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第5話 依頼達成

 俺の言葉に少女はきょとんとしている。考えてみればこんなこといきなり言われて「はい入ります!」っていう奴は頭がおかしい気がする。


「……神の…奇跡ですか?」


「ええ。私は商人代行をしておりまして。とある事情からこうした商売をしております。で、あなたは何をお求めで?」


「水を…水を売ってください。お願いします!お願いします!」


「お願いします!」


 ちっが〜う!そうじゃない。そうじゃないんだよお嬢さん。俺が聞きたいことはそれじゃないんだよ。しかもその声を聞いて他の村人も集まってきたし。


「水を!水をください!」

「なんでもします!なんでも!」

「ちょっとでいいんだ!ちょっとで!」


「えぇ〜…」


 あまりにも必死な形相に一種の恐怖を感じる。こんなところで本当に水を差し出したらなにがおこるかわからない。とりあえず一旦落ち着けよう。


「あ、あのみなさん!待ってください!私は水売りじゃありません!神の奇跡を売っているんです!静かにしてください。」


「商人さん。神の奇跡って何ですか?」


 騒ぎが収まった時少女から単純な質問がきた。これはなんとナイスなタイミングだろうか。見ると質問したのは先ほどの少女のおそらく妹である。ナイスな質問ありがとう!


「いい質問です。まあ説明しても理解しづらいと思います。ですのであなた方が本当に欲しているものを願ってください。そうすればいいんです。」


 俺の言葉に先ほどよりもざわつく村人たち。水以外に欲しいものなんてないとあちこちから声がするがそんなのはどうでも良い。俺が欲しい答えはただ一つ。


「雨を。雨を降らせてください!」


「そうです!それでいいんです!では依頼人であるあなたは…この子のお姉さんですね?依頼内容は雨を降らせるでよろしいですか?」


「え?は、はい。雨を降らせてください。」


 完璧だ。完璧な流れができた。もうここまできたら俺を止めるものは何もない。


「かしこまりました。では少々お待ちを。うちの社長…ここだったらなんて言った方がいいんだろう…会長?頭取?まあいいか。連絡を取りますので少々お待ちを。」


 この後はどうしたら良いかわからないのでとりあえずレアーに連絡だ。スマホで連絡ができると言っていたので早速開いて見るといつのまにか連絡先にレアーが登録されていた。そのまま電話をかけるとすぐに繋がった。


「あ、もしもし。ええ私です。それにしても本当にスマホ使えるんですね。」


「そう言っただろ〜。そんなことより仕事だよ!し、ご、と!」


 まさかこんなところでスマホが使えるとは本当に思わなかった。そもそも電波もないはずなのにバリバリ電波が通っているのもおかしい。そのあたりもそのうち聞いてみたいものだ。


