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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 作者:よっしゃあっ!
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70.生徒会長


 周辺をクルクルと見て回り、入りやすそうな場所から校内へ侵入する。
 見張りがいたが、気づかれることは無かった。
 やはりハイ・オークやダーク・ウルフ並みの探知能力が無ければ、俺達に気付く事は出来ない様だ。
 よかった。ここ最近、スキルの通用しない敵とばっか当たってたから、不安になっていたのだが、やっぱスキルはちゃんと仕事してたようだ。
 更に校舎内に入ったことで、イチノセさんの『認識阻害』が発動する。
 俺のスキルも合わせて発動させてるし、これで気づかれることはまずないだろう。
 実際、俺達が廊下を歩いていても、彼らは気にも留めない。
 これで堂々とこっそり探索が出来るってもんだ。

 しかし母校に来たのも数年振りだな。
 懐かしいなぁ。
 上履きを履かず、土足で入る。
 そんなこと気にしている場合かと言われるかもしれないが、何となくいけない行為をしているように思えてしまう。
 連れションは良いけど、大の方だと途端にからかわれたり、上級生と下級生の間には暗黙のルールが在ったり、社会人になればどうでもいいと思える事に異常な程にこだわったり、ある意味社会以上にカースト制度が形成されてたり。
 ホント、学校って不思議な場所だよな。
 ぶっちゃけ、碌な思い出が無い。
 イチノセさんの事を笑えないな。

「……クドウさん、ガソリンとライターってアイテムボックスに入ってます?」

 入ってますが、あげません。
 物騒な事を呟くイチノセさんを尻目に、校内を見回す。
 俺の記憶にあるのと、あんまし変わってない。
 好都合だな。イチノセさんと手を繋ぎながら、校舎内を移動する。
 こうしてないとお互いにスキルの効果が伝わらないし。
 ……手汗をかかないように注意しなければ。
 あとイチノセさん、手凄く柔らかいですね。ありがとうございます。
 俺達のすぐ横を、バタバタと人が通り過ぎてゆく。

「すいませーん、田中さんのご家族の方は―――」「けが人はこちらへ。物資の配給は向こうに!」「大丈夫です、大丈夫ですから、落ち着いて下さい」「おねーちゃん、はらへったよー」「がまんするのだ、弟よ。ほら、あめをやるのだ!」「やったーさすがねえちゃん!」「探索班が戻って来たぞー」「おい、聞いたか?西野たち生きてたって」「マジかよ」「今、会長たちと会ってるってさ」「男性の方で探索に協力してくれる方はこちらへ―――」

 『聞き耳』を立てて、通り過ぎてゆく人や近くにいる人の会話を盗み聞きする。
 ……予想以上に人が多いな。
 校門はもちろん、校庭や壁際、周辺の道路に隣接する場所まで、そこかしこに人が居る。
 殆どが避難民か学生だけど、その数は百人近くは居るかもしれない。

「……思ったよりも混乱してませんね」

「確かに……」

 子供たちが廊下を走っているし、声は飛び交っているが、悲鳴や泣き声は聞こえない。
 廊下のあちこちには校内の見取り図が張られ、玄関には伝言板らしきものも設置されている。
 きちんと組織化され、整備されている。
 おそらくこの学校にも『頭』が居るのだろう。
 ホームセンターを取り仕切っていた西野君の様に。

 でもこの非常時に、これだけの人数を取り仕切れるなんて、一体どんな奴だ?
 相当な影響力や統率力が無きゃ、ここまで人をまとめ上げるなんて出来ない筈だ。
 ……情報を集めるなら、ソイツの所か?

 『索敵』に引っ掛かった強い気配がするのは、三か所。
 職員室と生徒会室、それに校門付近。
 校門付近は、きっと偵察から帰ってきた人たちだろう。

 そういえば、さっき西野君は会長に呼ばれたって言ってたな。
 会長って……多分、生徒会長の事だよな?
 なら、そこへ向かうのが一番いいか?

