215.海王の頼み
めっちゃ遅れてすいません。色々あったんです……
前回までのあらすじ
異世界人との戦いに備えて戦力を増強しよう。
という訳で海王と狼王を仲間にしよう。
海王様登場。激おこぷんぷん丸
ひとしきりリベルをボコり、すっきり。
へぇ、綺麗な色したスライムじゃん。俺の後継者になれよ ←今ここ
「アカを……後継として育てる?」
海王様の言葉を俺はオウム返しに呟く。
『そうだ』
頷く代わりに、海王様の体がぷるんと揺れた。……ちょっと可愛い。
『この子はまだ幼いが、私の力を濃く受け継いでいる。本来、私から離れた個体ほど、色は薄く力は弱まるのだが、極稀にこの子のような個体が現れることもある』
海王様はアカをぷにぷにと突く。
くすぐったいのか、アカがぴょんっと跳ねて、俺の足元へ戻ってきた。
『とはいえ、これ程に鮮やかな色を取り戻した個体は見たことが無い。直系であるこの子ですらここまでが限界だった』
「……(ふるふる)」
海王様の言葉に、彼を抱えている赤いスライムクラゲが悔しそうに震えた。
赤いスライムクラゲ――長いな、赤クラゲでいいか。
確かに赤クラゲの色は周囲のスライムクラゲに比べて濃い赤色をしている。
でもアカや海王様と見比べると、
「……ちょっと濁ってるな」
「~~~~~ッ!(ブルブル)」
「あ……」
思わず口に出してしまったその言葉に、赤クラゲはめっちゃ悔しそうに触手を震わせた。
べちん、べちんと触手が砂浜に叩きつけられ砂埃が舞う。
『止さないか、みっともない』
「ッ……! ……(ふるふる)」
海王様に窘められ、赤クラゲはしゅんとなる。
それでもまだ納得はしていないのか、若干ぷるぷると震えていた。
『――で、話を戻そうか』
「え、ああ、はい」
足元の海王様に視線を戻す。
「あの……その前に座っても良いですか?」
『……? 別に構わんが?』
「ありがとうございます」
なんかこの状態だと、海王様を見下ろしてる感じがして辛いんだよな。
主に赤クラゲから発せられる威圧感のせいで。
人間如きが海王様を見下ろしてんじゃねーぞ的な気配をビンビンに感じる。
めっちゃ怖い。
アイテムボックスからシートを取り出し、その上に座る。
一之瀬さんも隣に座り、モモが膝の上に収まると、キキも肩の上に留まる。もはや定位置だな。
シロは未だにフードの中でお昼寝中だ。
「くぅーん♪」
こんな状況でもモモは撫でられてご機嫌である。
らぶりー。癒されるわー。
モモをモフり、精神的にも持ち直した。
「それで、アカを預けるって話ですけど、具体的にはどうするんですか?」
正直、この状況でアカを手放す事はしたくない。
今すぐにパワーアップできるのであれば大歓迎だが、何か月もかかるのであれば考えてしまう。
もはやアカは俺たちにとってなくてはならない存在なのだ。
戦闘面だけでなく、大切な仲間としても手放したくない。
「……♪(ふるふる)」
俺がぎゅっとアカを抱きしめると、アカも嬉しそうに体を震わせた。
『預けると言ってもその子をそのまま預けろと言っているのではない。分身体で良い』
「アカの分身体を?」
『そうだ。その子の分身体に私の力を少しずつ注ぎ込む。取り込める力が限界になったら、今度はその分身体をその子に再吸収させる。それを繰り返し、徐々に私の力をその子へ流し込んでゆくのだ』
「成程……」
そんな事が可能なのか。
いや、アカも他のスライムを取り込んで分裂したり、力を増したりしてたし、おかしくはないか。
『誰でも出来るわけではない。これは我々の種だからこそ可能な手段だ』
スライムの特性って訳か。
改めてとんでもない種族だな。
誰だよ、スライムが雑魚モンスターだって言ってた奴。……アカに出会う前の俺だわ。
「アカ」
「……(ふるふる)」
アカは了解したという感じに震えると、分身を一体生み出した。
『うむ』
海王様はアカの分身体に近づくと、ちゅるんっと飲み込んだ。
もごもごと体を収縮させる様は、咀嚼しているようにも見える。
収縮が収まると、海王様の体内に少し色の濃いビー玉サイズの魔石が浮かんでいた。
集中して気配を探ると、その魔石からアカの気配と命の脈動を感じる。
どうやらアレがアカの分身体のようだ。
「どれくらい時間がかかるんですか?」
『……ふーむ、この感じでは凡そ三日といったところか。その後、力を蓄えた分身体をその子に返し、私の力を馴染ませる。馴染むのには更に三日はかかるだろうな』
合計で六日か。
半年後の決戦までに、これを何度も繰り返すわけね。
「力を馴染ませてる間は、アカに何か影響が出る事はあるんですか? 体調が悪くなったり、スキルが使えなくなったりとか?」
『……? そんなもの無いぞ? 純粋に力が増し、能力の幅が広がるだけだ。そのような不具合が出るわけないだろう』
「そ、そうですか……」
まさかのデメリット無しだった。
普通こういうのって、力を受け渡してる間は能力が使えなくなるとかデメリットがあるもんだと思ってたけど……。
そう思っていると、海王様が不思議そうに震えた。
『何故力を得るために代償が必要だと思うのだ? 力とは己の一部でしかない。体を動かすのに代償など要らないだろう? それと一緒だ』
「は、はぁ……」
まるでそれが当たり前のように、海王様は説明する。俺の考えが理解出来ないとでも言うように。
でもそれは彼だからこそ言える圧倒的な強者の理論だ。
弱いからこそ工夫する。
その意味が、多分彼は分からないのだろう。
「……ちなみにですが、力の受け渡しによってアカはどの程度強くなるのですか?」
『精々今の十倍から数十倍程度だろうな。全く時間が無いのが惜しい』
インフレ!
