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モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います  作者: よっしゃあっ!


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123.一之瀬さん頑張る


(……どういう事だ? このタイミングでメールだと?)


 西野は己のステータス画面を何度も見直すが、メールの送り主は確かにイチノセ ナツと表示されている。

 偶然か?

 いや、偶然にしては余りにも出来過ぎている気がする。


(ともかく中身を確認してみない事には始まらない)


 未読のメールを指でタップし、中身を確認する。

 

「……なんだこれは……」


 思わずそう呟いてしまった。

 拝啓、ニシノ キョウヤ様~から始まる、びっしりとステ―タス画面を覆い尽くす程の文字、文字、文字。

 現れたのは画面のスクロールバーが細い切れ端に見える程の文字の濁流であった。

 ぶっちゃけ読むだけで疲れる。そんな感じの文章であった。


(な、何かの暗号か……?)


 そう思うのも無理ないが、送り主にとってはこれが普通のメールである。

 普通の人なら読むだけで一時間は掛かるだろうが、西野はほんの数秒で読み終える。

 そして大きくため息を吐く。


「なんだ……これは……」


 改めてそう呟いた。

 一之瀬奈津から送られてきたメール。

 それは先程まで自分が考えていた疑問に答えるかのような内容だった。

 なぜ自分の名前がリストに表示されないのか?

 なぜ本来あるべき場所に別の名前が表示されているのか?

 そしてなぜこのタイミングで自分にメールを送ったのか?

 その全てが詳細に、そして無駄に長い文章で記されていたのだ。


(成程。嫌な予想ほどよく当たるものだ……)


 そう思いながらも、西野の頭は落ち着きを取り戻していた。

 混乱していたのは情報が足りなかったからであり、それが補完された今、彼は本来の冷静さを取り戻していた。


(さて、どうするべきか……)


 西野は考える。

 ここに記されている事が事実ならば、まず真っ先に確認すべき事がある。


「あれー、ニッシーどうしたん? そんな難しい顔してー?」

「六花……」


 金髪のサイドテールを揺らしながら話しかけてきた彼女に、西野はあえて笑みを浮かべた。皮肉を込めた笑顔を。


「……読み終わるのを待っていてくれたのか?」

「へ?」

「とぼけるなよ、全く。このタイミングで……はは、まんまとしてやられたよ。全部知っていたんだな。その上で彼らに協力していたって事は、やっぱりお前にとって彼女はそれ程大事な存在だったって事か…………俺よりも」

 

「ど、どうしたん、ニッシー? さっきから何を―――」


 首をかしげる六花に、西野は苦笑する。


「クドウ カズト」


「ッ……!」


 反応は劇的だった。

 六花の表情が強張るのを、西野は見逃さなかった。


「やっぱり……知ってたんだな」


 六花は顔を逸らした。


「ニッシー……その、あ、あのね……」

「そう警戒するなよ。別に怒ってるわけじゃないんだ。このメールに書かれてる事が事実なら、お前がそう行動をとるのも仕方ない。ああ、きちんと理解しているさ」


「どうしたんですか、西野さん?」

「なんだい、二人とも。難しい顔をして」


 二人の様子に気付いたのか、柴田と五所川原も近づいてくる。

 西野は二人の方を向く。


「……一之瀬さんからメールが来た」

「彼女から? ど、どんな内容だったんですか?」


 柴田が妙に食いついてきた。

 

「いや、その前に確認したいことがある。柴田、五所川原さん。二人ともメールのリストを見てくれ。イチノセ ナツの表示はあるか?」


 そう言われて、二人はメールリストをチェックする。


「……あれ? ねぇぞ?」

「私の方も載ってないね……」


「じゃあ、次にクドウ カズトって名前はあるか? 場所は……おそらく市役所に来てから最初の方辺りに載っている筈だ」


「……有ります」

「ああ、有るね」


「そうか……」


 これでもう確定だろう。

 一之瀬奈津から送られてきた内容は真実だ。

 

「に、西野さん、これはどういう事ですか? 何で彼女の名前がリストにないんです? それにクドウカズトってのは誰なんですか? 彼女は……一之瀬の身に何かあったんですか?」


