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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 作者:よっしゃあっ!
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84/91

84.力の差


 ―――食堂にて、西野と六花はモンスターとの死闘を繰り広げていた。

「ハァッ……ハァッ……!」

 彼らが戦っていたのは、シャドウ・ウルフ一匹とレッサー・ウルフ三匹。
 数も戦闘能力も、完全にモンスターの方が上だ。
 現に二人とも傷だらけで、息も絶え絶え。レベル、スキルの熟練度を考えれば、正直まだ戦えているのが奇跡といえる程の戦況といえる。
 それを支えていたのは、ひとえに六花の脅威的なモチベーションの高さだ。

(―――居た……間違いないなく)

 ほんの数分前。
 葛木さやかが自分達へ向かって放ったゴブリン達が、突然頭を吹き飛ばされて死んだ。
 その時、六花は見たのだ。

(アレは―――ナっつんだった……)

 身の丈に合わぬ長大なライフルを構えたあの姿。
 見えたのは一瞬だったが、見間違えるはずはない。
 アレは一之瀬奈津だった。
 一瞬信じられないと思い目を背け、もう一度視線を向けたときには、そこにはもう彼女の姿は無かった。
 何かのスキルを使ったのだろう。

(―――会わなきゃ)

 校門で感じたあの気配は勘違いではなかった。
 突然、送られてきたメールも、自分を助けてくれた狙撃手も、彼女だったのだ。
 会って伝えなければならない事がある。
 言わなければならない事がたくさんあるのだ。

「ガルルルル!」

 気を抜いた瞬間、レッサー・ウルフの咢が彼女に迫る。

「邪魔すんなああああああああああああああああああッ‼」

 だが迫りくるレッサー・ウルフを物ともせず、その顔を鷲掴みにして地面に叩きつける。
 床に亀裂が走り、魔石が転がった。

≪経験値を獲得しました≫
≪経験値が一定に達しました≫
≪アイサカ リッカのLVが9から10に上がりました≫

 レベルアップを告げる声。
 それすら、彼女には気にしている余裕はなかった。

「ハァッ……ハァッ……!げほっ……」

 本当ならすぐにでも食堂を出て、一之瀬を探したかった。
 だが、モンスターたちの妨害に遭い、こうしてまだここを抜け出せずにいる。

(あのフードの人、誰だろ?ナッつんの彼氏……?いや、んなわけないか)

 そう思うと、なぜだか妙に心がざわついた。
 そもそも、あの男は一体何者だ?
 一之瀬と同じく突然現れ、場をかき乱していったフードの男。

(凄く強かった……いや、あれは強すぎ。……でもどっかで見た事あるよーな……)

 少なくとも、一之瀬の仲間であるのは間違いないだろう。
 先程の煙幕は逃亡の為のもの。
 ならば、既にここを出て、どこかへ逃げている可能性も高い。

「とにかく、ハァ、早く片付けて、追いかけないと、げほっ……ハァ……ハァ……」
「六花!無茶をし過ぎだ!もう少し―――」
「うっさい!」

 後ろから西野が諌めるが関係ない。

(絶対に会うんだ!だから負けられない。こんなところで、死ぬわけにはいかない!)

 戻る理性に再び『狂化』のスキルを使う。
 本能が支配し、己の肉体が活性化してゆく。

「ァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 叫びながら、六花はシャドウ・ウルフに迫る。
 六花の持つスキル『狂化』。
 理性と引き換えに『狂化』LV×10の数値をステータスに加算する効果を持つ。ちなみに、LVと熟練度により失う理性は変化する。
 加えて『勇猛』によって格闘ダメージの向上を、『斬撃強化』によって斬撃ダメージの向上を促す。更に『戦闘続行』と『肉体再生』によって瀕死の体であっても無理やり動かす事が出来る。
 彼女の職業『狂戦士』は、正しく戦うために特化したジョブと言えるだろう。

「グ、グルル……」

 その鬼気迫る姿は、モンスターたちをひるませ、隙を作らせるのには十分だった。

(―――殺った!)

 彼女がそう確信し、シャドウ・ウルフへ肉薄した―――まさにその瞬間だった。

『――――ウォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!』

 その『声』が、食堂に響いたのは。




 そのモンスター―――とりあえず、ダーク・ウルフと呼ぶが―――ソイツが吠えた瞬間、俺は初めてハイ・オークに出会った時の事を思い出していた。
 あの圧倒的な実力を目の当たりにし絶望した、あの時の事を。

 でも―――今回はそれ以上かもしれない。

 『危機感知』がこれ以上ない程に警鐘を鳴らしていた。
 まるで極寒の海に全裸で放り込まれたと錯覚するほどの寒気。
 額にびっしょりと玉の汗を浮かべながら、俺はその獣から目を離せずにいた。

「ハツ……ハァハァハァ……」

 息が苦しい。
 俺は今、イチノセさんを抱えて、全力で走っている筈だ。
 レベルが上がり300を超えた『敏捷』に、逃げる際に補正が掛かる『逃走』。
 自分でも信じられない程の速度が出ていると思う。

 なのに―――まったく逃げ切れる気がしない。

 いや、そもそも俺は今、本当に走っているのか?
 本当は、その場で立ちすくみ、震えているのではないか?
 そう錯覚してしまう。そう思わされてしまう。
 それ程に、アレは別格だ。

≪熟練度が一定にたしました≫
≪恐怖耐性がLV7から8に上がりました≫
≪熟練度が一定に達しました≫
≪恐怖耐性がLV8から9に上がりました≫
≪経験値を獲得しました≫
≪現在スキルの申請を行っています≫

