233.後処理と狼王との同盟
前回のあらすじ
拾った魔剣が呪われてた
「折れろ! 折れろ! 折れろおおおお!」
「わんわんっ!」
『ぐあああああ! 痛い、痛い! 止めろ! それ以上叩きつけるな!』
アロガンツの悲鳴が脳内に響く。
なんて耳障りなノイズなんだ。
さっさと黙らせたくて、先程から何度も何度も瓦礫に剣を叩きつけたり、モモの暗黒弾をぶつけたりしてみたが、全然壊れやしない。
頑丈にも程があるだろ。どうなってんだよ、この魔剣。
『ふんっ、私を壊そうとしても無駄だ。そもそも、そう簡単に壊れないから、『魔剣』などという仰々しい名前が付けられているのだからな』
脳内に響くアロガンツの声が非常に鬱陶しい。
もう一回、地面に叩きつけて、ついでに破城鎚も試してみる。
『だから痛いから止めろと言っているだうが! 壊れずとも痛みはあるんだぞ!』
「お前が壊れないのが悪い」
『ソウダナ』
『そうだねー』
「わん」
「きゅー」
「……(ふるふる)」
満場一致で、皆頷く。
「だいたいなんでお前の意識が魔剣に宿ってるんだ? 死んだんじゃなかったのか?」
『……さあね。正直、私にとってもこれは予想外だったんだ。説明してほしいのは、むしろ私の方だ』
てっきり『置き土産』の効果かとも思ったが、どうやらこの状況はアロガンツにとっても予想外の事態だったようだ。
(アイテムボックスにしまっても勝手に出て来るし、捨てても勝手に手元に戻って来るし完全に呪いの装備だこれ……)
なんて迷惑な装備なんだ。
これ、俺が精神支配されるとかないよな?
『……この状態の私にそんな事出来るわけないだろう。どうやら魔剣に一部のスキルは引き継がれたようだが、その全ての決定権が、私じゃなくて君にある。なんて屈辱だ……』
「え、マジ?」
すると頭の中に『魔剣の使い方』なるものが流れてきた。
へー成程、内蔵されてるスキルは……え? これマジか?
このスキルも引き継いでるだと?
「おい、『傲慢』も引き継いでるってどういうことだよ?」
『だから知らないと言っているだろう。ああ、もうどうしてこうなったんだ……』
アロガンツの声は確かに鬱陶しいが、それを差し引いても魔剣の性能は破格と言っていいものだった。
(……壊せないならいっそ、一之瀬さんの武器創造の素材にしようかと思っていたが、これは保留にしといた方が良いな)
そんな風に考えていたら、影が広がって一之瀬さんたちが現れた。
「クドウさんっ! 無事でしたか?」
「何とか無事です。そちらも大変でしたね」
メールでも互いの状況は伝えてあるが、一応もう一度確認し合う。
お互いに相当綱渡りな状況だった。
なのでもう一度魔剣をぶっ叩いておく。
(あ、二条からもメールが来てる……)
向こうも無事に終わったらしい。
私、頑張りました! とか、先輩は大丈夫でしたか? とかなんか色々書いてあるけど、とりあえず返信は後でいいか。面倒だし。
皆が無事で本当に良かった。
「……で、そっちは?」
「……」
「えへへー、とお姉、とお姉♪」
五十嵐さんにべったりとくっついて離れないのは、魔物使いの少女――葛木さやかだ。
『魅了』によって籠絡され、学校で出会った時とは似ても似つかぬその姿に俺は少々……いや、かなり面食らってしまった。
最初は十香お姉さまだったらしいが、今ではさらに距離が近い呼び名になっている。
まるで昔から幼馴染だったかのような振舞である。
これには流石の五十嵐さんも困り顔だ。
「……葛木さん、いい加減離れてくれないかしら? 動きにくいのだけど?」
「えー、やだー」
誰、この子?
キャラ違いすぎだろ。
五十嵐さんは肩をがっくりと落として溜息を吐く。
「……まあ、スキルを解くわけにはいきませんし、これくらいは我慢します」
「が、頑張ってください」
諦めの境地に達した五十嵐さんに対し、俺はそう言うしか出来なかった。
ちなみに彼女が『天人』に進化した際、『魅了』を上位変換して獲得したスキルの名は『蠱惑』。魅了よりもさらに強い洗脳効果を持つ強力なスキルらしい。
効果のほどは、ご覧のとおりである。
「……五十嵐さん、分かっているとは思いますが」
「ええ、こんなスキル、みだりに使うつもりはありません。効果が強すぎて彼女のように元の人格すら改変してしまいますし、下手に数を増やせば、組織としての形が維持できなくなる。そんな事、私も望んでいません」
傾城傾国なんて言葉があるけど、彼女のスキルは正にそれだな。
本当に恐ろしいスキルである。
まあ、今の彼女なら信じても大丈夫だろう。
「ちなみに天人になれば、スキルを三つあげられると思いましたが、『魅了』以外は何のスキルを上げたんですか?」
「まだ保留中です。候補としては精霊召喚か、鑑定ですけど、カズトさんに私の持つスキルの上位版を調べて頂いてから決めた方が良いかと思いまして」
「ああ、確かにその方が確実ですね」
俺が今まで持っていた『質問権』は新しく手に入れた『管理者権限』に統合されたが、『質問権』としての機能はそのまま残っているらしい。
まだまだ調べたいことは山ほどあるし、これは正直助かった。
「……名前呼び? な、馴れ馴れしい。うぐぐ……」
「……? どうしました、一之瀬さん?」
「な、なんでもないですっ」
なにやら一之瀬さんが親の敵のように五十嵐さんを睨み付けているが、一体どうしたのだろうか?