「……イチノセさん、体調は大丈夫ですか?」

 ちらりと、イチノセさんの方を見る。
 ここは彼女にとってはあまり好ましくない場所だろう。
 事実、顔色はあまり優れない。

「……も、問題ありません」

 強がっているのが丸わかりだ。
 顔色は悪いし、目も泳いでいる。あと耳が赤い。
 でもこの調子でいけば、もしかしたら『ストレス耐性』とかを獲得できるのではないだろうか?
 なんとか吐かずに頑張ってくれイチノセさん。君なら出来る。
 そしてスキルゲットだ。
 心の中でイチノセさんを応援し、俺達は生徒会室を目指した。



 その頃、生徒会室では―――。

「お久しぶりですね、西野君」

 生徒会室にて、西野はその人物と対面していた。

「……お久しぶりですね、会長」

 正直、会いたくなかったという雰囲気を隠す事も無く、西野は適当に返事をする。
 その態度に、会長と呼ばれた少女は口に手を当てて、くすりと笑った。

「そんなに嫌な顔をしないで下さいよ。私は別に西野君に嫌われる様な事をした覚えはないのですが?」

「まあ、そうですね。ただ、俺や相坂にしてみたら、会長みたいな人はやっぱり別世界の人間なんで……」

 西野の前で、机の上で腕を組みながら座る少女。
 彼女がこの学園の生徒会長、五十嵐十香いがらし とうかだ。
 容姿端麗、頭脳明晰という言葉がぴったり当てはまる程の典型的な美少女。

 そして―――西野が最も嫌いで、距離を置きたい人物でもある。

「そんなことありません。私だって普通の女子高生です。西野君たちとなんも変わらないよ?」

 それを聞いて、思わず西野は噴き出しそうになる。
 どの口がそれを言うんだか。

「会長も冗談を言うんですね。普通の女子高生は、こんな風に人をまとめる事なんて出来ませんよ。ここへ来る途中に聞きましたよ。モンスターが現れてからずっと、会長が動いて皆をまとめ上げていたんでしょう?中々できる事じゃありませんよ」

「必死だっただけですよ。モンスターが現れて、先生たちも我先に逃げる人が多かったんです。だから残った人たちで何とかしようって。だから、今の状況は、みんなで頑張って力を合わせた結果です」

「そうですか」

「そうなのです」

 西野の適当な返事に、会長は笑顔で答える。
 やりづらい。終始笑顔で、その内面が読み取れない。
 むしろ後ろに控えている生徒会メンバーたちの方が、余程分かりやすい。
 西野の適当な受け答えに、後ろの眼鏡をかけたインテリっぽい男子生徒―――確か副会長だった筈――はイライラした表情で自分を見ているし、他のメンバーも同じようなリアクションだ。

(……六花を連れてこなくて正解だったな)

 頭よりも体を動かすのが得意な彼女じゃ、この手合いは苦手だろう。
 本人にその気がなくとも、ついぽろっと自分達の情報を話してしまう可能性が十分にある。

(でも、うかつに動く事は出来ないか……)

 生徒会室に入り、彼女達を見た瞬間に分かった。
 五十嵐会長も含め、生徒会のメンバーは全員スキル持ちだ。
 どんなスキルを持っているか分からない以上、うかつに動く事は出来ない。
 表面上強がって見せても、会話の主導権は彼女達にある。

「それで、本題に入りますけど、西野君と相坂さんは、もうモンスターを倒しているんですよね?」

 ―――来た。
 西野は内心、警戒を強める。

「……ええ、そうですね」

「やはり……じゃあ、スキルやレベルの事もご存知ですよね?」

「ええ、知ってます」

 隠すつもりもない。
 どうせ、一緒に来た石崎や葛木からも伝わる事だ。
 尤も、伝わるのは『偽り』の情報だろうが。

「なら、単刀直入に聞きます。私達の仲間になっていただけませんか?」

「仲間、ですか?」

「はい。私達は今、非常に危機的な状況に置かれています。モンスターの脅威にさらされながらも、通信は使えない。救援もいつ来るか分からない。食料だって常にギリギリの状態です。この状況を何とかしたい、変えたいと私は思っているのです」

