ライトノベルと転生ものはバカにされるか否か?
感想はご自由に。
ここに登場するのは、小学一年生の時に初めて読書感想文を書きましょうと言われて野口英世の伝記を用意し、隣の男子生徒が取り出したのが食べられるパンの英雄であったため恥ずかしくなってしまって伝記を取り出せず居残りとなり、
「○○さんは(有名な児童文学)で立派な作品を書いたわよ!」
とライバルを引き合いに出され屈辱の中脳内で架空の児童文学を生成しその感想を書いてのけるという離れ技をした、心優しき少女である。
少女は順調に文学に触れ、コバルト文庫も、井上靖も、夏目漱石も森鴎外も司馬遼太郎も陳舜臣も読んだ。しかしどうにも所謂ライトノベルには造詣が深くない。たまに読んだハードカバーのジャンルがライトノベルだったことはあるが、概してあのアニメ調の表紙の文庫本の文体は馴染めない。
それよりは、三島由紀夫の肉体を賛美したり、恩讐の彼方にのレポートで好成績を収めるほうが興味深い。
といっても家での彼女はVIPPERで、ブーン系小説大好きなのだが。
さて、少女はやがて大人になり、気の狂ったような思考実験を毎日ネットに載せる男性と結婚する。知性と文才と優しさに惚れたのである。まあ結婚の理由なんてどうでもいい。ウマが合ったのである。
奴の本棚は黒と赤である。刑罰、ハーレムの歴史、拷問史、完全自殺マニュアル、般若心経、コズミックホラー、漫画も血が出るものばっかりである。
従順な妻は、読めそうなものから手を出し、だんだん浸食され、一部は夫と面白さを共有できるようになった。協調性がなさそうに見えて、好きな人には合わせるタイプなのだ。
そんな夫が、小説を書き始めた。文学は妻のほうが知識が豊富だと何度も認める夫が書き出したのは、とある有名なライトノベルの二次創作。のはずであった。
最初に出てきたのは、原作にも登場する長老。次に出てきたのも、原作に登場する秘書。ここまではいい。
しかし舞台設定は原作から千年前。そしてエッセンスは魔法ライトノベルのみならずコズミックホラーも十分に。お前これオリジナルで良かっただろ、と何度も言われることとなる。ファンタジー世界の用語と登場人物、設定を借りているが彼の狂気の創作は留まることを知らず、いつの間にか応援されるのはオリジナルキャラクターの主人公、読者は先を楽しみに待ちわび、たまに読者が以前から知っている既存のキャラクターが出てきても「ここでこのように!」と絶賛され、たちまち彼は人気作家となった。
さて、妻は活字中毒である。しかし夫の小説にも好き嫌いがあって、勧めてもらった外伝を読んでみたり、他のオリジナルの短編を読んでみたりしながら、彼女は主に彼の小説への感想を読む。
歓喜の賞賛にあふれているのだ。彼女は小説を読んでいないのでよくわからないながらも、夫が認められているのがうれしかった。
あらすじは把握している。如何にも彼らしく、転生した主人公が魔法世界でありとあらゆる知識を集め研究し情報網を張り巡らし……という要するに「深淵にひそむ得体の把握できない怖いもの」である。地下に住み、全てを知り、肉体を放棄し、無敵。妻に言わせれば「夫の描く理想像」である。
気の合う仲間はいるもので、そんなおどろおどろしく暗く突拍子もない創作にファンは多いのであった。確かに珍しいオリジナリティはあり、彼の知識と文才と緻密な設定は稀有だった。そしてクロスした2ジャンルの同時ファンも多かったか、飢えていたのだろう。
御多分に漏れず文章を書くのが好きだった妻は自分もネットに小説を上げるのだが、彼ほど爆発的な人気はない。それを彼は、僕のは長い連載物だから、というのである。人気作品の二次創作ということで多くの人の目に留まったのだろうが、彼は謙虚である。そして彼には多くのファンがいる。ちょっぴりうらやましい。
夫は妻の作品を読む。少し恥ずかしいが読んでほしい気持ちもある。恥ずかしいというと、夫も同じ気持ちだと答えた。