いやいや、数十倍でも十分すぎる程のパワーアップだから!
海王様、アナタどんだけ強いんですか!
「……シュラム様はリベル様を含む他の六王全員を相手取っても一月は戦い続ける事が出来ます」
「……マジですか?」
そっと耳打ちしてくれた相葉さんの情報に俺は驚愕する。
「リベルさんや他の六王と戦い続けられるって……一体どんなステータスやスキルを持ってんだよ……」
『……ステータスとはなんだ?』
俺の呟きに海王様は「?」を浮かべながら反応する。
ああ、そっか。
ソラもそうだったし、モンスターはステータスの事を知らなかったっけ。
「……世界を融合した時に組み込んだシステムの一つよ。分かりやすく言えば、己の力を可視化させることが出来るわ」
回復したらしいリベルさんが、海王様に説明する。
『……成程、お前や彼女が好きそうな仕掛けだな。発案は彼女か? 能力の可視化は彼女の夢の一つだったからな』
「ッ……」
海王様の言葉にリベルさんは複雑そうな表情を浮かべる。
『どれどれ、すてーたすおーぷん? これで良いのか……おぉ、確かに見えるな。ふーむ、これは実に興味深いな』
海王様はしばらく自分のステータスを眺めた後、惜しむことなく俺たちに情報を開示してくれた。
シュラム
カオス・イア・ウーズLV78
HP :99990/99990
MP :4500/4500
力 :1
耐久 :78000
敏捷 :1
器用 :1
魔力 :1300
対魔力:99000
SP :4200
固有スキル
海王
群生領域
海宙反転
スキル
打撃無効LV10、斬撃無効LV10、貫通無効LV10、魔術耐性LV10、抵抗LV10、守勢LV10、堅守LV10、再生LV10、重装甲LV10、忍耐LV10、金剛LV10、迎撃LV10、軟化LV10、鞭撃LV3、津波LV2、海振LV4、水泳LV5、悪食LV10、索敵無効LV10、消臭LV10、肉体異常耐性LV10、精神苦痛耐性LV10、同族吸収LV10、分裂LV10、認識同期LV10、擬態LV10、意思疎通LV10、巨大化LV10、対魔力強化LV10、対魔力超絶強化LV10、HP高速回復LV10、MP高速回復LV10、MP消費削減LV10、生命力強化LV10、戦闘続行LV10
うん、もう色々とおかしい。
リベルさんも大概ふざけたステータスだったけど、海王様もそれと同等以上にふざけたステータスだ。
完全にアカの上位互換だな。
力や敏捷は最低値の代わりにHPや耐久、対魔力がバグってんじゃないかってくらいに高い。
おまけにスキルの構成も完全にガッチガチだ。
並みの攻撃じゃダメージも入らない上、入ったとしてもあっという間に回復されてしまう。
これ、マジでどうやって倒すの?レベルである。
「神タンクです! これゲームバランス壊れるレベルの神タンクですよ、クドウさん」
「ですね……」
一之瀬さん大興奮だ。
確かにこれなら防戦に徹すれば、他の六王全員を相手にしても戦い続ける事も出来るだろう。
防御系のスキルが完璧な代わりに、攻撃スキルが極端に少ないけど、それを補うスキルが彼にはある。
(……流石にこれは反則だろう……)
『海宙反転』
己のステータスの数値を入れ替える。
ただし一つの項目を同時に二つ以上の項目に置き換える事は出来ない。
とんでもない壊れスキルだ。
これがあれば例え力が1だったとしても関係ない。
並外れた耐久や対魔力を、力や敏捷に置き換える事が出来るのだから。
まさしく最強の矛と盾である。
他の固有スキル『海王』や『群生領域』も質問権で調べたが凄まじいの一言だった。
(正直、他のどのモンスターよりも敵対したくない相手だな……)
敵じゃなくて本当に良かったと心底思う。
アカ様様だな。
「リベルさんが仲間にしたいって意味がよく分かりましたよ」
「でしょ? 私もしょーじきコイツだけは相手にしたくないのよね。いやー、でも力を貸してくれるって言って本当に助かっ――ひでぶっ」
『勘違いするな、貴様の為ではない』
あ、殴られた。
再びリベルさんは砂浜に串刺しになる。
『例え友であっても、我々に一言も相談もしないようなバカ女に易々と力を貸すわけがなかろう。今回、私が力を貸すのは、あくまで貴様が彼女の意思を継いでいると判断したからだ。それを忘れるな』
「……分かってるわよ」
『ならいい』
彼女って誰だろうか?
