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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 作者:よっしゃあっ!
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78.惨劇の引き金


 突然の発砲音。
 吹き飛ばされた女子生徒。

 その場にいる生徒たちは、みな固まっていた。
 時が止まったかのような静寂。
 何が起こったのか、理解が追い付かなかったのだろう。

 だが、やがて倒れた女子生徒を見つめ、誰かが悲鳴を上げた。

「……き、きゃああああああああああああああああああ!」
「な、何だ!?何が起こった!?」
「葛木さん!?」「おい、大丈夫なのか!?」
「なんか変な音がしたぞ!」

 そして時は動き出す。
 混乱が発生する。
 その中心、倒れた女子生徒の隣に居た少女、六花は固まったまま動けずにいた。

(な、何が……起こったわけ?)

 意味が分からなかった。
 突然のメール。頭の中に響いた声。
 送り主の名前、内容、そしてこの事態。
 元々考えるのが苦手な彼女だ。
 既に脳は情報を処理しきれず、オーバーヒートを起こしていた。

(そ、そうだ、葛木っちは……)

 突然、吹っ飛んだクラスメイトへ視線を向ける。

(……えっ?どういう事……?)

 その姿を見て、六花は驚きの表情を浮かべた。


 ―――その様子を、『俺たち』は影から見つめていた。

「イチノセさん」

「ええ、分かって、ます……」

 イチノセさんは油断なく銃を構え、俺やモモ、アカも既に臨戦態勢に入っている。
 なぜこんな事態になっているのか?
 それを説明するには、少し時間を遡らなければいけない。



 ―――数分前。
 俺たちは二度目の侵入を果たしていた。

「……よし、モモ、頼んだぞ」
「わふっ」

 モモは力強くうなずく。
 ちなみに、モモは今、イチノセさんに抱きかかえられた状態だ。
 こうやって、常に触れていれば、モモにもイチノセさんの『認識阻害』が伝わる。
 匂いを辿るのは、影に入ったままの状態じゃ無理だからな。
 こうして貰うのが手っ取り早い。

 一応、俺もスキルも発動はしている。念のためだ。
 何かあったら、すぐに逃げられるよう準備はしておかないと。
 特に『索敵』は常に神経を張り巡らせておく。
 魔物使いの方も厄介だが、あの会長にも遭遇したくない。
 万が一見つかり、『魅了』や『洗脳』を使用されたら厄介だ。
 あの会長の気配は分かるから、距離を保てば問題ないはず。
 抱きかかえられたモモはすんすんと鼻を鳴らす。

「あっちか……」

 モモは『影』で足元に矢印を作り、行く先を示してくれる。
 それに従い、校内を移動する。
 ……気付かれてないよな?
 生徒や避難民たちは、俺たちをまるでいない者として横を通り過ぎてゆく。
 大丈夫だとは分かっていても、ドキドキする。

「……随分騒がしいな」

 以前潜入した時と違い、校内は物々しい雰囲気に包まれていた。
 ダーク・ウルフの襲撃が尾を引いているのだろう。
 生徒たちはせわしなく走り回り、避難民の中には泣きわめいている者や、ヒステリックに騒ぎ立てる者も多く見られた。
 ……西野君がいたホームセンターを思い出すな。
 あの時も、避難民たちはこんな感じで、騒ぎ立てていた。
 こういう人たちって、どうして自分達は何もしないくせに、自己主張だけは一人前なのだろうか?そもそも、保護して貰って、文句を言える立場ではないのに。
 集団心理って面倒だよな。同調する数さえ集まれば、何を主張しても良いみたいな雰囲気が出来るんだから。
 そんな俺たちの横を子供たちが元気に駆け抜けてゆく。
 似てるな。双子だろうか?

「なあなあ、ねーちゃん、なんかすげーうるせーぞ。お昼寝できねー」
「ははは、弟よ!こいつらはいわゆる『うごーのしゅー』というやつなのだ!気にしたらまけなのだ」
「おー、ねーちゃんすげー!そんなことばしってるんだ!……どういういみなん?」
「しらないのだ!」
「さすが、ねーちゃんだぜ!」

 こんな時でも、子供は元気だなぁ……。
 というか、あの子達からは、妙に強い気配を感じるな。
 もしかして、スキル持ちだろうか?
 モモが反応しないところを見ると、『魔物使い』ではなさそうだけど……。
 いや、今はいいか。『危機感知』や『敵意感知』も特に反応してないし、放っておこう。
 背後に遠ざかってゆく彼らの声を聴きながら、俺たちは校内を探索してゆく。