 五十嵐会長は目を伏せ、今の状況を嘆く。
 その仕草、語り口、その全てがとても眩しく見る者を惹きつけ魅了かのようだった。
 生徒会のメンバーもうんうんと頷いている。

「会長の仰る通りです」
「そうですわ。みんなでこの危機を乗り切りましょう!」
「そうだ、そうだ」

 その様子を、西野は酷く冷めきった目で見ていた。

(……逸れた柴田たちを見つけるためには、彼女達の協力が不可欠だ。でも、こんなおめでたい連中と手を組んで、本当に大丈夫か?)

 ここへ来たのは、仲間の情報を集めるため。
 彼女たちの戦力は魅力的だが、どうにも反りが合いそうにない。
 生き延びる為に、端から切り捨てていく西野とは正反対のタイプだ。

「ありがとう、みんな」

 そう言って、五十嵐会長は席を立つ。
 そのまま西野の正面に立ち、彼の手を握った。

「ッ……会、長?」

 余りにも自然な動作。西野は一瞬反応が遅れた。
 それは余りに致命的な隙だった。

「お願いします、西野君。私達に協力してくれませんか?」

 その『声』は透き通るように西野の耳に入って来て、

「以前のあなた達の素行の悪さに異を唱える人たちもいるかもしれません。でも、私は信じてます。アナタや相坂さんはとても立派で正義感に溢れた人だって」

 それはとても心地よく彼の脳を侵食し、

「みんなでこの危機を乗り切りましょう?」

 眩しく輝く彼女の瞳には酷く濁った顔をした自分が映り込んでいて、

「……ええ、そうですね。俺達でよければ喜んで協力しますよ」

 気付けば、西野は頷き、彼女達への協力を約束してしまった。

「ありがとう、西野君……」

 そうして微笑んだ五十嵐会長の顔はまるで女神の様だった。
 西野の心臓は高鳴り、体温が上昇するのを感じる。
 おそらく顔は赤くなっているのだろう。

「西野君たちには、物資の補給をお願いすると思います。市街地の探索は、スキルを持っている人たちに優先的にお願いしているので」

「ええ、分かりました……」

 こくりと西野は頷く。 
 ああ、そうだ。
 自分は今まで何を疑っていたのだろう。
 彼女はこんなにも真摯に自分に助けを求めていたのに。
 彼女の為に、自分に出来る事をしなければ。
 そんな思いがふつふつとわき上がってくる。

「それでは、今はしばし休んで下さい。指示は後で追って伝えますので」

「ええ、そうですね、会長。これから頑張りましょう」

 晴れやかな笑顔を浮かべながら、西野は生徒会室を後にした。



 そして、その気配が十分に離れてから、副会長の男子生徒は口を開いた。

「……上手くいきましたね」

「ええ、多少は警戒していたようですが、ああなってしまっては問題ないでしょう」

 先程とは打って変わったような冷たい声音。
 自分の椅子に座り、五十嵐会長は冷たい笑みを浮かべる。

「本当に『スキル』とは便利ですね。あれ程、警戒心の強い彼が、ああも簡単に靡くなんて……ああ、ゾクゾクします。ふふ、うふふふ……」

「会長のお力をもってすれば当然かと」

「ふふ、ありがとう。でも、彼に言った事も事実なのよ?この状況を何とかしたいと思っているのは本当なんだから。願わくば、また以前の様な平穏な学園生活に戻りたいわ……」

 そう、こんな世界などまっぴらごめんだ。
 早く戻りたい。取り戻したい。平穏な学園生活を。
 全てを支配し、誰もが自分に傅いていたあの頃を。
 彼女の憂いを帯びたその仕草に、生徒会のメンバーも思わず息を漏らす。
 その光景を見て、彼女は更に笑みを深くするのであった。



 そして、壁越しにその声を聴きながら、俺は冷や汗を流していた。
 ……この生徒会長、思った以上にヤベェ人だわ。
 そそくさと、俺とイチノセさんはその場を後にした。
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