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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 作者:よっしゃあっ!
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81.未だに俺には覚悟がない


 首筋に刃(アカ擬態)を当て、俺は魔物使いに肉薄する。
 即興の作戦だったが、上手くいったようだ。

「―――さあ、死にたくなければ言う事を聞いてもらおうか、魔物使い?」

 そう口にしながら、俺は内心震えていた。
 『交渉術』スキルのおかげか、ずいぶんペラペラと口は回る。
 でも実際、内心はガクブルだ。
 なにせ俺が今刃を突きつけているのは、モンスターじゃない。人だ。
 俺は人に刃を向けている。
 それも年端のない少女にだ。

 モンスター相手なら簡単なのに、どうして同じ人を相手にするとこんなに緊張してしまうのだろう?

 そんなの分かっている。
 単純に俺が割り切れていないだけだ。

 ―――人を傷つけるのは、駄目な事。

 日常ならば当たり前の感覚。
 そして今の世界では、邪魔になるだけの感覚。
 それが俺の中に、まだ残っている。
 頭では分かっているんだ。
 さっさと殺してしまった方がいい、と。
 殺さないにしても、腕や足でも痛めつけて、拘束した方がいいと。
 それが分かっているのに実行できない。実行したくない……。

 『ストレス耐性』がもっと上がれば、こんな感覚も薄れていくのだろうか?
 もしくは別の耐性スキル―――『忌避感耐性』とか『罪悪感耐性』みたいなのがあれば違っただろうか。
 ……いや、余計な事は考えるな。
 目の前の事に集中するんだ。

「抵抗するなよ。今すぐモンスターたちを大人しくさせろ。操ってるお前なら出来るだろ?」

 それを聞いて、先程まで強張っていた魔物使いの表情が微かに柔らかくなった。
 驚いている様な、ほっとした様な、そんな感じの表情。

「……随分お優しいんだな」

「出来れば穏便に済ませたいんでね」

「穏便に……ねぇ……」

 魔物使いは何か言いたげだったが、大人しく両手を上げた。
 それが合図だったのか、それまで暴れていたモンスターたちが途端に大人しくなる。

「な、なんだ?」
「コイツら急に大人しくなったぞ」
「ど、どうなってるの……?」

 食堂に残っていた生徒たちに動揺が走る。
 それでもその声には若干の安堵が含まれていた。

「―――『戻れ』」

 次に彼女がそう口にすると、食堂を覆っていた『闇』も消えてゆく。
 大人しくなったモンスターたちも、足元に現れた闇に取り込まれるようにして消えていった。
 先程までの喧騒が嘘のように、静寂が満ちる。

「た、助かった?」
「大丈夫なのか……?」
「ね、ねぇ葛木さんの隣にいる人、誰?」
「フード被ってて、顔がよく見えねぇな……」
「あの人が助けてくれたの……?」

 ……注目の的だな。仕方ないっちゃ仕方ないけど。
 西野君や六花ちゃんもじっとこっちを見ている。
 イチノセさんは……まだ銃の構えを解いていない。
 いつでも撃てると言っている様だ。
 大丈夫だよ、少なくとも今はまだ。

「……意外と素直に言う事を聞いてくれたな」

「そりゃ死にたくねーからな」

 彼女は忌々しそうに俺を睨み付ける。

「……誤算だったよ。アンタみたいなやつがいるなんて、予想もしてなかった。クソったれ」

「そうかい」

「あーあー残念だったぜ。ここで大量に経験値ゲットできると思ってたのによぉ……」

 ゲームオーバーかよ、と彼女はまるでゲームか何かのように呟く。
 それは俺が先程まで感じていた想いとは真逆。
 人を人とも思っていない言葉だった。

「お前狂ってるよ……」

 ついそんな言葉が出てしまう。
 すると魔物使いは意外そうに目を丸めた。

「そうか?誰だって自分が一番だろ?化け物だらけのこんな世界じゃ、どれだけレベルを上げても上げ足りないなんてことはねーんだし、他人に構って足元すくわれるよりかは何ぼかマシだと思うぜ?アンタは好きに生きたいとは思わねーのか?」

 好きに生きる……か。
 確かに、彼女の主張は、今のこの世界においては正論なのかもしれない。
 力を持った者が絶対で、今の世界では既存の価値観や権力にはなんの意味も無い。
 ならば自由に―――好きに生きた者勝ちだと。

「否定は、……しないよ。俺だって、そう褒められた生き方はしてないからな」

「へぇ……」

 彼女はじっと俺を見つめ、ぽつりと俺にだけ聴こえる声で、

「……なあ、アンタ、今からでも遅くねー。俺と手を組まねーか?」

 そんな提案をしてきた。

「は?」

「アンタ、見たところ隠密や暗殺系の職業かスキル持ちだろ?俺ならそのスキルを、もっと『強化』出来るぜ?モンスターの軍勢だって付いてくる。仲間にして損はない。どうだ、悪い話じゃねーだろ?」

 スキルや職業の強化だと……?
 もしかして、俺の『アイテムボックス』や『早熟』の様なレアスキルか?
 それがこれだけのモンスターを従えさせている理由……。

「……そんな話に乗ると思うか?俺はお前を信用できない」

「信用してくれよ。俺だって死にたくねーんだ。それに、アンタからは、なんとなく俺と同じ『匂い』がするんだ。きっといいコンビになると思うぜ?」

 会ったばかりだと言うのに何を言ってるんだ。
 そもそもコイツはこの学校に居る人間すべてを殺そうとした狂人だぞ。
 耳を傾けるな。コイツは、体の良い事を言って、俺の隙を窺っているだけだ。

