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118.野郎二人のバイク旅と新たな出会い

お知らせ

藤田さんの職業を『戦士』から『斧使い』に変更しました。


 バイクを走らせる。

 エンジン音は静かで周囲の雑音が聞こえてくるほどだ。

 市役所から目的地である自衛隊駐屯地まではおよそ一時間半ほど。

 地図は頭の中に入っているし、何度も見直してルートもばっちり覚えてる。


(……まあ、予定通りに行くとは思ってないけど)


 途中で何かしらのトラブルは絶対あるだろう。

 例によってあのデカい樹が道を塞いで通れない箇所はいくつもあるし、モンスターの襲撃も予想される。

 むしろ何かあると思って運転した方が良い。

 用心するに越したことはないのだから。


≪熟練度が一定に達しました≫

≪スキル騎乗がLV2から3に上がりました≫


 お、騎乗のレベルが上がったみたいだ。

 他のスキルにポイントを優先して振ってたからLV1のままだったが、どうやら熟練度が溜まっていたらしい。

 スキルは使い続ければ熟練度が溜まり、ポイントを振らずともレベルが上がる。

『騎乗』は文字通り乗り物に乗り続ければ熟練度が上がるみたいだ。

 今まで運転したことが無いバイクでもこうして乗りこなす事が出来るし、もっとレベルが上がれば別の乗り物だって乗りこなす事が出来るのだろう。……それも今回の目的の一つだしな。


「しかし凄いな、君の運転技術は……」


 後ろに捕まる藤田さんが感心したように呟く。

『騎乗』の方は教えていないので、彼は純粋に俺の運転に感心している様だ。

 まあ、見た目的には年端もいかない美少女がバイクをプロ以上に乗りこなしてるんだからな。

 そう思うのも無理はないか。


(スキルの事は……まあ、黙っとくか。とりあえず今のところは)


 ちなみに彼が掴んでいるのは俺の体ではなく座席に取り付けられたベルトだ。

 一応、今の俺に配慮してくれているのだろう。


(にしても、これって美少女に変装した男とオッサンの二人旅なんだよな……)


 酷い絵面だ。

 なんて誰得な組み合わせなのだろう。

 きっと見た目がイチノセさんじゃなければ画面が持たないに違いない。

 

「次の交差点を右だ」

「了解、です」


 指示に従い、交差点を曲がる。

 今のところは順調だ。

 モンスターの気配も無いし、例のデカい樹が道路を塞いで通れなくなるような事態も発生していない。

 まあ、この辺はまだ市役所の近くだしな。

 藤田さんも比較的安全なルートを選んでいるのだろう。


(問題は国道付近に出てからか……)


 その辺からは、藤田さんたちの探索範囲外になるらしい。

 彼らにとってもある意味未知の領域になるって訳だ。

 俺も同じだけどね。


「そろそろ国道付近に出ます」

「ああ、気を付けて運転してくれ」


 そう言えば、市長の言っていた『討伐区域』も確かこの付近までだったな。

 市役所から半径五百メートル、直径でおよそ一キロの範囲が指定モンスターの『討伐区域』になっているという。


(つまりそこを越えれば、少なくともあのゴーレムとの戦闘は避けられるって事だ)


 俺としても現時点での遭遇、戦闘は避けたいところだ。

 新しく手に入れた質量兵器(防波堤ブロック)もあるとはいえ、それだけでヤツを倒せるとは思えない。

 何かもう一つが欲しい。決定打になるようなもう一つが。


(藤田さんの話ではそこの自衛隊基地は毎年、この時期に大規模な演習を行っているらしい)


 いわゆる「そうか◯ん」のような何万人も集まる様な公開軍事演習ではないが、それに近い演習が行われているらしい。

 なので演習用に弾薬やミサイル、大砲なども整備されている可能性が高いらしい。

 一体どこからそんな情報をと思ったが、役所だしな。他県や自衛隊とのやり取りもあるのだろう。


(個人的な知り合いも居るって言ってたし、その人を頼るんだろうな)


