表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第1話 私は魔王であれはただのバカ

「ねえっ、紫音っ、どうだった!?」

「杉本先輩と何があったのよ!? もしかして…告白されたの!?」

「やだっ、返事どうしたの!? YES!? YESしかないわよね!」


 …私は何をしているんだろう。

 いや、何されてるんだろう…


 思い出してみる。


 杉なんちゃらに校舎裏に呼び出され、魔王扱いされたから足蹴にしてクラスに帰り、そして今ちょうど突然詰め寄ってきた女子による質問責めに遭っている。


 …回想終了。

 短いな。


 と、いうか…


「…あいつ、先輩だったのか」

「ええ!? 紫音、知らなかったの!? 今をときめく大スター! 優しいイケメン生徒会長! 2年3組杉本すぎもと 竜一りゅういち様よ!?」


 …大スターかあいつ。


「ただのバカだった気がするけどな」

「もーっ、紫音ってば! 勿体ない! 告白されたんでしょ!?」

「いや、まさか」


 あんなふざけたのに告白されたら、私は怒りであいつの身体からだをバラバラにしていただろう。

 …という言葉は飲み込んで、私はとりあえず自分の席についた。


「杉本 竜一…か」


 校則を忠実に守った黒い髪、人懐っこそうな茶の瞳。

 すらりとした長身。黒い制服がよく映える男だった。


 …えー、褒めるのはここまででいいだろうか。


 中身は、人をしかも後輩の女の子を勝手に魔王扱いする最低な奴。

 頭の中は多分花畑。二次元の住人予備軍。自分を勇者と呼ぶ多分学校一のバカ。


 …インプット完了。

 今後一切かかわらないようにしよう。

 思い出すだけで吐き気がする。


「もう、そんな顔して。紫音可愛いんだから、恋の一つや二つすればいいのに」


 と、上から声が降ってきた。

 顔を上げると、お人好しなクラスメイト神山こうやま 秋乃あきのが笑っている。


「…秋乃」

「確かに性分には合ってないかもしれないけどさ」


 ね、と言って私の向かいの席に座る秋乃。

 私は特に止めるわけでもなく、ただそれを見ていた。


「紫音はいいなあ、顔も良いし、勉強も運動もできる。少し無愛想だけど…ミステリアスで格好良いしね」

「ふーん」


 そりゃ魔王だしな、と心の中で呟く。

 でも、そんなこと秋乃に伝わるはずもなく、言えるはずもなく。


「杉本先輩じゃなくても、恋愛の一つや二つあってもいいと思うよ。学校生活が楽しくなるもん」


 嬉しそうな秋乃。

 …が、私はこれ以上ないってほど顔を歪めて。


「必要ない」


 そう言い放った。


「紫音はお堅いねー、ま、いいんだけどさ」


 秋乃は笑った。

 別に、笑わせるために言ったんじゃないが…ま、いいか。


「少し考えてみて。恋するって、楽しいよ?」

「……嫌だ、絶対楽しくない」


 まるで「恋愛推進委員会」みたいな言い方。


 そういえば秋乃は、彼氏いたんだったな。

 毎朝ラブラブで登校してきてるし。

 見せつけられるこっちの身にもなってほしいが。


「そんなことな…あ、もう昼休み終わっちゃう。じゃね」


 私は何も言わず小さく手を上げる。

 秋乃はにこりと笑って、自分の席へと帰っていった。




 ◆◇◆




 キーンコーンカーンコーン…



 …はあ。

 …授業が全く頭に入らなかった。


「やほ、紫音。どうしたの? 浮かない顔してるねえ」


 どす黒ムードな私とは裏腹に、元気すぎる秋乃登場。


「…授業がまともに聞けなかった」

「や、それは恋ってやつかい? 相手は杉本先輩? あたし、応援しちゃうよっ?」

「それくらいなら自殺する」


 理由は分からない。

 でも、あのときの言葉がこだまして。

 「お前が、魔王だな!?」…何故見破られた。


 人間界に来て16年、今まで一度も見破られたことなかったのに。

 さすが自称勇者…と言いたいところだけど、かなりのバカだった。あんなバカに見破られるなんて、私も落ちぶれたな。


「またそんな顔して…ほんとは好きなんでしょ?」

「…呪ってイイですか」

「やだなあ、紫音ってば。冗談冗談」


 冗談じゃなかったら本気で呪うぞ。


「あ、あたし彼氏待たせてるんだった! じゃ、また明日ね☆」


 言いたいことだけ言って風のように去っていく秋乃。

 いつものことなので特に気にしないが。


「杉本 竜一…」


 そんな名は聞いたこともないし、何の魔力も感じなかった。

 やはり、「自称」に過ぎないということか。


 でも、そうなら、何故私の正体を?


「…ただの偶然?」


 ………それ以外に考えられないな。


 うん、あれはただの偶然だ。そしてあいつはただのバカ。

 忘れよう、あんな存在。


「魔王―――――――ッ!!」


 ……と思ったけど、また来た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