……―――

「んー?」
「どうした、弟よ?」
「……いや、なんか、いま『へんなかんじ』がしたような……?」
「……?」

 ―――……


 校内を探索して数分。
 あるポイントに来た時、モモが静かに吠えた。

「……わふ」

 たどり着いた場所は、学生食堂だった。
 ここに魔物使いが居るのか……。
 中から感じる気配は十数名ほど。
 今のところ『危機感知』は発動していない。

 食堂に入る。
 中は解放的な造りになっており、入り口部分から調理場以外は全て見通せた。
 その中に学生たちの集団があった。
 しかも見知った顔がちらほらいる。
 西野君、六花ちゃん、インテリ眼鏡君、それにショッピングモールに居たスポーツ少女も居た。

「リっちゃん……ッ!」

 イチノセさんもすぐに彼女の存在に気付いたようだ。

「イチノセさん、気持ちは分かりますが、今は抑えて下さいよ?」

「わ、分かってます」

 本当に分かっているのだろうか?不安だな……。
 にしても、何について話してるのかな?
 『聞き耳』を立てると、どうやら彼らも『魔物使い』ついて話しているようだった。
 彼らも、気付いたのか。
 話を聞く限り、魔物使いの存在に気付いたのは、あの生徒会長。
 これからその探索を行うらしい。
 ……やっぱり、あの会長は相当頭が切れるな。
 俺たちと違って、事前の情報なしにそこにたどり着くなんて。

 まあ、彼らの誤算は、その探し人がここに居るって事だな。
 獅子身中の虫ってヤツか。
 モモはすんすんと鼻を鳴らし、一人一人確かめるように見つめる。
 そして一人の人物の前で、視線が止まった。

「……『アイツ』がそうなのか?」

 モモは頷いた。
 その人物を見て、イチノセさんも思わず目を見開く。

「……ま、間違いないんですか?」

「モモが間違えるはずがない。だろ、モモ?」

「わんっ」

 モモはもう一度、自信満々に頷く。
 そうか、アイツが魔物使いか……。

 モモが眼を向けたのは、ショッピングモールに居たスポーツ少女だった。

 名前は……あ、ジャージに『葛木』って書いてある。
 多分、本人のだよな?葛木っていうのか。

 なんというか、意外だな。
 見た目はとても、モンスターを人に襲わせるような性根の持ち主には見えない。
 ショッピングモールでもガタガタ震えて、死体の山見て吐いてたし。
 それとも、アレは演技だったのだろうか?
 人は見かけによらないっていうし。

 さて、これから、どうするか?
 魔物使いの正体は分かったわけだし、彼女の正体を西野君や六花ちゃんに『メール』で送り、俺たちはこの場を離れる。
 イチノセさんには、なんとなく勢いで西野君たちとどこかで落ち合ましょう的な事を言ったけど、よく考えればメールだけで十分な気がしてきた。

 そもそも情報を教えれば、それで十分じゃないか。
 信じる、信じないは彼ら次第だが、流石にそこまで義理立てする理由はない訳だし。
 うん、そうだよ。
 ……よくよく考えれば、何で俺、他人の為にこんなに必死になってるんだろう?
 いや、イチノセさんに頼まれたからだよな。
 まあ、確かに彼女は同じパーティーメンバーだし、そもそも命を救われた『借り』だってあるんだから、その借りをきちんと返すまでは―――……。
 そこまで考えて、ハッとなる。
 借りを返すまでは?
 じゃあ、返した後はどうする?

「……」

 酷く打算的で、醜い考えが脳裏をよぎってしまう。
 流石にダメだよな、そんなこと考えちゃ……。

「……クドウさん」

「おっふ」

 あ、ヤバい。変な声出た。

「……どうしました?」
「な、なんでもないです……。それよりも、どうしました?」

 横目で、イチノセさんを見る。
 その瞳には、なにか決意が宿っていた。

「仮に……ですけど。もしこの場で彼女を……わ、私が撃てば、それで全部解決するんじゃ、ないです、か……?」

「ッ……そ、それは―――」

 イチノセさんの提案に、思わず俺は言い淀んでしまう。
 確かに、極論だがこの場で彼女をどうにかすれば、それで問題は全部解決する。
 でも、まさかイチノセさんの方から、それを言い出すなんて……。

「出来るん、ですか?」

「……やります」

 そう言ってイチノセさんは銃を構える。

「いま……この場で、アイツを仕留……めれば、それで全てが解決します。この距離なら、外しようがないですし……わ、私が、アイツを―――」

「―――『殺す』、ですか?出来るんですか、イチノセさんに?」

 はっきりと『殺す』という単語を口にすると、イチノセさんは一瞬押し黙った。
 そして、ゆっくりと頷く。

「……出来ます。私が……言い出した事です。自分の、言葉には……責任を、持ちます……」

「そうですか……」

 彼女なりに、俺たちを巻き込んでいる自覚はあるのだろう。
 だからこそ、手を汚すのは自分だと申し出たわけだ。
 でも、

「駄目です。許可できません」

「ッ……どうしてですか?」

「理由は二つ。一つ目は、イチノセさんが発砲した場合、仕留める仕留めないに関わらず、俺たちの存在が、ここに居る生徒たちに露見する可能性があります」

 イチノセさんの『認識阻害』と『狙撃』は強力だが、万能じゃない。
 スコープ越しだと、スキルを発動していても『視線』に気付く事が出来るし、一度相手に認識されると、その効果が徐々に薄くなるというデメリットがある。