もしかしてリベルさんの師匠の事か?
二つの世界を融合させ、その礎に死んだ賢者と呼ばれた人物……女性だったのか。
『――『早熟』の所有者よ、話がある』
「ん?」
頭に海王様の声が響いて振り返る。
『……この会話はお前だけに送っている。他の者には聞こえないふりをしろ。頭の中で念じれば、声に出さずともお前の思念だけが私の方へ届く』
え、そうなのか?
『そうだ』
「ッ……!?」
今、俺声に出してたか?
いや、頭の中で考えただけだ。
考える事がそのまま通じるってことか。
『理解が早くて助かる』
あ、はい。
えっと……それでご用件はなんでしょうか?
『……リベルのことだ』
リベルさんの?
『ああ』
海王様は一言そう置いて、
『彼女がお前達を助けたいと思っているのは間違いなく本心だ。彼女は亡くなった賢者の想いを遂げようと足掻いている。今後も彼女はお前たちへの協力を惜しまないだろう』
ええ、それは助かります。
正直、彼女が協力してくれなければ、俺たちは未だにこの世界の秘密にすら、気付く事も出来ませんでしたから。
『だからこそ私もお前たちへの助力は惜しまぬつもりだ。久々に面白い子にも出会えたしな。……そこで本題なのだが折り入って頼みがある』
頼み?
一体何だろうか?
緊張しながら海王様の言葉を待つ。
『彼女を……リベルをもっと見てやってくれ』
え?
意外な頼みごとに俺は少々面食らう。
『気丈に振る舞ってはいるが、あれで中身は繊細な子だ。まだまだお前たちとどう接していいか図りかねているのだろう。無論、それはお前たちも同じだと思うが』
……。
『だから少しずつで良い。もっと彼女と話を重ね、もっと彼女を見てやってくれ。『死王』や『賢者の弟子』、『異世界人』といったフィルターを外してしまえば、彼女もただの人であり、親を慕う一人の娘なのだ。それを忘れないで欲しい。……今後、どんなことがあろうともな』
それはまるで子を心配する親のような台詞だった。
本当にモンスターなのかと言いたくなるほどに。
でも貴方、先程までその彼女をボコボコにしてましたよね?