対して五十嵐さんは眼鏡を上げて、なにやらドヤっている。
どうしたの?
「ま、まあ? 五十嵐さんはパーティーメンバーじゃありませんし? 別に呼び方なんて今更気にする必要ありませんし? ホント、別になんも気にする必要なんてないですしっ! ええ、ホント気にしてませんし!」
「……ナッつん、もう少し自分に素直になろうよ? おにーさんは元々鈍いうえに、多分耐性スキルの影響でその辺の感覚がほぼ死んでるんだし」
「り、リッちゃんは黙っててよっ」
……? 何の事だろうか?
まあ、とりあえず大したことではなさそうだし別にいいか。
魔剣をとりあえず破城鎚で殴る。
「あとはリベルさんとシュヴァルツか……」
ちょっと離れたところに浮かんでいた光の球体を見つめる。
あの光の球体こそ、リベルさんのスキル『神聖領域』で作りだされた異空間である。
リベルさんは、葛木によって支配下に置かれた狼王シュヴァルツを足止めするために、自身とシュヴァルツをあの空間に閉じ込めたのだ。
(……メールは送ったけど、送信できなかった)
おそらく『神聖領域』で作りだされた空間は、こちらとは完全に隔絶された世界になっているのだろう。
おそらくシュヴァルツもまだ葛木のスキルの影響――いや、命令を受けたままになっている。
こちらの状況を確認できない上、現実からの影響も受け付けない以上、彼女は制限時間ギリギリまであの空間から出て来る事はない。
すると光の球体に亀裂が走った。
「ッ――! 皆、お喋りはそこまでだ! 来るぞっ!」
「「「ッ――!」」」
その瞬間、全員に緊張が走る。
おそらく神聖領域から出た瞬間、葛木のシュヴァルツに与えられた命令は解除され、戦闘状態は解かれる……はず。
だが、僅かなタイムラグがある以上、油断はできない。
なにせシュヴァルツの攻撃は、文字通り一瞬で全てを闇で破壊する事も出来るのだ。
亀裂は球体全体に広がると、パリンと音を立てて破裂し、まばゆい光が溢れ出す。
「――上手くやったみたいね……」
「……ウォン」
光が収まると、そこにはボロボロになったリベルさんとシュヴァルツの姿があった。
相当激しい戦闘を繰り広げたのが見て取れた。
「状況は――へぇ……」
リベルさんは俺と、俺の持つ魔剣、そして五十嵐さんにくっ付く葛木を順に見つめると、何やら納得がいったように頷いた。
「成程、そういうからくりだったのね……」
「見ただけで分かったんですか?」
「……ええ。確かに、元々狼王と契約していた人間なら再契約を結ぶのは不可能じゃないわね。六王と契約を結んだ人間が居たなんて思いもしなかったわ……」
それはそうだ。
そもそも彼女がシュヴァルツと契約していたのは狼王になる前だ。
いくつもの偶然が重なり、ダーク・ウルフは進化しシュヴァルツとなり『狼王』を手に入れた。順序が逆だったからこそ生まれた例外中の例外ともいえる方法だ。
彼女が分からなかったのも無理はない。
「それにその魔剣……、どうやら随分面白い事になったみたいね」
「ええ、まあ……」
俺にとっては面白くもなんともないけど。
だがリベルさんは俺の方を見つめると、ふっと笑った。
「でも、よくやったわ……。強くなったわね、カズト」
「……」
そこまで面と向かって言われると、ちょっと照れくさいな。
「色々と話したいことが増えたけど、とりあえずちょっとだけ時間をくれないかしら? 正直、もう……限界」
その瞬間、リベルさんは糸が切れたように倒れ込んだ。
慌てて体を支えると、すぅーすぅーと寝息が聞こえてきた。
「……寝てる」
「アンデッドって寝るんですね……」
「まあ、相当疲れてたんでしょう」
力をセーブした状態で、シュヴァルツを一人で相手にしていたんだ。無理もない。
このまま寝かせてあげよう。
「さて――」
リベルさんを抱きかかえると、俺はシュヴァルツの方を見る。
ちなみに魔剣はアイテムボックスから出てきてしまうので、腰に差した状態だ。
「……ウゥ」
シュヴァルツは低く唸り声を上げると、俺ではなく葛木の方を睨み付けた。
早く自分の支配を解け、と言っているのだろう。
でもそれはまだ出来ない。
「シュヴァルツ、話がある」
「グルゥ……?」
シュヴァルツには悪いと思うが、こんな状況でないとコイツはまともに話を聞いてくれないだろう。
俺はこれまでの事や、リベルさんに聞いた事、これから起きる異世界人との戦争についてシュヴァルツに話した。
「海王は俺たちに協力すると約束してくれた。ここに居るソラとシロも俺たちの仲間だ。アロガンツ――あのゾンビに良いように利用されたお前にとっては業腹かもしれないが、それを承知で頼む。異世界人との戦いが終わるまででいい、俺たちに協力してくれないか?」
「……」
最強の盾が海王シュラムならば、狼王シュヴァルツは最強の矛。
仲間に出来れば、これ以上強力な味方は居ないだろう。
それに人とモンスターが手を組むことはないという、異世界人たちの前提を盤上から覆す事が出来る。
「……」
シュヴァルツは答えない。
すると、モモが前に出た。
「わんっ」
「グルル……?」
「わんっ! わんわんっ」
「ッ……! ガルォ? ガルルル!」
「わんっ!」
「……」
えっと、何を話しているのだろうか?