 万が一にも、俺たちは彼らに存在を知られるわけにはいかないんだ。
 だって銃を持った元同級生に、『影』を操る犬と擬態できるスライムを連れた謎の男だぞ?
 ヘタすれば、俺たちの方が『魔物使い』扱いされてしまう可能性がある。
 逃げ切るのだって難しくなるしな。

「それに二つ目の理由として、今この場で、アイツを確実に仕留められる保証がないという点です」

「……どういう事ですか?」

「直視するまで気づけなかったのですが、彼女から『嫌な気配』を感じました。正確には、彼女の足元の『影』から」

「ッ……それって……」

 その言葉で、イチノセさんも気付いたようだ。

「ええ、おそらく彼女の『影』には、ダーク・ウルフが潜んでいる筈です」

 いや、もしかしたら、それ以外のモンスターもあの『影』に潜んでいるかもしれない。
 あれだけの騒ぎを起こしたのだ。
 敵陣に丸腰で居るはずがない。
 何らかの自衛手段を持っていると考えるのが普通だろう。
 その点で言えば、影や闇に潜み気配を断つことが出来るダーク・ウルフは、非常に都合のいいモンスターだ。他にも、アカのように『擬態』したスライムだって保有している可能性もある。
 つまり最悪、アイツに攻撃を加えた瞬間、その場で戦闘が始まる可能性もあるのだ。

「……そう、ですね。クドウさんの言う通りです。考えが足りず、すいません」

「いえ、いいですよ。とりあえず、今は『彼女』の監視を続けましょう。もしかしたら、狙撃できるチャンスが訪れるかもしれませんし」

 頷き、イチノセさんは銃口を下げる。

 だがその直後、葛木が西野君や六花ちゃんの方へと近づいた。
 傍から見れば、彼女達は他愛ない世間話をしているように見えただろう。
 だが、彼女の正体を知る俺たちからすれば、それは全く別の光景に見えた。

「ッ……!リっちゃん!」
「だ、駄目です!抑えて下さい!」
「で、でも!」
「油断はならない状況ですが、俺たちの正体を知られるわけにもいきません。『メール』を送りましょう。彼女から離れて貰えば、最悪カバーできます」
「は、はい……」

 急いでイチノセさんはメールを送信する。
 その瞬間、ピクリと、六花ちゃんが反応する。

「どうした、六花?」
「いや、今なんか、おかしな声が聞こえてさ。『メールを受信しました』って」
「メール?」
「うん」

 どうやら、無事にメールを受け取ったらしい。
 これで六花ちゃんは、魔物使いから距離をとるだろう。
 これでいい。
 そう思った、次の瞬間だった。

 ―――ざわりと、寒気がした。
 『危機感知』が発動した。

「え……?」

 それはまさに最悪のタイミングだった。
 俺たちがメールを送った直後。
 葛木の―――魔物使いの『影』が動いたのだ。
 西野君は気付いていない。六花ちゃんも。無論、他の生徒も。
 この場で、その『異変』に気付いたのは、俺たちだけだった。

 まさか―――ここで仕掛ける気か?

 馬鹿な、何を考えて―――いや、今は考えてる暇はない!

「―――クドウさん!」

 イチノセさんは既に銃を構えている。
 止めろ、そんな事をしたら、俺たちがここに居る事がばれるだろ、ここは彼女を見捨て―――いや、くそっ!

「撃てっ!」

 気づけば、俺は叫んでいた。
 躊躇なく、イチノセさんは引き金を引いた。
 乾いた発砲音が木霊する。
 発射された銃弾は、寸分の狂いも無く魔物使いの少女の眉間へと吸い込まれてゆく。

 そして―――彼女の眉間は、銃弾を『吸い込んだ』。

 そのまま、彼女は地面へと倒れる。
 静寂、そして悲鳴。

 生徒たちが混乱する中、俺たちは倒れた魔物使いから視線を逸らせなかった。
 今のは……?当たって……いない?
 吸い込まれたように見えた。
 よく見れば、彼女の額には、小さな『闇』が広がっていた。
 あれは……ダーク・ウルフの能力?

「―――痛ェじゃねぇか……」

 ぽつりと、漏れる言葉。

 ―――来るっ。

 次の瞬間、『闇』が広がった。
ツギクルバナー
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