「ああすみません。依頼の件ですね。」


「そうだよ〜細かいことはいらないからさ。それにこっちからそっちを見ていたしね。」


「見ていましたか。ではその通りにお願いします。」


「なんだよ反応良くないなぁ。それに初仕事だよ!もっと仕事風にしないと!」


 神様とか言っていたしなんかしらの方法でこちらを伺うのは可能だと思っていたので説明の手間が省けると思っていたのだがどうやらそれはお気に召さないようだ。


「え?仕事風にですか?…まあいいですけど…では辺境の村からの依頼です。雨が降らないため水不足に至っている町に雨を降らせるという依頼が入りました。」


「いいねぇ!いいねぇ!やっとそれらしくなってきたよ!」


「それで雨の降らせ方はどうしますか?雲を集めるのが一番だと思うんですけど」


「あ〜…まあそれがいいんだけどねぇ。だけどそれはできないんだよ。探しても雲がなくてさ。」


「え?雲がない!?どういうことですか!」


「細かいことはわからないけど、人工的に雨を降らせる方法がこの世界にもあってね。そのせいで雲が全部なくなっているんだよ」


 つまり何者かによって別の場所で人工的に雨を降らせていてこの場所には雨雲が来なくなっているということか。


「しょうもない連中がいるもんですね」


「本当さ!そいつらに天罰を食らわせてやりたいね!まあ干渉力足りなくてできないけど。あ〜あ…もっと願ってくれる人さえいたらなぁ…」


 何やら物騒なことを言っているがどうやらそれはできないらしい。まあ気にくわない奴に片っ端から天罰を食らわせていたら悪魔か何かと思われるだろうな。


「そんなことよりどうするんですか?それじゃあやりようがないでしょ。」


「う〜ん…多少多めに力を使うけどこれだけの祈りがあれば問題ないね。ジョウロで水撒くよ。」


「は?ジョウロ?そんなものでいけるんですか?」


「もちのろんだよ!まあ用意するから少し待っといて!」


 何やらよくわからないが少し待っていると周囲の村人たちが俺のことを怪しむような目で見ている。そうか、おそらくこの世界には電話とかがないから俺が一人で勝手に喋っているように見えるのか。そう思われていると思うと少し恥ずかしいがやめることなんてできない。


「ああ。みなさんすみませんお待たせしてしまって。今雨の用意をしているみたいなんでもう少々お待ちを。あ、もしもし。準備終わりました?」


「ちょっと待って〜今水入れてるから〜。」


 この状態で待っているのも恥ずかしいから早いところ終わらせて欲しいものだ。そういえば一つ気がかりなことがあるな。


「後ジョウロって結構勢い強いんですけど大丈夫なんですか?」


「むむ!確かに…まあ穴細かいし大丈夫でしょ。」


「はぁ、丁寧にやってくださいよ。降らせすぎて今度は水害なんて笑えませんからね?それじゃあ切りますよ。」


 なんとも適当な返事だが他に方法もないしうまくやってくれることを祈ろう。スマホを切るとまだ怪しそうに村人たちが見ている。まあそこまで時間はかからないだろうからまっていてもらおう。雨が降るなら傘も必要だな。


 さっき内ポケットに傘をしまってくれたからそれを取り出そうと手を入れると思った以上に深くて一瞬慌てたがすぐに目的のものを掴み取り出す。


 大きめの傘だったので取り出し方が変になってしまった。少し恥ずかしいが顔色を変えずにやり過ごそう。それから5分ほど経ったがいつまで経っても雨が降らない。その様子を見た村人たちはどんどん家へと戻っていく。


 流石に少し焦ってもう一度連絡しようと思った時に傘に何かがぶつかる小さな音がした。そのぶつかったものが他の村人にも当たったのかひどく驚いた様子で天を仰ぐ村人がいる。小さな声で何か言っているようだが俺には聞こえなかった。だが俺はその様子を見てようやくほっと溜息が出た。


「あ、やっと降ってきましたね。お待たせしました。」


 俺の言葉に気がついた少女の姉の方は目玉が飛び出るのではないかと思うほど目を見開いている。次第に雨脚は強くなり村の至る所から歓声が上がる。その喜びようは正直少し引いた。


 しばらくすると雨脚が強くなりすぎて雨音以外聞き取りにくくなってきた。そんな雨の中少女の姉は泣いていた。まあ間違いなく依頼は達成だろう。しゃがみこんで優しく微笑みながら声をかけた。


「お嬢さん。ご依頼の通り雨を降らしました。これで依頼は達成ということでよろしいですか?」


 俺の声を聞いてさらに泣き出してしまい返事が聞こえない。流石にこの雨はやりすぎたか?レアーめ、ジョウロは水量が強いから気をつけろと言っておいたのに。すると少女姉はなんとか頭を縦に振ってくれた。これは肯定の意味と受け取って良いだろう。


「ありがとうございます。株式会社レアー商会、初の依頼達成となりました。それでなんですが細かい話もあるとは思いますがとりあえず…家に入れてもらっていいですか?このままでは服が濡れてしまって。」


 それを聞いたらなぜか笑われてしまった。なぜだ。やっぱり株式会社レアー商会なんて名前は流石に変だったか。




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