1/1
一
「父は、もしかすると浮気しているかもしれない。」
そう聞いたとき、智也は受け入れられなかったのか
「んな分けないでしょ」
と、反抗するように否定して、直ぐにその場を立ち去ってしまった。智也のそういった態度をみて、二つ下の妹の麻友が
「あれじゃあ、やっぱりねって言ってるのと同じじゃん」
と、咄嗟に呟いた。が、智也がそのような態度をとったのも、「浮気している」ということがにわかに事実だと感じてしまうような事が、最近家で頻繁に有ったからだった。
ここ数ヵ月の間に、家では妙な変化が有った。父は以前、仕事終わりには遅くても8時、平均的に7時前後には帰ってきていたが、最近は月曜と金曜のみ、10時に帰宅する。父に聞けば決まって「酒を呑んで、接待していたからだ」と言うが、その相手も口にしないし、何より話しているときの妙な焦りと、押し付けてくるような強い口調であった事があり、それらが積み重なっていくうちに疑念を持つようになっていた。