『それはそれ、これはこれだ』
そうですか。
『そもそも殴られるような事をした彼女の方に問題がある』
それは間違いないですね。
『その通りだ。ふっ、話は以上だ。では、頼んだぞ』
ええ、頼まれました。
俺としても彼女とは今後も良好な関係を築きたいですからね。
脳内会話を終えると、海王様は再び赤クラゲに抱きかかえられた。
「それでこれからどうすんですか? 協力してくれるのはありがたいですが、海王様や彼らを『安全地帯』に連れて行くのは難しいですよ?」
モンスターが『安全地帯』に入るには誰かのパーティーメンバーに入らなければいけない。
海王様一匹だけならまだしも、これだけの数のスライムクラゲは無理だ。
何より、こんな大軍連れていったら『安全地帯』が大混乱になってしまう。
『ああ、それならば問題ないぞ。いい方法がある』
「え?」
「――で、どうしてこうなった……」
「ッッ……!!(ふるふる)」
足元でめっちゃ不本意そうに震える赤クラゲを俺は見下ろす。
浜辺の時に比べてずいぶん小さくなった。まるでタコみたいだ。
『んー……、おはよーカズトー。ん? なにこれー? ご飯ー? あむっ』
「~~~~~ッ!?(ブルブルブル)」
「あ、シロ、食べちゃ駄目だって、ぺっしなさい、ぺっ」
『んー……おいしくない』
ゴムボールみたいに床をバウンドし、壁に当たって赤クラゲは起き上がる。
その身は屈辱だと言わんばかりに震えていた。
「いや、まあ気持ちは分かるけど、仕方ないだろ。海王様の命令なんだし」
「~~~~ッ!(ふるふる)」
べちん、べちん! と赤クラゲは触手を床に叩きつける。
そんな事は分かってる! と言っている様だ。
「まさか直系のスライムを『座標』に指定して眷属の移動が出来るなんてな……。流石、アカの上位個体……」
海王様が提案した方法。
それは小さくした赤クラゲを俺たちの仲間として預けるというものだった。
直系のスライムが居るところであれば、彼の眷属はどこへでも移動可能らしい。
それは『安全地帯』の中であっても有効らしく、どうやら赤クラゲも海王様も同一個体としてシステムは認識しているようだ。
海王様、本当にでたらめな存在である。
「海王様本体が移動できるわけじゃないみたいだけど、それにしたって凄いよなぁ……」
「ですねぇ……」
本当に今日は一日驚かされっぱなしである。
話を聞いた西野君や六花ちゃんなんて驚きを通り越して呆れてたからな。
ちなみに赤クラゲは俺のパーティーではなく相葉さんのパーティーに入った。
俺のパーティーでも良かったんだけど、
「パーティーメンバーの上限が七人だったのすっかり忘れてましたよ……」
「ですです」
今更だけどパーティーメンバーには上限がある。
最大で七人までだ。
俺、一之瀬さん、モモ、アカ、キキ、ソラ、シロでパーティーの枠は埋まっていたのをすっかり忘れていた。
なので赤クラゲには相葉さんのパーティーに入って貰ったのである。
「ま、パーティーが別でも、行動に支障はないわ。シュラムの協力も取り付けられたし、アカちゃんもパワーアップ出来る。上々の成果じゃないの」
ぱくぱくとお菓子を摘まみながら、コーヒーを飲むリベルさんは実に上機嫌である。
「……」
「? どうしたのよ、カズト? そんなにじっと見つめて」
「いえ、別に……」
――彼女を、もっと見てやってくれ、か……。
海王様の言っていた事を思い出す。
俺はもう一度、リベルさんに視線を戻す。
「……嬉しそうですね」
「へ? そりゃ当然でしょ? 予定通りに戦力も増強できたんだもの。この調子で明日も――」
「いえ、そうじゃなくて海王様に会えたことがですよ」
「え?」
リベルさんはきょとんとする。
――海王を仲間にしたい。
戦争に備え、戦力を増強するために、リベルさんはそう提案した。
実際、海王様の力は正に規格外だったし、仲間に出来たのはありがたい。
でもさ、考えてみれば、この提案をしたのはもっとシンプルな理由があったんじゃないかと、今更ながらに思ったのである。
そう、単純に、
「昔の友人に会いたかったんじゃないですか?」
「――――」
リベルさんは一瞬、何を言われてるか分からないと言った表情を浮かべ、
「べ、別にそんな訳ないじゃないっ! きゅ、急に何を言い出すのかしら、カズトは!全く。ホントに全くっ」
俺から顔を逸らしながら、リベルさんはお菓子を頬張る。
でもよく見ると、その頬は少し赤く染まっていた。
そう――ただ単純にこちらの世界に来て心細かったから。
だから心を許せる友人に会いたかったのではないかと、そんな当たり前の事すら俺たちは気付けなかった。
(……そうだな。海王様の言う通りだ)
俺たちは今までずっとリベルさんを異世界人の協力者として接していた。
その内側にある彼女の気持ちも、素の姿も見ようとしていなかった。
(――きちんと向き合わなきゃいけない)
一人の人間として、仲間として。
それが俺たちが出来る、彼女への誠意だ。
「さて、明日はもっと大変になるな……」
そして向き合うべき相手は他にも居る。
俺たちにとって因縁の相手であり、六王の称号を冠する最強のモンスター。
「――『狼王』シュヴァルツ……」
奴との決着の時も、もうすぐそこまで迫っていた。
本編補足
海王様のスキル
抵抗:HPが減少する程、耐久・対魔力高上昇
守勢:動かない場合、耐久・対魔力高上昇
堅守:攻撃していない時、耐久高上昇
重装甲:HP割合が高い程、被物理ダメージ減少(最大35%)
金剛:MP割合が高い程、被魔術ダメージ減少(最大40%)
迎撃:カウンターダメージ率高上昇