「悪いが―――」

「「あーーーー!見つけたーーー!」」

 会話を打ち切ろうとした俺の声を遮って、食堂に声が響いた。
 目を向ければ、入口付近に小さな双子が居た。
 あれは……さっきここへ来るときにすれ違った双子か。

 その体には所々にモンスターとの戦闘の跡がみられる。
 やはりスキル持ちだったか。

「どうやら援軍も到着したみたいだな」

「っ……」

 俺がそう言うと、彼女はいよいよ諦めたように下を向いた。
 その反応からして、あの双子が彼女の味方って事はなさそうだ。

「おーい、かんねんしろー!」
「ふははは、見つけたのだ、わるものよ!」

 そう言うと、少女の手には火球が、少年の手には螺旋状の石が出現した。
 へぇ、魔法系のスキルなのかな。
 やっぱ、ああいうスキルもあるんだな。
 そんな風に、何気なく俺が考えていると―――『危機感知』と『敵意感知』が発動した。

「「その人から、はなれろ悪者ーーー!」」

「―――は?」

 それは完全に予想外の一撃だった。
 いや、正確には二撃か。そんな事はどうでもいい。
 あろうことか、彼らの攻撃は『俺』に向かって放たれたのだ。

「なっ……!?」

 殆ど反射で俺は、二人の攻撃を避ける。
 外れた攻撃は、そのまま食堂の壁に当たり、一部が燃え、砕け散った。
 あ、あぶねぇ……。当たってたら、間違いなく死んでたぞ……。

「お、お前ら何す―――がはっ!?」

 その隙を、彼女が見逃すはずがなかった。
 思いっきり体を捻り、俺の横腹に蹴りを入れた。
 そのまま、バックステップで俺から距離をとる。

「ははっ、ラッキー」

「お、お前っ……!」

 嘘だろ?いくら隠密や奇襲に特化してると言っても、俺の『耐久』は3ケタを超えてるんだぞ?
 それに、いくら不意を突かれたとはいえ、今の俺が反応できない速度だと?
 いや、それよりも、だ。
 俺は横目で、入口付近に居る双子を見る。
 コイツら、何で俺に攻撃を―――?

「あれ?なあ、ねーちゃん。とーかねーちゃんが、悪者はおんなのひとって言ってなかったかー?」
「なにをいっているのだ、弟よ!うらわかきおとめに刃物をむけてたのだ!それにあんな怪しい見た目なんだしあの男が悪者でまちがいないのだ!」
「そっか!そうだよなー!さすがねーちゃん!」

 ……どうやらあの双子、俺の方を事件の首謀者だと誤解しているらしい。
 子供を本気でぶん殴りたいと思ったのは、生まれて初めてだ。
 くそったれ、余計な事しやがってッ……!

「あっひゃひゃ……ゲームオーバーかと思ったけど、どーやら運は、まだまだ俺に味方してるみてーだな」

 彼女は嗤う。
 その瞬間、小さな発砲音が連続して聴こえた。
 イチノセさんの狙撃だ。
 俺から魔物使いが離れた瞬間、彼女は即座に動いたようだ。
 狙いはこめかみと太もも。
 即死、もしくは行動の阻害を狙ったのだろう。
 その躊躇の無さに感心する。
 だが―――。

「効かねぇよ」

 銃弾は、その数センチ手前で『停まって』いた。
 またあの『闇』が、彼女を銃弾から守ったのだ。

「出番だぞ!犬ッころ!」

 刹那、巨大な獣が彼女の足元から現れる。
 三度目の邂逅。

「―――ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」

 雄叫びを上げ、ダーク・ウルフが、その姿を現した。

「なんだあの犬……」
「なんかすげー強そうなのだ……」

 双子は突如現れたダーク・ウルフに目を奪われている。
 他の生徒たちも同様だ。震えて肩を抱いている者も居る。
 それだけ、ダーク・ウルフの強さが印象深かったのだろう。

 でも……だからどうした。

 今のそいつは万全には程遠い。
 既に二度にわたる戦闘で、相当消耗している筈だ。
 実際、俺や生徒たちが与えた傷はまだ癒えていない。
 今なら勝てる。

「今なら勝てるって面してんなぁ、おい?」

 すると、まるで俺の考えを呼んだかのように、魔物使いが気味の悪い笑みを浮かべる。

「甘ぇよ。みせてやる。コイツが俺の切り札だ」

 彼女はダーク・ウルフに手を添えた。

「―――『使い魔強化』」

 次の瞬間、ドクンと。ダーク・ウルフの体が大きく脈打った。
 全身から黒い湯気の様な物が立ち昇り、傷が癒えてゆく。
 肉体は肥大化し、体に纏う闇がより一層深くなっている。
 明らかに、以前よりも強くなっていた。

 モンスターを……強化するスキルだと……?
 俺は棒立ちでその光景を眺めていた。
 俺だけじゃない。その場にいる誰もが、動けずにいた。
 その光景に飲まれていたのだ。
 それ程に、ダーク・ウルフの威圧感は圧倒的だった。

「さあ、コンティニューだ」
ツギクルバナー
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