シュヴァルツは妙に驚いた表情を浮かべてる。
「わぉんっ」
モモは影を広げた。
するとシュヴァルツの眷属たちが次々に姿を現した。
「キ、キシッ! キシキシ!」
「ワォーン! ハッハッハッ!」
「ゴルル……」
「ピギィー」
女王蟻に、ダーク・ウルフたち、その他、様々な種類のモンスターたち。
「ッ!?」
その姿を見て、シュヴァルツは驚いたように眼を見開いた。
葛木の精神支配を解かれた彼らは一斉にシュヴァルツの元へ駆け寄ると、思い思いに身を寄せ合った。
「……ウゥ」
シュヴァルツは非常に鬱陶しそうにしていたが、彼らを振り払おうとはしなかった。
どうやらこの狼王、群れの仲間には非常に愛されているらしい。
再びモモが前に出る。
「わんっ! わぉんっ!」
「……」
「……わん? わぉーん? わふふ……?」
「ッ! ガルルルル! ガルォオオオオオン!」
「わんっ、わんわん」
「ッ……! ガルゥ」
すると、シュヴァルツはギリギリと歯を鳴らすと、俺の方を睨み付けた。
な、なんだよ? なんでそんな悔しそうな表情を浮かべてんの?
「……ガルル」
するとシュヴァルツの足元の闇から何かが出てくる。
それは真っ黒な指輪だった。
ぽいっと俺の方へ放られたそれを俺はキャッチする。
「ガルル……。ガルォン」
嵌めろと言う事だろうか?
「わんっ」
モモの方を見ると、モモはこくりと頷いた。
大丈夫、と言っているようだ。
ええい、ままよっ!
俺は指輪をはめる。
魔剣の件もあるし、ちょっと抵抗があったが、モモを信じよう。
「――――ッ!」
すると指輪を通じて、シュヴァルツの思念が断片的に流れてきた。
要約すると、同盟を認める。期間は異世界人との決着まで。全てが終結した後、互いに決着をつける事。そんな感じの内容だった。
「お前……」
「……ガルル」
シュヴァルツは俺から目を逸らすと、葛木の方を見つめる。
さっさと支配を解けと言っているのだろう。
「五十嵐さん、お願いします」
「だ、大丈夫なんですか?」
「ええ、信じて下さい」
「……分かりました。葛木さん、お願い」
「はい」
五十嵐さんに頼まれて、葛木は素直にシュヴァルツの支配を解く。
すると無数の鎖がシュヴァルツの足元から具現化すると、次の瞬間には全て砕け散った。
支配が解かれたという事だろう。
「ガルォン……」
「ッ……!」
一瞬、俺たちは身構えるが、シュヴァルツは身を翻すと、眷属たちと共に闇の中へと消えて行った。
静寂が戻る。
ようやく戦いが終わった。
その実感が湧いてくる。
「はぁ~~~~~~」
大きく息を吐く。
疲れた……。
リベルさんじゃないけど、もう休みたい。
すると一之瀬さんが駆け寄ってきた。
「お疲れ様です、クドウさん」
「一之瀬さんもお疲れ様でした」
「わんっ」
「きゅー」
「……(ふるふる)」
モモたちも体を擦りつけてくる。
自分達も頑張ったんだよーとめっちゃアピールしてくるので、リベルさんを地面に下ろして、しっかりモフモフする。
ああー、癒される。
(眠いけど色々確認しなきゃいけない事があるんだよなぁ……)
管理者権限も色々調べたいし、さっきの戦いで『進化』も可能になった。
そういや新しい上位種族ってどんなのがあるんだろう?
とりあえずそれだけでもチェックしておくか。
ステータスプレートの進化の項目に触れると、新たな上位種族が表示される。
『進化先』
・超人
・仙人
・始源人
・高位森人
・高位影人
・半神人
進化先は全部で六つのようだ。
さて、どれにすべきか……。
読んで頂きありがとうございます。
外伝の方も更新してますので、そちらもよろしくお願いします
固有スキル『検索』を手に入れた主人公と、固有スキル『変換』を手に入れた猫のお話しです。現在ベヒモスと交戦中
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そちらも何卒よろしくお願いします




