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第5話 弁当とお前

 杉本と出会ってから一週間が経った。

 時が過ぎるのは早く、酷く忙しく、疲れ、でも楽しくて。


 今まで16年間―――――いや、生を受けてから今まで、こんなに楽しかったのは初めてで。

 実際驚いている。


 不思議な男、杉本 竜一。

 皆のスター、生徒会長なのだが、頭の中はむしろ花畑。

 自称勇者の変態野郎。


 こいつが、何故か私の人生を180度変えてしまった。


 いや、変えてくれたというべきか。


 今まで私より強い者は存在せず、私の思い通りで。

 ただ私に屈しているだけだったのに。


 ただ一人、違った。


 そんな奴。



 ―――――――そんな奴が、今私の隣でバカ面をしていた。


「おいしっ、これ美味しいな! 紫音」

「へー、興味ないな」


 今は昼休み。

 私は一人で屋上にいた。

 屋上で、平和に弁当を食べていた。


 …はずなのに、突然杉本が乱入してきて、私の弁当をかっさらっていくという事態に。


「この弁当、お前が作ってんの?」

「…そうだけど、何か?」

「うまいなー! 凄いなー、お前」


 そんなに感動されても困る。

 そんな事言われたの初めてだしな。

 てか、弁当返せ。


「あ、そだそだ。放課後、俺んとこ来てよ」

「…理由は?」

「お前に会いたいって奴がいるからさー」


 …ああ、バカ二号。

 誰だろう。今は、この前みたいな杉本ファン改めリンチ集団と戦う気分じゃないぞ。


「お前の友人か?」

「そゆこと」


 玉子焼きを頬張りながら嬉しそうに話す杉本。

 食いながら話すな。お前それでも生徒会長か。


「お前の友人じゃ、大した奴じゃないな」

「んーまあ、そうなんだけどな」


 普通に認めた。

 何か、流されてる気がしないでもないが…

 仕方ない。とりあえず、それよりも言いたいこと。


「弁当返せ」

「えー、って言われてもなあ。もうほとんど食っちゃったし」

「……そうだった、お前のこと殴らなきゃな」

「ええ!?」


 私は杉本の胸倉を掴んだ。


「ちょ、ストップ! これやるから!」

「…食べかけの玉子焼きだろうが。しかも私の」

「な、これやるから落ち着け」


 にっこり笑って言われた。

 が、私はそれにもの凄い怒りを感じ。


「…ケンカ売ってるのか?」


 と、笑顔を返した。


「いやいやいや、滅相もございません!」

「じゃあ、何でこれを差し出す。食べかけの玉子焼きだと? 私をバカにしているのか?」

「や、いいじゃん、俺とお前の仲なんだし――――」

「それ程までにお空のお星様になりたいか」

「ごごごごめんなさい!」


 杉本、土下座。

 …何か、杉本に土下座されるの嫌だ。気持ち悪い。


 というより、謝るくらいなら食べるものを返してほしいのだが。


「じゃー…これやるよ」

「ん? 何だこれ」

「何の変哲もないあんパンだけど」


 袋に入ったそれを見て、私は某アニメのキャラクターを思い出した。


「…なるほどな」

「ん?」


 私は、プッと笑う。


「これとお前が合体して、ああなるのか」

「はあ!?」


 ああなるとは、勿論あのキャラクターのこと。


「確かに、似てるな」

「な、何がだよ! 何が似てるって!? 何の話だ!」

「秘密だ」


 笑いが止まらない。

 いや、そこまでおかしかったわけではないけれど。

 何だか笑いが止まらなかった。


「むー…、でも、お前が本気で笑うの初めて見たかも」

「そうか?」

「だって、お前、大体無表情か、不敵な笑みか、不快そうな顔か、人を小馬鹿にしたような表情かしかないだろ」

「…お前相手に、それ以上の表情が必要か?」

「ひっでぇぇぇぇ!!」


 くそーとか嘆く杉本。

 私にとっては当たり前の原理なんだがな。


「お前、笑ってた方が可愛いのになー」


 杉本の一言。


「………今、何て言った?」

「お前、笑ってた方が可愛いのになー」


 リピート。


 今、こいつ何かほざきやがったな。


「半殺し決定な」

「うぇぇ!? 俺そんな怒るようなこと言ってねーって!」

「右と左、どっちがいい?」

「選択できんの!?」

「せめてもの情けだ」


 別に、誰も怒ってやしないが。

 私に向かって、そういうことを言うのが悪いんだ。

 今まで誰も、そんな事言わなかったのに。


「いや、だって俺本当の事言っただけだよ!?」

「は?」

「お前は笑った方が可愛い! 絶対!」


 …そんな事、大声で叫ぶなよ。気色悪い。


「…はあ…」


 私は握った拳を力なく下げた。


「…やっぱり、いい」

「助かったー!」


 小躍りする杉本。そんなに嬉しかったか。

 私はまたため息をついた。


「ただ、今すぐここから出ていけ」

「え…えー…」

「い、い、な?」

「は、はいぃ! 分かりましたぁっ!」


 少し脅しただけで、杉本は逃げるように屋上から出ていった。


 …ようやく一人になった。

 あ、因みに屋上にはもともと二人しかいなかった。

 全部追い出したからな。屋上に来る時は、いつもそうしている。

 …あのバカには全く意味のないことだったが。普通に屋上に入り込んできやがって。


 けど、おかげで分かった。嬉しくないけど。

 あいつのモテる理由はあれだ。

 さらりとあんなセリフを言うから。


 …いや、私も言おうと思えば言えるけどな。棒読みで。


 きっとそこらへんの女子はそれにやられてしまうんだろう。

 仮にもイケメンだからな、あいつ。


「…変な奴だな…」


 一週間も一緒にいるのに(一方的にくっついてきただけだが)、まだ底が分からない。

 不思議な奴もいるものだ。


 …ただ、少し疲れるけどな。


 私はため息をつきながら、もらったあんパンを頬張った。

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