第3話 生意気な魔王
「で、昨日の人なんだったの?」
「んー…あれか。私を追いかけてこっちの世界にやってきた、私の側近だ」
「ええ、ほっといていいの?」
「構わない」
何故か杉本と一緒に登校している私。
まあ、それもこれも私の言葉のせいなのだが…
私たちは、“トモダチ”になってしまったらしい。
「紫音は何組っつったっけー?」
「1組」
「そっかー、1年1組かー」
素晴らしくフレンドリーな生徒会長様。
いいのかこれ?
…と、いうか。
本当に恋愛モノの方向に向かっていこうとしてる気がする。
やばい。
作者よ、どうあってもファンタジーの方向に持っていけ。強引でも何でも構わない。これはファンタジーなんだ。
『魔物が現れた!』
「うわっ!」
「きゃああっ!」
周りの人が叫ぶ。
………本当にファンタジーだ。
ファンタジーはファンタジーだが(いや…ただのRPGっぽいけど)…ここは地球で、西暦2008年で。
…魔物は、出ないんだが。なあ、どうなんだ?
『魔物は逃げ出した!』
………。
…そうだった、忘れていた。
この世界のものは、(杉本以外)全て私の思い通りになるんだった。
危ないな。
「な、何今の…!?」
騒がしい。
まあ、当たり前か。怪しい異形の物体いたもんな。
…でも、今の出来事は忘れてもらおうか。
カッ
皆、普通に喋り始めた。ただ一人、その中で杉本だけが呆然としていたが。
「し…、紫音! あれ、お前の力か!?」
「…そうだが」
「すっげぇ! すっげぇよ! さすが魔王!」
…尊敬の眼で見られてる…
何だか気味が悪い。
というか、こいつは思い通りにならないのな。
さすが「自称勇者」、か。
うわーお前のファンクラブ作っちゃっていいかなとかいう杉本の呟きは無視し、すたすたと歩いていく。
「あ、ちょっと、紫音! 置いてくな!」
「なら速く歩け」
紫音紫音と連発してちょっとキモイぞ、とは言わなかったが。
はっきり言って嫌だ。
周りからねとっとした視線がくるのだ。
…そう、杉本のせいで。
「今をときめく大スター、優しいイケメン生徒会長杉本竜一(by秋乃)」は、学校一モテる。
精悍な容姿、天才の頭脳、優しい性格(友人談)。どれをとっても完璧な杉本と、生意気な小娘水無月紫音が一緒にいたらどうだろうか?
しかも、その小娘が杉本に向かってため口を利き、蹴ったり殴ったりしてるとすれば。
………ファンクラブの奴らに、殺される。
学校には、杉本ファンクラブというものが存在した。
熱狂的なファンたちが集まっているのだ。
直ぐにこの噂なんて広まる。
そして、集団リンチか?
どうしよう…
………なんて言うはずもなく。
「紫音?」
「ん、何でもない」
無意識のうちに口が歪んでくる。
歪むといっても―――――余裕の笑みを浮かべているだけだが。
まあ、何でも来るがいいさ。
退屈過ぎる日々よりは、刺激があった方が。
そのためにこっちの世界に来たんだから。
…私は魔王。何者にも屈しない。
「紫音、顔がヤバいぞ」
「ほっとけ」
学校を前に、魔王オーラ全開。
…だって、久し振りに楽しそうな事がありそうな予感。
◆◇◆
案の定、噂は広まり。しかも超高速で。
「杉本先輩と一緒に登校してたナマイキな一年」…なんて、いい迷惑だけど。
でも、それで暇つぶしができるならそれで本望だ。
…そう、今は放課後。私は呼び出されていた。
忌々しい校舎裏に。
皆校舎裏が好きだな、昨日も杉本に呼び出されたし。
「あんた、何なのよ?」
十人程度の集団、皆がこっちに敵意を向けてくる。
その中でもリーダーっぽい、ショートカットの女が私を威圧するように見下ろしていた。
―――――最初からこれか。
「1年1組所属、水無月 紫音ですが? 何か御用でしょうか、先輩」
「ふざけんじゃないわよッ」
何もしていないのにキレた。
短気だな、カルシウム取ってんのか?
「あんた、杉本君の何なの? あんな態度しちゃって」
「…えー、主人?」
ゴスッ
少しふざけただけなのに。
後ろの灰色の壁にひびが入った。
女子って怖いな。
どうやったらコレにひびが入るんだ。
「…真面目に答えなさいよ…」
低い声で脅される。
ファンってだけでここまでできるんだから凄いよな。
下手したら先生に見つかって退学になるかもしれないのに。
「何でもないですよ。ただの知り合いですから」
「知り合いってだけであんなことになるわけないでしょーが!!」
………じゃ、どういう答えを望んでるんだよ。
心の中で毒づく。
はあ、困るねいまどきの女子高生は。
礼儀ってもんを知らないし。
「あんた、杉本君に近づかないでくれる!? 目障りなのよね!」
―――――どっちが。
まあ、別に杉本は暇つぶしの道具にしかなんないし、ファンがいようといまいとどっちでもいいんだけど―――。
ゴツッ
「…先輩、ムカつくんですよね。消えてくれません?」
「むっ、向井ちゃん!」
あーあー、殴っちゃった。こっちからもバカうつりそう。
昨日だけで2回も杉本を殴っちゃってただでさえバカうつりそうなのに…うーん、まあいいか。
周りの生徒は一層敵意を増す。
あ、実は女しかいないんだな。
まあ…男のファンクラブに男がいても嫌だが。
「あんた…生きて帰さないわよ!」
…凄い言葉を使うな、高校生よ。
「やってみろ」
私は不敵に笑った。
うん、やっぱり杉本はいい暇つぶしの道具になりそうだ。
―――――え? さっきよりファンタジーから離れてる?
気にするな、私がよければ何でもいいんだ。
だって私の物語だから。