 うまくいってほしいなと、そんな事を考えてる最中だった。


「―――ッ!」


 俺はバイクを急停止させた。

 ブレーキをかけても、スキルのおかげで静かなままだが、後ろに居る藤田さんからは動揺する気配が伝わってきた。


「おい、どうした?」

「……あれを見て下さい」

「あれ?……ッ!」


 藤田さんもその光景を見て表情を変えた。


 そこに在ったのは巨大なクレーターだ。


 直径十メートル以上になる巨大なクレーター。

 更に周辺の建物はなぎ倒され、地面は所々が隆起し、あっちこっちに巨大な岩の塊が転がっている。

 

(……モンスターとの戦闘跡? いや、でもこれだけの規模となると……)

 

 ハイ・オークの叫びやダーク・ウルフの『闇』以上の破壊力。

 となれば考えられるのは一つしかない。


 あのゴーレムだ。


 あの巨大なゴーレムが、ここで何者かと戦った。

 そう考えるのが妥当だろう。


「藤田さん、これは……」


「ああ、あのゴーレムの仕業だろうな……」


 藤田さんも同じ考えのようだ。

 

「これじゃあここを通り抜けるのは無理だな……。ちょっと遠回りになるが向こうを迂回していこう」


「ですね……」


 いつまたゴーレムが姿を現すか分からない。

 さっさとこの場を離れようと思ったのだが、


「……ん?」


「どうした、一之瀬ちゃん?」


「……これ」


 俺は足元に落ちていたそれを拾い上げる。

 魔石だ。それもかなり大きい。

 拳大ほどの大きさもある。


「そりゃ魔石かい? にしても随分大きいな」


「ですね」


 紫の魔石はずっしりと重く、手の中でその存在を主張する。

 だが、次の瞬間、ピキリとひびが入った。


「え?」

「おう?」


 大した力も入れていない筈なのに、魔石はあっという間に砕けてボロボロになってしまった。


「おいおい、どうしたんだ?」

「わ、分かりません。急にひびが入って……」


 落ちた破片を集めようとしても、今度は掴んだ瞬間砂の様にさらさらと崩れて消えてしまった。

 こんなの初めての経験だ。

 魔石が砕けるなんて……。

 砕けた砂だけでもアイテムボックスに入れられないか試してみたが無理だった。

 魔石はあくまでそのままの状態じゃないと入らないって事か? いやでも……。


「一之瀬ちゃん、考えるのは後にしよう。ともかく、今はここを離れないと」

「ですね」


 確かにその通りだ。

 頭に浮かんだ疑問をいったん棚上げし、俺たちはすぐにその場を後にした。




 それから十分ほど。

 警戒していたゴーレムの襲撃も無く、俺たちは国道沿いを順調に移動していた。


(結局、あの魔石は何だったんだろう……?)


 運転をしながらも考えるのは先ほどの魔石とあの戦場の事。

 あのゴーレムがあんだけ戦うって事は、相手も相当な強さだったはずだ。

 

(でも……少なくとも勝ったのはあのゴーレムなのだろう)


 でなければ市長の条件の一つが達成になっているはずだ。

 藤田さんに確認したが、市長の拡張条件は他人が偶然条件をクリアしてしまっても問題はないのだそうだ。

 これは以前もそういう状況があったみたいで、市長が行わなければいけない行動を藤田さんが偶然行い、それで条件が達成になった事があったらしい。

 なんとも曖昧な事だ。

 でも確かに今回の条件は『討伐』と記されているだけで、『誰が』とはなにも記されていない。

 偶然であろうが、事故であろうが、相手が死ねばそれで『討伐』と認定されるのだろう。


 どんな方法でもいいから、とにかく倒せばいい。


 過程や手段は関係ない。

 求められるのは結果だけ。

 なんともシンプルで残酷なルールだ。


(でもまだ失敗した時のペナルティは教えてくれないんだよなぁ)


 俺だけでなく、西野君たちもその事は気になる様で、何度か藤田さんや清水チーフに質問していたが、その度にのらりくらりと躱されはぐらかされた。

 いや、清水チーフの方は本当に知らないって様子だったが、藤田さんは何か知っていて隠している様な気配を感じた。

 

(この遠征中に上手く聞き出せれば……ん?)