 ヤバい、ヤバいヤバいヤバい。
 アレは駄目だ。アレは無理だ。

「―――――――――――ゥォン」

 小さな声が聞こえた。
 『聞き耳』スキルが無ければ、見逃していただろう小さな鳴き声。
 ゴポリと、何かが聞こえた。

「クドウさんっ!」

 イチノセさんが叫ぶ。
 真横―――壁から『手』が生えていた。
 獣と人の中間の様な、歪で巨大な黒い手が。
 掌の大きさは、数メートルはあるだろうか。

「~~~ッ!?」

 反射的に横へ飛ぶ。
 刹那、俺の居た場所を黒い手が叩きつけた。
 地面が抉られ、暴風が舞う。
 一体どれほどの威力だったのか。
 叩きつけられた地面には小さなクレーターが出来ていた。
 俺たちは吹き飛ばされ、地面を転がる。
 アカが衝撃を吸収してくれたので、すぐに起き上った。

「い、イチノセさん、大丈夫ですか?」
「な、なんとか……」

 だが、敵は待ってくれない。
 更に壁や地面、あらゆる場所―――いや、正確には『影』のある場所から無数の黒い手が現れる。

「―――ウォン」

 ダーク・ウルフが小さく吠える。
 次の瞬間、『手』は爆発的な速度で伸びた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」

 『危機感知』、『敵意感知』、『予測』を使い、全力で走る。
 蠅を潰すような張り手が空を斬り、地面を抉り、校舎を破壊する。
 おそらくは俺たちを攻撃するついでなのだろうが、瞬く間に校舎の一部分が崩壊した。
 悲鳴も聞こえてくる。でも、そんなの気にしている余裕がない。

 アイテムボックスから自販機や廃車を空中へ取り出し、即席の足場を作る。
 走っているだけでは無理だ。立体機動的な動きをすることで、なんとか敵の攻撃を躱す。

「―――ッ!そこ!」

 イチノセさんが、背後から迫る黒い手に向けて発砲する。
 銃弾に当たった一部が散った。
 ―――物理攻撃は利くのか!
 というか、背負わされてる状態でよく撃てるな、この人。
 だがイチノセさんの銃弾を浴びた黒い手は、瞬く間に再生する。

「ならっ!」

 MPがもう無い以上、使える手段は限られている。
 俺は目の前に迫る黒い手に向けて、アイテムボックスを放つ。

「道を作る!」

 重機や自販機に押しつぶされる黒い手。
 道が開けた。

 ―――次の瞬間、目の前にダーク・ウルフが現れた。

「…………は?」

 移動……した?あの一瞬で?
 よく見れば、足元が黒い腕と同化している。
 そうか、コイツは闇と闇の間を行き来することができるのか……。
 なぜか、妙に冷静に状況を読み取った。
 すぅっとダーク・ウルフが息を吸う。
 ヤバい!最大限の警鐘が鳴る。

「~~(ふるふる)!」
『ウォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!!』

 身に纏ったアカが全身を膨張させるのとほぼ同時に、ダーク・ウルフは吠えた。
 それはモモやハイ・オークと同じ『叫び』のスキル。
 物理的な破壊を伴った叫びは、ゴムまりのように俺たちを吹き飛ばした。
 叩きつけられたのは、学校の校舎の壁。
 強制的に、俺たちは学校へと戻されてしまった。

「痛っ……あ、アカ……無事か?」
「……(ふる……ふる)」

 擬態が解け、すこし小さくなったアカを見つける。
 どうやら今の一撃で、体の一部が散ってしまったらしい。
 物理攻撃が一切効かないアカの体を散らすって、一体どんだけの威力なんだ……。

「い、イチノセさんは……?」

 少し離れたところに倒れたイチノセさんを見つける。
 無事か……。 
 いや、この状況じゃ無事とは言えないか。

 数メートル離れたところに、ダーク・ウルフは悠然と佇んでいる。
 真っ黒な瞳は、真っ直ぐに俺を見つめている。
 逃がさない、とでもいうように。
 ハイ・オークの時といい、今といい何で俺こんな執拗にモンスターに狙われるわけ?
 こんなモテ期望んでなかったよ、こんちくしょう。

 どうする?どうすればいい?

 逃げるのは失敗した。
 MPがもう無い以上、忍術は使えない。
 アイテムボックスで奇襲を仕掛ける?
 いや、無理だ。あのスピードじゃ躱される。
 『影』で拘束すればどうだ?それとも何とか接近戦に持ち込む?
 ……どれも勝ち目があるとは思えない。

「わんっ!」

 すると、モモが影から出てきて、俺に向かって吠えた。
 諦めるな!と言っている様だ。
 ははっ、本当にモモは強いな。

「……大丈夫、まだ諦めてねーよ、モモ」

 大丈夫だ、試しても見ない内から諦める気はねーよ。
 正直めっちゃ怖い。今も足がすくんでるし、死ぬかもしれない。

 でも、そうやってお前が諦めてない以上、俺が諦められる筈もない。
 昨日のハイ・オークの時も、そして今回も、モモには助けられてばかりだな。
 モモの頭を撫で、立ち上がる。
 まだまだ足掻く。

「……ん?」

 不意に、ダーク・ウルフの視線が、俺を見ていない事に気付く。
 なんだ……?何を見ている?

 その視線は、なぜか俺の隣―――モモに注がれていた。
 とてつもなく『嫌な感じ』がした。

「ッ―――モモッ!」
「わんっ!」

 反射的に、俺はモモを突き飛ばそうとする。
 なぜだか、そうしなければいけないと思ったのだ。

 モモもなんか危険を感じ取ったのだろう。
 すぐにその場から飛びのこうとする。

 だが、遅かった。 
 その前に、モモの真横から『闇の腕』が現れる。
 それは一瞬の内に網の様に変化し、モモの身体を絡め取った。
 そして―――

「モモおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 ゴクンと、モモを吞み込んだ。
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