 どう答えようか、西野は一瞬迷ったが正直に話すことにした。


「一之瀬は無事だよ。いや、多分、無事なんだろう」

「それはどういう―――」

「柴田、結論から言おう。今朝まで俺たちが話をしていた彼女は一之瀬じゃない」

「……は?」

「クドウ カズト。それが一之瀬さんの―――いや、俺たちが彼女だと思って接していた人物の本名だ」


 そう言った瞬間、二人は大きく目を見開いた。


「え、いや……は? な、何を言ってるんですか、西野さん? 変な冗談はやめて下さいよ? 流石に笑えないですよ」

「冗談じゃない。あれはスキルで変装した姿なんだとさ」

「いや、でも……そんな……」


 信じられないと、柴田は大きく体をのけぞらせる。

 次いでその顔が六花の方を向いた。

 無言で頷いた彼女を見て、柴田は愕然とした。

 彼にとっては相当ショックな事だったらしい。

 

「六花」


 西野は再び六花の方を向く。

 ビクリと彼女の肩が震えた。


「だから、そう警戒するなよ。怒ってないって言ってるだろ?」

「でも、その……」

「怒っているとすれば、それはお前にじゃない。俺自身の不甲斐無さについてだな……」

「え……?」

「なんでもない。とにかく、単刀直入に聞こう」


 ごくり、と六花は唾を飲み真剣な表情になる。


「そいつは―――クドウ カズトは信じられる人間なのか?」


「うん」


 西野の問いに、六花は何の迷いもなく頷いた。


「……そうか」


 そんな彼女に対し、西野はやはりどこか寂しさを感じずにはいられなかった。

 はぁと小さくため息をつく。


「……羨ましいよ、ホント」


 わずか数日、いやそれにも満たない時間でこれ程までに彼女の信頼を勝ち取ったその男に、西野は僅かながらも嫉妬を覚えずにはいられなかった。

 

(……我ながら小さい男だな)


 この状況下で考えるべき事ではないと理解はしているが、それでも納得出来るかどうかはまた別問題だ。

 人間とは理性で考え、感情で動く生き物なのだから。


(まあ、いいさ。足りないのならまた積み上げればいいだけだ)


 どの道、既に先手は打たれてしまった。

 こうなった以上、何が最善で何をすべきか―――既に自分の頭は理解してしまっている。

 理解してしまっている自分が嫌だった。

 西野は三人の顔を見渡した。


「みんな、話がある。今後の俺たちの動向に関わる大事な話だ―――」


 そう切り出して、西野は一之瀬から受け取ったメールの内容を話し始めた。


 



 一方、市役所から少し離れた空きビルの一室。

 そこで一之瀬奈津は溜息をついていた。


「ふぅー……、とりあえずこんなところかなー……」


 滅茶苦茶疲れた表情で、一之瀬はメール画面を見つめる。

 カズトが市役所を出発する前に頼んできた事。

 その一つが、西野をはじめとした学生グループを説得してほしいという願いだった。


「メールリストの名前表示なんて、私もカズトさんも完全に見落としてたもんなぁ……」


 その事を知ったのはつい昨日の事だった。

 教えてくれたのは、彼女の親友である六花だ。

 カズトが単身情報収集に当たっている間、六花は西野からはぐれていた間の出来事や情報のすり合わせを行っていたのだが、その際に『メール』の有用性についても聞かされていたのだ。


 メールリストには、その人の本当の名前が表示される。


 その情報は、カズトや一之瀬にとって正しく寝耳に水であった。

 全く知らなかった―――というか、気付いていなかった。

 当然、カズトと一之瀬は大いに慌てた。

 どうしようかと慌てに慌て、そして考え、議論を重ねた末、ならばいっそ要らぬ疑いをかけられる前に、きちんと話した上で仲間になって貰うのが一番なのではないかという結論に達したのだ。


(これからの戦いは協力者が不可欠になる……カズトさんの言ってた通りだ)


 先程送られてきたメール。

 自衛隊が壊滅したという知らせを聞いた時、一之瀬はカズトの予想が正しかったのだと確信した。

 ジャイアント・アント、そして巨大ゴーレム。

 どちらも自分達だけで倒すには不可能に近い。


(だからこそ、作戦が成功しても失敗してもどちらに転んでも動けるように行動する、か……)

