第4話 初依頼
1週間後、俺はまた神社の御神木の前に来ていた。
正直あの時のことは夢を見ていたのだと思っている。
正直信じることができない。だから今日来たのはあれが現実であったのかを確かめるためだ。
今日も時間前には御神木の前に着いた。
ただ前回とは違い雨が降っているため傘を持っている。
雨が降る中この神社に来るのは俺くらいなものなのか誰とも会うことはなかった。
それから数分後、約束の12時になると俺はまたあの部屋へ来ていた。
「やあ!来てくれたね。あれから色々調べて方針が決まったよ。立ち話もなんだから席についてくれ。おや?雨でも降っていたのかい。傘はそこの傘立てに置いておくれ。寒かっただろうから紅茶でも入れよう。」
「ありがとうございます。」
やはり現実だ。あの時だけなら夢や幻覚だと言えただろうが2度目ではそうもいかない。
席に着くとまるでテーブルから生えるように紅茶が出て来た。
「昔私の信者から貰った紅茶なんだ。まあ食欲というものはないし食べなくても問題はないからね。趣向品として飲んでいたんだけど美味しいはずだから君も気にいるはずだよ。」
「はぁ…」
どうやって注がれたのか気になるのだがそれに関しては突っ込んではいけないらしい。
試しに一口飲んでみると果物のような香りと甘みがあって美味しい。
「さて、本題に入ろうか。君が帰ってから1週間。久々にあんなに働いたよ。まあその甲斐もあって働く世界が決まったよ。そこの世界はすでに最高神がいなくてね。低位の神しかいないから他の神の問題もなく自由にできる。すでにその世界とのリンクは済んでいるよ。そして仕事に必要なのがこれ。」
「これって…ヒエログリフですか?」
レアーの指先にあるのは石版。大きさも身長より少し高いくらいある。
表面には大量の文字らしきものが書かれているが何一つとして読めない。
「ん〜…近いけど違うものかな。まあ簡単にいうとこれは人々の願いを表示する石版だよ。」
「願いって…こんなにたくさんですか?」
「数は正直関係ない。どの世界でも願いなんてものは腐るほどあるからね。問題なのはその質さ。神様だって万能じゃない。願いを思う力によって干渉できる量が決まるんだ。それは一人の人間かもしれないし複数の人間かもしれない。まあどんなであれ願う力が一定数にならないと私は干渉できない。」
何やら話が難しくなってきた。まあ要するに叶えて欲しかったらもっと本気で願えってことか。
どのくらい願ったらいいのか全くわからないけど。
「ちなみに…今表示されてる一番良いのはどのくらい干渉できるんですか?」
「今かい?今ならねぇ…例えばこの雨を降らせてほしいって願いかな?この願いなら地面が濡れるくらいの雨を降らせることができるよ。」
「それってすごいじゃないですか!今すぐやりましょうよ。」
「ただし願いが弱い。そのせいで私が相当頑張るので次回干渉できるのが一月先になります。」
すごいけどすごくないような。
けど雨を降らせることができるなら十分すごいと思うんだけどなぁ。
「どのくらい願えばいいんですか?このままだと一生仕事できませんよ。」
「奇跡を叶えるにはそれ相応の信念と覚悟が必要なのだよ。ふっふっふ。まあ私に奇跡を起こして欲しかったらこの石板の中央で光り輝かなければならない。」
「それってこんな風に?」
踏ん反り返ってレアーは偉そうにしているがその最中に石板に動きがあって先ほどの願いが書かれていると思われる文字が石板中央で光り輝いている。
「うっそぉ!まさかこんなにも早く来るなんて!依頼者は村の少女。願いは村人を、妹を助けるために雨を降らせること。くぅ〜自己犠牲はポイント高いんだよな。それに少女っていうのも大人と違って雑念が少なくてポイントが高い。それに元々願ってたからポイントが貯まって…ってそんなことより急がないと!神谷くん出番だよ。」
「え!?何がですか!」
「私が直接出向くのはできないんだよ。だから神の代理人として君が行かないと!」
そんなことは聞いていない。急にいけと言われても何をしたらいいのか全くわからない。
そんなことも御構い無しにレアーは何やら用意をして俺に手渡す。
「この指輪をしていれば言葉は通じるから。あとこのスマホに私直通の連絡ができるようにして、それから雨を降らすんだったら傘も必要だね。内ポケあるからここに入れておこう。ああ、こういうのは速さが肝心だから…いいかい!君は私の会社、株式会社レアー商会の代理人だ。売るものは神の奇跡!初の依頼だ。カッコよく決めてきてくれ!」
「ちょっと待って!」
俺の声は虚しく響く。俺は次の瞬間砂漠の上に立っていた。
砂漠と言えば砂というイメージがあるが地球の砂漠の大部分が岩砂漠と呼ばれる岩石や地面の砂漠である。
まあそんな豆知識はどうでも良いのだ。問題はいきなりこんなところに来させられたことである。
今すぐ帰せと言いたいところであるが目の前には明らかに水不足で弱り切った村人たちがいる。
このまま見捨てるというのも後味が悪いだろう。
村の方へ歩いて行くと二人の少女の姿が見える。
おそらくあのどちらかが依頼者だとは思う。
しかしどっちが依頼者か聞いていないが見ただけですぐにわかった。
なぜなら明らかに祈りを捧げている少女がいるからだ。
その姿は痩せ細り、肌は乾ききって今にも倒れそうである。
しかしその姿は神々しく、美しい。うまく言葉にはできないが絵画のような美しさがあるのだ。
俺はそんな少女の元へ一歩一歩近づいて行く。
近くまで来るともう一人の少女が俺に気がつく。そう言えば妹を助けるためにとか言っていたな。
つまり今気がついた子が妹ってことかな。
まだ小学校に上がる前くらいの歳だというのにその見た目はおばあちゃんのようにシワシワである。
俺がきたことに他の人々も気がついたのか村人全員の注目が集まる。
そんな中俺は2人の少女の姉と思われる方へと近づく。
「失礼。依頼人はあなたですね?」
「い、依頼?もしかして村人の誰かが町に伝えてくれたんですか?」
「?すみません。それについてはわかりかねますが…先ほど願ったでしょう?」
一瞬間違えたかと思ったが頭が混乱しているだけだと信じたい。
こんなにキメ顔で言ったのに人違いでしたなんてカッコがつかない。ここは無理やり押し通そう。
「え、えっと…あの…」
「あなたが初めての依頼人になりますね。」
何か思いついたような表情をしているがそれでも明らかに戸惑っている。
しかしここでやめるわけには行かない。それに多分だがこの子であっていると思う。
一度深呼吸し気持ちを切り替えここで決め台詞。
「神の奇跡いりますか?」