『敵意感知』に反応があった。

 思考が現実に引き戻される。

 すぐにバイクを停止する。


「……どうしたんだ、イチノセちゃん?」


 後ろの藤田さんを視線で黙らせ、周囲を観察する。

 ……居る。

 モンスターの気配だ。それも複数。

 

(目視できるところに居ないとなると隠れているのか……)


 『索敵』である程度の場所は絞り込める。

 俺たちが今居るのは道路の中央だ。

 周囲には壊れたビルや瓦礫と身を隠せそうな遮蔽物がいくつもある。


 それにしても、なんだろうか、先程から感じるこの妙な違和感は?

 身体の動きがやけに鈍いような気がする……。

 

(アカ、頼んだぞ)

(……)ふるふる。


 銃に擬態したアカを手に構え、俺も周囲を見回す。

 この状態のアカはちゃんと『銃』として使う事が出来る。

 弾は事前にイチノセさんの『銃弾作成』で作って貰った作り置きがある。

 全部で三十発。無駄撃ちは出来ない。


「来ます!」

「ッ……分かった」


 藤田さんもバイクを降りてハンドアックスを構える。

 確か職業は『斧使い』だったっけ?

 お手並み拝見といきたいところだが、俺も気を抜いてはいられない。


「キッシャアアアアアアッ!」


 瓦礫から姿を現したのは巨大な蜘蛛だった。

 ライオンほどの大きさもあるタランチュラを想像して貰えれば分かり易いだろう。

 

(うげええええ! キモい! なんだありゃ!)


 黒いGと同じように、生理的な嫌悪感を催す見た目に背筋がぞわぞわする。

 即座にアカを構え、発砲。

 

「ギチュッ!」


 巨大蜘蛛は眉間を撃ち抜かれて絶命した。

 黄色の魔石が転がる。


≪経験値を獲得しました≫


 よし。『索敵』に反応した気配は残り三。

 

「藤田さん! この蜘蛛、外殻はそれ程硬くありません。そっちから一体、来ます!」

「任せろ!」


 俺の背後。

 藤田さんの居る方へ、同じく隠れていた巨大蜘蛛が迫る。


「ぬおりゃあああああああああああああ!」


 藤田さんは斧を持って突っ込む。

 そして相手の頭上に向けて思いっきり振り下ろした。

 

「ギチィ!」


 だが巨大蜘蛛はこれを直前で回避。

 そのまま反撃しようとするが、藤田さんの攻撃はまだ終わっていなかった。

 振り下ろした斧はそのまま地面を大きく抉り、その破片が散弾のように周囲にまき散らされる。

 

(凄い威力だな……アレがスキル『粉砕攻撃』か)


 藤田さんの職業『斧使い』が持つスキル『粉砕攻撃』。

 文字通り、斧で攻撃した相手を『粉砕』するスキルだそうだ。


「ギチィ!」


 巨大蜘蛛は堪らず後方へ飛ぶ。

 だが、その動作こそ、藤田さんの狙い。


「おらぁ!」


 藤田さんは腰にぶら下げていたもう一個のハンドアックスを投げつけた。

 斧は吸い込まれるように巨大蜘蛛の腹に命中する。

 ドロッとした黄色い体液が溢れ出す。


「キィィィィィィ!」


 蜘蛛はガチガチと牙を鳴らしながら奇声を上げる。

 ぐあああ、気持ち悪い!

 デカいネズミくらいならまだ可愛げがあるけど、デカい昆虫なんて恐怖でしかない。精神的な何かがガリガリ削られる。


「トドメだ!」


 再び藤田さんは巨大蜘蛛に接近し、その脳天をかち割った。

 黄色い液体が飛び散り、やがて彼の足元に魔石が転がる。

 あと二体。『索敵』に反応があるが、妙に鈍い。

 一体どこに居る……?


