おためし彼氏Ⅱ
瑞姫、蘭、歌乃が影から二人を見守る中、黎と胡桃は雑貨屋を出て、次の目的の場所に行こうとしたその時、胡桃の携帯が鳴り携帯を確認すると着信先は胡桃の義母である優子からの着信だった。
「お義母様から?ちょっと待ってて」
胡桃はそう言い残し、黎の元から離れていった。
特に止める理由も無いので黎は、胡桃が帰って来るまで待つことにした。
そしてそれを見た瑞姫、蘭、歌乃は物陰から表に出てきて、黎のいる場所までずかずかと歩いてきた。
瑞姫の顔は少し怒っている様子で歌乃はニコニコとした表情だが、何か少しいつもの笑顔とは違う。
「黎、終始楽しそうにしてたけど、浮気はしてないな?」
瑞姫の不機嫌な表情に少し恐怖を感じつつも視線を横にずらすとニコニコとした表情の歌乃がいた。
周りから見れば笑顔に見えるが黎だけはこのニコニコとした表情の裏を知っていた為、瑞姫の時以上に恐怖を感じる。
「良かったね黎君、可愛い女の子達に囲まれて」
女性の一番怖い表情は睨んだ表情でも無く、ましてや無表情でも無く、笑顔である。
いつもより声のトーンが低い歌乃には恐怖しか感じなかった。
「瑞姫様という彼女がありながら他の女性とデートとは調子に乗った事をしてますね」
冷徹な蘭の声に背筋を凍らせていると、胡桃が少し急いだ様子で走ってきた。
「いつの間にか人が増えてる・・・そんなことより黎、お義母様が黎と話したいって」
まだ通話中の携帯を黎に差し出し、黎は携帯を耳に当てる。
もしもし、と黎が答えると電話の向こうから女性の声が聞こえた。
「あら、あなたが天津黎君?」
「はい、そうですが」
「少し話がしたいのだけれど、良いかしら?」
胡桃の義母、優子から提案され、黎は胡桃の方を向く。
あらかじめ胡桃はその事を聞いていたらしくコクコクと頭を縦に振っている。
そして状況が把握できていない瑞姫、蘭、歌乃はキョトンとした様子で黎の方を向いている。
「俺は予定無いんで良いですけど」
「良かった、ならもうすぐ来る車に乗って屋敷まで来てちょうだい、話はそこでしましょう、またあとで」
優子がそう言い、電話が切れると向こうの方からリムジンがこっちへ向かって走ってきた。
状況が全くわからない瑞姫、蘭、歌乃は驚き、初めて見たリムジンに驚いた黎。
やがて五人の前にリムジンが止まり、ドアが開いた。
「黎君、どういう事?なんでリムジンが来てるの?」
状況を理解していない三人に電話であった出来事を話すと、少し落ち着きを取り戻した。
それでも黎と胡桃が二人きりになるのは許せないと駄々をこねたが、結局黎と胡桃はリムジンに乗り込み、胡桃の義母、優子が待つ屋敷へ行くことになった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「・・・・」
「・・・・」
始めてのリムジンで緊張して喋れない黎と元々喋ることを得意としていない二人の時間は無常にも進んでいく。
聞こえるのは、リムジンが動いている音と公園で遊んでいる子供達の声が微かに聞こえるだけ。
気まずい、そう胸の中で叫んだ黎の左隣に暖かい人の温もりが触れた。
横を見ると、すやすやと天使の寝顔の如く可愛らしい寝顔をした胡桃だった。
「よくこんな豪華な所で寝れるよな、しかも横には男いるんだぞ?」
一人呟いた黎の声も胡桃には届くはずもなく、黎の左腕に全体重を預ける。
しっかり食べているのか、と不安になるほど軽く全体重が左腕にあるにも関わらず、全然苦じゃない。
「仕方ないな・・・」
左腕に倒れかかっていた胡桃の身体を黎の太ももに移動させ、膝枕状態にする。
この方が胡桃も寝やすいだろう。
「やっぱ、可愛くなってるよな・・・・」
改めて可愛くなった幼馴染みである胡桃の顔を眺めながらポツリと呟いた。
やはり小学生だった頃の胡桃とは大きく変わっていて、大人っぽくなっている。
幼い頃の胡桃はいなくなったようで、残念な気持ちと成長し、より綺麗になった嬉しさがあり矛盾した気持ちに陥る。
「ん・・・」
髪の毛を撫でていた自分の手を目にも止まらぬ早さで、別の場所へ移動させる。
仰向けで寝ていた胡桃の体勢が黎のお腹を見るような体勢に変わり、胡桃の寝息が黎の少し隙間の空いた服の中に空気が入り、くすぐったい。
(その体勢は、まずい・・・)
胡桃の手が黎の股間部分に当たり、妙に意識してしまう。
今さらだが胡桃から香る、フワッとした花のような香りが黎の身体全てに刺激を与える。
「黎・・・」
そしてこの弱々しい胡桃の声で追い打ちをかけられる。
我慢が限界に達した所でリムジンが胡桃の屋敷の前まで到着、リムジンがガコッと開く。
「つ、着いた・・・」
この時、黎は認識した膝枕は男にとって凶器でしか無いと。
特に頭がお腹の方へ向いた時。あの瞬間から男にとっては試練と呼べる物が始まるだろう。
黎は胡桃を起こし、優子の待つ屋敷の中へと入っていった。