の代表数名と少女たちを交えて話をすることになった。
「儂がこの村の村長を務めていますガリックと申します。この度は村を救っていただき誠に感謝いたします。」
「私は神谷と申します。今回は神レアーの使いとしてこの村に来ました。村人の命が救われたこと、神レアーも大変喜んでいます。」
村長はしわがれたおじいさんだと思っていたのだが何かようすがおかしい。
というよりも村人全員に変化がある。
朝、雨が降る前に見たときはもっと枯れていたのにここにいる全員が割と元気そうになっているのだ。
水を飲んだだけでこんなにもかわるものなのだろうか。
「神レアーですか…なにぶん私には学がないので存じませんでした。お許しください。それでカミヤ様。此度の礼をしたいのですがこの村には何もありません。それでも誠心誠意礼をしたいと思います。」
「それでは祭壇を作ってください。神レアーはもともとこの世界ではない別世界の神ですので信者がいません。なので皆さんにはレアー様への信仰をお願いしたいのです。」
「祭壇ですか。それでしたら問題ありません。すぐに作りましょう。レアー様への信仰ということですがこの村には他神教はありませんので問題はありません。仮にいたとしてもこのような状態になっても救ってくださらぬ神を信じることはないでしょう。なあみんな。」
村長が周囲を見渡すと皆それぞれ思い想いの言葉を並べる。
どうやらなんの問題もなくすむようだ。それから大事なことがもう一つあった。
「大事なことを忘れていました。それからもう一つ。当分の間私を泊めて貰えませんか?今のままでは泊まるところもないので。」
「そんなことでしたらなんてことありません!是非共我が家でも誰の家でもお泊まりください。あなたを拒むような不届きものはこの村にはおりません。」
その日は村長の家に泊めてもらうことになった。
食事は簡素なものだが食べられるだけまだマシだろう。
明日からは食料を調達しなければならないということでいくつか相談に乗ったが雨が降ったとはいえ、この荒れ果てた大地ではまともに食料を得ることもできないだろう。
いくらか話し合ったが結局答えは出ないままその日は全員寝ることになった。
久しぶりに夜に寝られて涙を流す村人もいたくらいだ。
翌日、俺は村人の悲鳴で起きることになった。
あまりにも大きな声だったので村中に響き渡ったほどではないだろうか。
村長も手頃な武器を片手に外へ飛び出す。俺もそれに続くと驚愕の光景に声が出なかった。
俺の目の前には森があるのだ。家は木々に覆われ地面には下草や苔が生えている。
花や果実まで見られる。数百年の森と言われても信じることができるだろう。
この状態に村長や他の集まった村人たちに問いただされる。しかし俺にも何が何だかわからない。急いでレアーに連絡を取った。
「ん〜〜…こちらレーちゃんです。眠いのでまた後でかけ直してください。むにゃ…」
「起きてください!そしてこの状況を説明してください!なんなんですかこれは!」
「何がって…うわ!森になってる!なんで!?」
どうやらレアーにもわからないようだ。
というか神も寝るのか?その後しばらく待っていると何かに気がついたレアーが声を出した。
「そういえばこのジョウロも神器だった!だから多分このジョウロから出た水だから聖水…いやもうそれ以上の神水とでも呼ぼうか。そのせいで大地に急激に生命力が戻ったせいで種が発芽してこんなになったのかも。それにものすごい数の精霊が集まって来てるよ。そのせいもあるかもね。」
「つまり…神水と精霊たちの集まりによって一晩にしてこんなになってしまったと?」
「精霊はこういった喜ばすことが好きだからね。それに神水のおかげで村人たちも元気じゃないか。」
そう言われるとそうかもしれない。
一晩たっただけなのに村人全員が元気そうだ。
しかもお肌はツヤツヤだし張りもある。普通だったらありえない状況だ。
それから電話を切って村人全員に事情を説明すると顎が外れたんじゃないかと思うくらい驚かれた。
…実際に何人か顎戻ってないし。
「つ、つまり…この土地は聖なる力で満ちた聖域と化したということですか…?」
「そんな大げさなものでは…あるかもしれませんね。見えてませんが精霊がいっぱいいるらしいですし。」
その言葉を聞いてまたも狂喜乱舞する。
まあ昨日まで死の大地だったのが一晩開けたら聖なる土地だからな。そのくらい驚いてもおかしくはないかもしれない。
その後は朝から村人総出で果実などの食物を採取し宴となった。
結局その日は丸一日宴をすることになった。
本当は祭壇の話とかもあったがまあ明日でも良いだろ。