恋物語の始まりⅢ
昼休み。黎はクラスの憎悪に満ちた視線をかいくぐり、校庭の隅にあるベンチに座った。
歌乃達と歩くと嫉妬の目線が恐ろしい為、ベンチで落ち合う形となった。
「おまたせ、黎君」
「ま、待たせたな」
少し照れながら言ったのは瑞姫。
「待ちましたか?」
瑞姫の後ろには蘭もいる。
「はぁ~疲れた~」
女子は4時間目が体育だったせいか横に座った歌乃から女の子特有の甘い香りが・・・
(変態か俺は)
「はい、黎君、お弁当」
右に座っている歌乃が2つあった弁当のうちの1つを黎に渡した。
「いつもありがとな」
少し赤面しながら嬉しそうにうん、とか細い声で呟いた。
全員の座っている位置は真ん中に黎、黎の左に歌乃、黎の右は瑞姫、瑞姫の隣が蘭という配置だ。
(弁当をもらったのは良いんだが・・・)
黎の右側からなぜか不吉なオーラが漂っていた。
(よくわからんが、瑞姫と蘭が怖い!)
恐る恐る右を向くと、そこには、機嫌の悪そうな顔で、黎を睨んでる瑞姫と蘭がいた。
そして左を向くと、物凄い機嫌の良い幸せそうな顔の歌乃がいた。
「黎君、もう食べよ?」
「へ?あ、あぁそうだな」
黎が弁当を開けようとすると、
「天津さん」
「ん?何?」
少し暗めの顔の蘭が黎に質問する。
「天津さんが食べてる弁当はいつも歌乃さんの手作りなんですか?」
この質問には瑞姫も振り替える。
「うん、黎君のお弁当は中学の頃から私が作ってるよ」
「そう、ですか」
より一層、二人の顔が暗くなり、黎の右側はより暗くなった。
「あ、今日は唐揚げ無しか・・・はぁ・・・」
黎が弁当箱を開けると、黎の大好物の唐揚げがなかったことにショックを受けていた。
「毎日お肉を食べるのは良くないよ」
「唐揚げ・・・」
と、瑞姫の顔がハッと暗い表情から戻り、自分の弁当箱を開ける。
「れ、黎!」
急に大声で叫ばれたので、弁当が落ちそうになる。
「な、何?」
「そ、その、私の作った、唐揚げを食べてくれないか?」
黎に瑞姫の弁当箱の中身をみせると、中には唐揚げが入っていた。
「い、いいのか⁉」
凄く美味しそうな唐揚げを前にして、思わずテンションが上がる。
「どれでも好きな物を取ってくれ!」
「じゃ、じゃあいただきます」
大きめの唐揚げを取り、口の中に運ぶ。
「うまっっっ!」
思わず声を上げてしまう。
「この唐揚げめっちゃうまいじゃん」
外はカリッとしていて、でも中からは肉汁があふれでてきて、物凄く美味しい。
「すげぇうまいよ、この唐揚げ」
瑞姫の思っていた以上に喜んでくれたようだ。
「それにしても、唐揚げがこんなに好きだとは」
「いいだろ、別に」
「以外と可愛い所もあるんですね」
蘭がクスクスと笑いながら言った。
「男に可愛いとか言うな」
「黎君は可愛いよ?寝顔なんて天使だよ」
うっとりした表情でスマホを起動し、お気に入りと書いているフォルダから黎の寝顔を瑞姫と蘭に見せた。
「いつのまにこんな物を!?」
黎の知らないうちに寝顔を盗撮されていたようだ。
「これは、可愛いですね」
「可愛い」
二人とも黎の寝顔の写真に興味津々だ。
「あとで送ってください」
「これは保存しておきたい」
女子に寝顔を見られるのはこんなにも恥ずかしいとは思わなかった。