「一之瀬ちゃん、大丈夫かい?」


 藤田さんがこちらへ近づいてくる。

 その足元。

 その下にあるマンホールが、かすかに動いた。


「藤田さん! 今すぐそこを離れて下さい!」

 

「え?」


 刹那、マンホールから先程の奴らより一回り程小さい蜘蛛が姿を現した。


(そうか、地面の下に居たから反応が鈍かったのか)


 更に蜘蛛は大きく口を開け、藤田さんに向けて真っ白な糸を吐きだした。


「ぐあ、なんだこりゃ!?」


 藤田さんは振り払おうとするが、糸は粘ついて中々取れない。

 

「藤田さん!」


 俺はすぐさま銃を構える。

 だが、その直後―――ガクンと体勢を崩した。


「ッ……!?」


 なんだ? うまく体が動かせない。

『危機感知』が警鐘を鳴らす。

 よく身体を見てみる。

 糸だ。

 『五感強化』で強化した目を凝らさなければ見えない程の細い糸。

 それが体中に絡みついていた。


(そうか、先程から感じていた違和感の正体はこれか!)


 くそ油断した。動きの鈍さの原因はこの糸か。

 一本一本は、大したことはない。『危機感知』が反応を示さない程に。

 だが、時間が経つにつれて、コイツはその真価を発揮する。

 いくつもの糸が絡まり、束になればこうしてどんどん動きが鈍くなってしまう。

 ここは文字通り奴らの蜘蛛の巣だったわけだ。


「キシィ!」


 巨大蜘蛛は身動きが取れない藤田さんへと襲い掛かろうとする。

 俺もアカを構えようとしても自由がきかない。

 

(くそっ、迷ってる暇はないか)


 アイテムボックスを使うしかない。 

 だが次の瞬間、俺と藤田さんの体が淡く光り輝いた。


「なんだ?」


 光が収まると、急に力が湧いてきた。

 ぶちぶちと糸を引き千切り、俺はアカを構える。


「喰らえ!」


 パァン!と乾いた銃声が響く。

 間一髪だった。藤田さんに喰らい付こうとしていた巨大蜘蛛はそのまま絶命した。

 これで残り一体。

 どこだ? どこに居る?

 だが、待てども待てども、最後の一体は姿を現さない。


「どうやら、今ので最後だったようだな」


 蜘蛛の糸を引き千切って、藤田さんがこちらへやってくる。


「いえ、油断しないで下さい。まだ何か近くに居ます」


『索敵』の反応は消えていない。

 まだどこかに潜んでいる筈なんだ。

 油断なく周囲を警戒していると、

 

「きゅ……きゅー! きゅー!」


 なにやら声が聞こえた。

 その方向へ目を向ける。

 茂みの影に何やら、バスケットボールほどの糸の塊があった。

 色の感じからして、あの巨大蜘蛛の糸だろう。


「きゅー! きゅうー!」


 糸玉は左右に揺れながら、奇妙な声を上げている。


「なんだありゃ……?」

「さあ、なんでしょうか?」


 あの大きさ。もしかしたら、先程の蜘蛛の子供か何かが隠れているのだろうか。

 

「何にせよ、近づくのは危険です。ここから撃ちましょう」

「そうだな」


 俺は銃を構え、引き金を引こうとする。

 だがその直前、糸の塊から何かが飛び出した。


「きゅう! きゅー! きゅうー!」


 それは小さな狐だった。

 いや、正確には狐のような何かだ。


(動物……? いや、多分モンスターだよな、あれ)

 

 猫ほどの大きさだが、尻尾が体の半分を占めている。

 尻尾はたんぽぽの綿毛のように丸っこく、その毛並みは日の光を浴びて金色に輝いている。

 そして何より目を引くのが、その額に埋め込まれた赤い宝石だ。

 普通の動物にはあり得ない特徴。

 見た目は可愛らしいが、あれも間違いなくモンスターだろう。

 

「きゅう……」


 キツネもどきはこちらをじっと見つめている。


(あの巨大蜘蛛たちに捕まったのか……)


 俺たちと同じようにあの糸に絡め取られたのだろう。

 食われる前に俺たちが通りかかったってところか。

 すると頭の中に声が響いた。


≪レッサー・カーバンクルは仲間になりたそうにアナタを見ています。

 仲間にしますか?≫


 ……え?


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【モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います 外伝】
▲外伝もよろしくお願い致します▲
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書籍7巻3月15日発売です
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