お皿洗いの極意を極めよ!
遂に仕事だ……!
俺の皿洗いテク見せてやるぜ!
……全くもって通用しない!
チュンチュン
鳥の鳴き声がする……。どこまでここは元の世界に近いんだ!
こんな朝を迎えさせられて、今日の仕事が始まる。
昨夜、焼男さんから貰った制服に着替える。と、いっても客の前には出ないのだが。
「おう! 気合い入ってんな」
「店長、もちろんですよ。働かないと生きていけませんからね」
「まぁ、初日はとりあえず皿洗いを頑張れよな! しっかりしろよ!」
なんだこの威圧怖すぎる……。
「いらっしゃいませー」
モブみたいなやつらの声とサン・チュの声が聞こえる。
正直に言わせてもらうと、これから仕事が始まるとか今すぐにでも逃げだしたい。
たかが、皿洗いでも俺にとっては辛い。
ドヤ顔で言い張るのもどうかとは思うが『俺は家で手伝いをした記憶が無い』のだ。
まぁ、そんなことはどうでもいいのだが。
案外、暇だなー。と、思い欠伸をしたり置いてあった雑誌をこっそり読んでいると20分くらいした時に初めての皿が来た。
俺は家庭科で習ったように皿を洗う。
だが、しばらくすると洗うのが追いつかなくなった。
「遅いぞ! さっさと仕事をしろー!」
残念ながら、モブに煽られる俺に主人公補正はない。
俺は周りに追いつくように皿を洗う。
すると、1組の家族が来た。体型からして大食い家族だと思う。
「毎度ありがとね。田中さん」
ここは日本か! とツッコミたい。なんだ、この平和すぎる異世界。
俺が皿を洗いながらクスクス笑っていると、大量の皿が流れるように来た。
――俺と皿との大決闘がこれから始まろうとしている……
キュッキュッ
先程よりペースを上げているつもりだが全くもって追いつかない。
そこで、サン・チュが助けに来てくれた。
「あんた、遅いわねー! 皿洗いも出来ないとか本当に何もできないのね」
と、彼女は鼻で笑う。
「うるさいなぁ……関係ないだろ! そっちは慣れてるし……さ?」
「慣れ以前にあんたねー……皿の洗い方がまず間違ってるのよ!」
彼女は呆れたような目でこっちを見てくる。『使えないやつだなぁ』って目をしていますよ? 正直に言ってもらった方が余っ程、楽ですよ!
「……? 俺は元の国で習ったようにそのまま来た皿を普通に重ねて上から洗っているんですが……」
「あんた馬鹿なの!?」
彼女は腹を抱えて笑う。本当に憎たらしい。
そして、え……嘘。家庭科しっかりしろや! と、家庭科のせいにする自分も情けない。
「ていうか、あんたね! まず、皿を分けなさい。形状で分けると効率がまず良くなるわよ?」
「え、何それ……しらねぇよ。」
「それに! 1枚ずつなんで洗ってんのよ! 1度に洗ってすすいだ方がいいに決まってんじゃん! 馬鹿なの!? 水道代無駄だから払ってもらうわよ?」
お金が無いから働いているのに異世界に来た直後から借金は本当にやめてほしい。
俺は泣すがるようにお願いをする。
「お許しを! サン・チュさん!」
「はぁ。まぁ、冗談だけど……そんなことよりも! 油がついてるものを先に洗うとか、汚れてる皿を重ねないとか基本でしょ? その程度の知識なら2歳で学ぶわよ? やーい2歳!」
ここの国の学力は高いんだな……きっと。
「何もわかんない俺って……なんか、腹立つな。でも、ありがとな!」
「ふふ、私にかかればこの程度序の口よ!」
ムカつくけど良い奴だな。何だかんだ言ってしっかり教えてくれるしな。
そう思いながら言われた事に気を付けて仕事を終わらせた。
俺は制服から私服といっても借り物に着替えて焼男さんの作る夕食を食べる。
「う、美味い!」
何だか仕事をした後の飯は普段よりも美味しく感じた。もちろん、飯自体も凄く美味しいのだが。
「ごちそうさまでした!」
俺は飯を食べ終わり焼男さんに案内され部屋に向かう。
指定された場所から布団を出し、それに入る。
「今日は一日疲れたけどなんだか生き心地のある日だったな……」
こんな、真剣に生活したのは久しぶりでなんだか楽しかった。
疲れていた俺はそのまま目を閉じ、眠りにつこうとした。
すると――
『おお、一よ』
脳に直接、通るように声が聞こえた。声が気になり辺りを見渡しても誰もいない。
「ん? 誰だよ……? 聞いたこともない声だな」
「あー、せっかくぅー! 異世界来たんだから、なんかあげようかなーって!」
お……遂に異世界イベントきたー!
ってことは! この脳に語りかけてくるような人はもしかしなくても神様!? やったぜ!
「よし。これをやろう。手を上にかざすように上げるんじゃ」
俺が手を上にかざすとそこにはカード? の様なものが乗った。
何だこれ……異世界に来たのにクレジットカードとか言ったら流石にブチ切れるぞ?
「それはスキルカードじゃ! 今から今日覚えたスキルを記してやろう。最初は英語で書かれていくんじゃが書き終わると日本語になるようになっておるから安心せい」
すると、何も無いはずなのだか光のように輝く文字が書かれていき、最後まで書かれた。
今はまだ何と書かれているのかは分からない。その分、期待が出来て楽しみだ。
「お……! 来た!」
カードは暗い部屋を照らすように一気に輝く。
俺は目を輝かせ、期待を込めるようにスキルカードを確認するとこう書かれていた。
『スキル
皿洗いの極意を手に入れました』
は……? なにこれ……
「ほっほっほ。おめでとう。スキルじゃ」
「おいいいい!! これはなんの真似だ!? 俺にスキルをくれるんじゃないのか!? 俺の知ってる異世界はこんなんじゃねぇよ!」
「スキルじゃ。ってことで、じゃ!」
「てか、人の話を聞け! おいいいいい! あれ……頭の方の感覚が消えてるし……ははっ。異世界、うん。そうだよな。これも異世界だよな」
……俺は1つため息をつきベットに入り睡眠をとった。
――これからも俺の異世界生活は続くことになる。
獲得スキル
皿洗いの極意
取得スキル
皿洗いの極意
『次回!』
ドキドキ接客業……!