 

 成功すれば安全な拠点が手に入り、失敗すれば自分達が拠点を手に入れた際の注意点として生かす事が出来る。

 シビアではあるが、カズトのその考えには一之瀬も賛成だった。

 そのどちらにしても、自分達以外の協力者が不可欠だ。


(それも私達の事情を理解し、その上で共闘関係を築ける人……)


 西野はその条件にぴったりと当てはまった。

 市役所で出会ったメンバーと違い、西野たちなら彼女やカズトもそれなりに人となりは理解しているし、何より親友である六花の事を考えれば、これが最良であるのは間違いないのだ。

 ならば、後は相手に絶対断られないようにするだけ。

 六花に説得して貰うという手もあったが、それではちょっと不安だった。


(タイミングに関しては、アカちゃんが上手く仕事をしてくれた)


 あのタイミングでメールを送ったのは、勿論偶然ではない。

 六花に張り付かせ、擬態したアカの仕業だ。

 アカの分裂体は、感覚を共有しているらしく、リアルタイムで互いの情報を共有することが出来る。だからこそ、ベストなタイミングを見計らって貰った。


(にしても、あのメールだけで色々理解出来ちゃうって、西野君も大概頭おかしいんじゃないかなぁ……)


 もっと疑うかとも思ったが、あっさり理解されてしまい逆にこちらが驚かされたくらいだ。

 頭の回転や状況判断が速過ぎる。

 メールには色々と書いたが、それだけであんな簡単に即決できるだなんて。


(リッちゃんは、西野君は『指揮官』の職業に就いてるって言ってたけど、それが関係しているのかなー……)


 職業とスキルは少なからず、その人の人となりに影響を受けている。

 もともと頭が良かったうえに、スキルや職業でそれを更に強化しているのかもしれない。

 

(それに、向こうには向こうの狙いがあるだろうなぁ……)


 まあその辺は、持ちつ持たれつだ。

 互いに利用し、利用されるくらいの関係でなければ意味がないのだから。


(とりあえず問題は私がちゃんとやっていけるかどうか。それだけ……)


 吐くか吐かないか。それが問題だ。

 心を許したカズトでさえ、思いっきりゲロをぶちまけた自分だ。

 あの惨劇を繰り返さない保証はどこにもない。

 気張らなければ。


「わんっ」


 そんな風に考えていると、後ろから愛しい愛しい愛犬モモの声がした。


「モモちゃん、お疲れ様。大丈夫だった?」

「わんっ」


 モモは頷き、持ってきた『成果』を見せる。

 それを見て一之瀬は笑みを深くする。


「うん、十分な量だね。これなら大丈夫だと思う」

「わん」


 頑張ったモモをモフモフする。

 ああ、癒される。

 だが同時に、少し寂しくもある。


(カズトさん、早く帰ってこないかなぁ……)


 メールで連絡は取り合っているとはいえ、それとこれとは話が別だ。

 

(少し前までは一人でいる事なんて慣れっこだったのに……)


 今ではすっかり彼が隣に居るのが普通だと思っている自分がいる。

 モモを抱き寄せ、その毛並みに顔をうずめる。

 モモはくすぐったそうに身をよじった。


「くぅーん?」

「……大丈夫だよ、モモちゃん。私は別に寂しくなんてないって」


 まるで考えを見透かされたかのように、モモがぺろりと自分の頬を舐めてくる。

 頑張れと、自分を励ましている様だ。


「……うん、そうだね。カズトさんも頑張ってるんだし、私達も頑張らなきゃいけないよね」

「わんっ!」


 気合を入れ直し、一之瀬は自分の目の前に広がる『それら』を見つめる。

 これから彼女は、ガチャで手に入れた自分の新しい職業とスキルを試すつもりだ。

 万が一の場合は、自分のこれが切り札になるかもしれない。

 だからこそ、


「絶対に成功させなきゃだね、モモちゃん」

「わんっ」


 気合を入れて、彼女は作業に取りかかった。


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書籍7巻3月15日発売です
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― 新着の感想 ―
[一言] トゥー ゲー.ノット トゥー ゲー. なっつんが逆流性食道炎にならないか心配ですwww
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