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第2話 強くて酷くて、優しい魔王

「魔王―――――――ッ!!」

「…それは前回も聞きました、何でしょう杉本セ、ン、パ、イ」


 わざとらしく「先輩」を強調するにっくき後輩。

 ポニーテールにした黒く長い髪、白い光を宿した漆黒の瞳、何の違和感もなく制服を纏った、華奢で小さな如何にも女の子らしい身体。

 そう―――――俺の目の前には、宿敵「魔王」がいた。


「貴様を倒しにきたっ!」

「遠慮する」


 ドーンと効果音をつけて言ったのに、あっさり返された。

 しかも口調戻しやがったこの野郎…


「俺はお前を―――――っ!」

「お前の全てを拒絶する。近寄るな」


 可愛い顔して酷いことを言う魔王。


「この…って、あ、そういえば、お前の名前を聞いてなかったな」

「名乗る必要がない。お前なんかに教える義理もない」


 殴りてぇ…! 一発殴りてぇ、この魔王!


 が、勇者は平和主義者。

 そんな事はしない。落ち着け俺。


「それだけなら私は帰る」

「名乗らないのなら、お前の家までストーカーしていくぞっ!」

「…ストーカーって自分で言うか。変態め」


 変態でも何でもいいさ! お前を倒せるのなら!

 ゴゴゴ…という効果音と殺気をかもし出し、魔王に迫る。


「…それ以上近寄らないで下さい、変態杉本先輩」

「うぉふっ!!」


 蹴られた。

 げ…ごほごほ、一筋縄ではいかないな、さすが魔王。


「だが俺は諦めないぞ! いつまでもお前を――――」

「何回蹴られたいんだお前は」

「ぐぉっ!!」


 また蹴られた。

 くそ、流されっぱなしじゃないか…さすが魔王…


「私に近寄るな。以上」


 魔王は俺を鋭く睨み、すたすたと歩いていく。

 くっ…威圧感も十分だぜ! さすが…(以下略)


 が、そんなことで諦める俺ではない!

 俺は勇んで魔王に飛びかかった。


「俺がそんな簡単に諦めると思うかぁ!!」

「うん、思わないな」


 …が、また蹴られた。

 く…そろそろ腹が限界だ。

 同じところばかり蹴るんじゃない、卑怯ではないか。


「が、俺はまだあきらめ…」

「黙れ! いい加減にしろ!」


 殴られた。腹を。


「…また殴ってしまった。バカがうつらないといいが…お前の感染力凄そうだしな」


 しかも、凄いバカにされた。

 そろそろ俺も我慢の限界だぞ? 魔王。

 俺を怒らせたら…どうなるか知ってるんだろうなぁ!


「…ん」

「隙ありぃ!」

「黙れっつってんのが分からんか」

「ごふっ!」


 踏みつけられた。

 く…っ、動けない!!


 が、肝心の魔王は周りをきょろきょろと見回し始めた。


「ちっ…またか」

「おわっ!?」


 魔王は何か呟くと、突然俺の腕をつかんで引っ張り上げ、近くの路地裏に滑り込んだ。


「い、いったい何だ…!? まさかこんなところで俺を」

「静かにしろ」


 俺は黙った。

 その雰囲気が尋常じゃなかったから。


 で…でも、これ凄くね!?

 何か凄いこと起こりそうな予感しないか!?

 俺超ラッキーじゃん!


「まだ追いかけてきてるのか…」

「は? 何が?」

「…行くぞ」


 また引っ張られ、走らされる。

 速いな、こいつ。

 さすが魔王だ。宿敵として申し分ない。


 と、跳んだ。

 15mくらい。


「うわぉっ!」

「静かにしろ、と言ったはずだ」


 不機嫌そうな声で言われたが、これで声を上げないのは無理だと思う。

 ここまでジャンプできるなんて、やはりこれは本物の魔王だな!?


「すげぇ――――――!」


 …と、落ちた。


「うひょぉおぉぅおぉおぅ!?」

「だから静かにしろ」


 いや、落ちてるんですよ!?

 普通叫びますから!


 …って、何で後輩相手に敬語なんだ。悲しいぞ。


 スタッ


 着地。

 あー、凄い。心臓おかしくなりそう。


「待って下さい! 魔王様!」


 …ん? 後ろから声が。


「…誰が待つか」


 …ん? 返事した? 「魔王様」?


 …うぉぉぉお!!


 少し疑っていたところがなくもなかったのだが、やはり魔王だったか! 凄いぞ! 凄い!


「…はあ」


 魔王はため息をつき、近くの家の門を開けてその中に駆け込む。

 いや、豪邸と言うべきか…


 こんな凄いところが、こいつの家なのだろうか?


「け、結界が…魔王様ぁ! 入れて下さい!」

「誰が入れるか…」


 そのまま、魔王はすたすたと歩いていく。

 って、ええ? 腕離してくれないのかこいつ。


「今出たら危ないぞ、そいつに八つ裂きにされる」


 そう言って彼女が指差したのは、門の外で地団駄を踏んでいるさっきの奴。

 あー…凄いもの見たな。うん。


「巻き込んで悪かったな。茶ぐらい出すぞ」

「あ、どーも…」


 すごすごと魔王についていく俺。

 何か、燃え尽きたみたいだ…



「…で、さっきのは何なんだ」

「ん? 見ての通りだが」

「お前、本当に魔王だったのか!?」

「…信じてなかったのか、そのくせ言ったのか」

「いや…それは、うんあれだ、不可抗力」

「意味が分からんな」


 俺だって自分の言ってることが分からない。

 はあとため息をつく。


「人生が全て変わってしまった…」

「そうか、良かったな」

「良くない…」


 これでも40%くらい現実主義者なんだからな。

 …え? 低い? 知らん。


「…勇者じゃなかったのか?」

「勇者だ!」

「勇者がそんなんでいいのか」

「俺がいいんだからいいんだ!」


 今度は相手にため息をつかれた。


「…それで本当に生徒会長やってるのか」

「ああ、あれも不可抗力だ。友人が勝手に」

「…可哀想な奴だな」

「昔からそんなもんさ」


 そう言うと、彼女は目を伏せて。


「…水無月 紫音」

「え?」

「私の名前だ」


 何で今教えられたんだろうと、俺は目をぱちくりさせる。


「どうせお前大して友達いないんだろう。暇だったら遊びに来い(こっちにとっても暇つぶしになりそうだから)」


 俺は、彼女の優しさに感動して涙が出そうだった。


「ありがとう紫音!!」

「くっつくなキモイ」


 嬉しいよ。魔王って優しいんだね!



 かくして、俺と紫音の友情は始まった。

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