8、福島綾香
8、福島綾香
新一と付き合って一年と七ヶ月。4月に入って大学四年生になった。
新一は食品会社に就職したと二週間位前にメールがきた。
一ヶ月ぶりにくるたった一行の短いメール。こちらの様子を伺うような言葉も、返信を求める文面でもなかった。
大学生だし変わりないだろうという気持ちからか。
「そろそろ、潮時かな…」
携帯のアルバムを開くと大学のサークルの皆で撮った写真、何気無い景色、友達、旅行先での思い出。
彼の写真は一枚もない。
最後に彼に会ったのがいつだったかももう覚えていない。
いつも連絡は自分から。
悔しくなって自分からもしなくなった。
彼からの「何してる」や「会いたい」の言葉を待って意地を張っているうちに、彼への想いが少しずつ薄れて、実は今、気になる人がいる。
同じサークルの人。彼氏がいることは伝えているけれど、今夜会いたいと言ってきた。
二人で飲みに行かないか、と。
断るつもりでいたけど「ただ福島に会いたいだけなんだ」という最後に言われた言葉に強く惹かれてしまった。
新一は付き合ってから一度も言ってくれなかった言葉。
ずっとほしかった言葉。
シャワーを浴びて、夜の街へ向かった。