幼馴染みとの再会Ⅱ
瑞姫、歌乃、蘭がこっちに向かってきているとも知らない黎と胡桃は9年間会えなかった分の話をしていた。
新しく来た町の事や、新しい家族、離れていた間に変わった事を話していた。
「黎は、会えなかった9年間でその、好きな人とか、できた?」
さっきまでの胡桃の表情とは少し違う真剣で、それでいて赤面している胡桃。
赤面した胡桃の目が合い、思わず目を逸らしてしまう。
「す、好きな人?」
そして黎の脳内に思い浮かんだのは、9年前から好きだった少女。
だが、ここで言うのは抵抗があった為、黎はいない、と一言言った。
「そう・・・・」
嬉しいような悲しいような、そんな胡桃の微妙な心境の中、発せられた声は二人のものでは無く、別の方向から発せられた聞き覚えのある声、歌乃だ。
その隣には朝から少し微妙な空気が続いている瑞姫と瑞姫の付き人(?)の蘭。
瑞姫の表情は少し冷たく、その表情は隠せていない。
そしてまた歌乃も黎は気づいて無いがいつもと少し違う。
「あれ?なんで歌乃達がここに?友達と飯食ってるんじゃ・・・」
黎がそう言うと瑞姫は少し赤面しながらも口を開いた。
「わ、私が黎のか、彼女だからよ!その人との関係を聞きに来たの!」
「彼女・・・・?」
胡桃の目には戸惑いと負の感情が渦巻いていた。
歌乃も少し、寂しそうな表情を見せたがそれはすぐに消え、いつもの表情に戻っていったが、蘭はそれを見逃さなかった。
「後で言うつもりだったんだがな、まぁ良いか。俺と胡桃はこの街に来る前にいた橘孤児院という所で出会ったんだよ、俺と胡桃の付き合いはそんな所だ」
特に隠す必要も無いので全て洗いざらい話した。
昔、孤児院にいた事を初めて知った瑞姫と蘭は少し驚いていたが特にそれ以上何か言われる事無く、予鈴が鳴った。
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好きな人に恋人がいることを知った後の授業程憂鬱な物はないだろう。
胡桃のテンションは昼からずっと憂鬱だった。
好きな授業の数学も今は消えてほしいと思う程に憂鬱だ。
「はぁ・・・・」
黒板に書いてある数字も本当はスラスラわかるはずが今は何もわからない。
教師が話していることが理解できない、呪文のように。
授業中は暇だから好きな人の後ろ姿を見たりするが今は見れない。
見れないというよりかは、見たくない。
見るとさっきの出来事が余計に思い出して、憂鬱になる。
(黎に彼女・・・か)
座っている姿勢を何とか保っていた胡桃も改めて黎に彼女ができた事を思い出すと、机に突っ伏してしまう。
胡桃は黎の事が好きだ、それも9年間。
9年間、黎の事だけを思い続けて来た胡桃にとって黎に彼女がいる事を知ったショックは大きかった。
(この気持ち、彼女がいるぐらいならいっそ・・・言って砕ける方が・・・)
胡桃の目尻には少し涙が潤んでいた。
(あれ・・・涙が・・・)
ポロリ、と涙が机に溢れる。
一番後ろの席なので周りからは見られてなかったが、早く涙を拭かないとまずい、と思った胡桃は涙を拭き取り、その授業をなんとかやり過ごした。