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Chapter7[開拓者ギルド]

やっと冒険者ギルドの登場?です。これは騎士道物語ではなく冒険者ものなのでややダーティなところもあります。

 威力過剰範囲広大(あきらかにやりすぎ)グラヴィティサークルで百メートル規模で潰された森の中からツインテールウルフの肉を掘り起こして、魔法で火を通すとそれなりのものになった。

 普段なら不味いと感じたはずだが、空腹とは最高の調味料になるようで。

 焦げた表面を魔法で切り取って食べた時のおいしさといったらなかった。

 余裕ができたので王都に行ってみることにする。奴隷商人はまだあきらめていないかもしれないが、見かけたら魔法で先制攻撃でもしてやればいい。

 肉を食べて力の湧いている俺は魔法という武器を持っているのだ。


 王都は階層状に壁で囲まれた都市だが、最外層はそのまま壁の外に広がった町並みである。奴隷商人が連れて行こうとしていた壁の内側に行くのでもない限り、普通に入ることはできる。

 俺の世界から分岐したのだから当然といえば当然だが、【FAQ】によればこの世界も一日は二十四時間。普通に地球である。


 王都は最外層でもにぎわっている。広場には露店も多く出ているし、買い取りをやっている人もいる。

 というわけで金が手に入った。

 話がぶっ飛んでいるようだが、これは例のすごい魔法使いが押しつぶしたところを見ていたら落ちていたものを拾って手に入れたものを買い取り商に売ったのだ。

 ツインテールウルフは骨格レベルで圧搾されていたが、他にもゴブリンらしきものや、おおきいデブいのが潰されて死んでいて、そいつらのそばに剣やナイフが落ちていたのだ。

 ちょっと変形していたりしたので二束三文にしかならなかったが。まあもともとぼろかったようだし仕方がない。

 でもゴブリンが着ていた鎖帷子が結構いい値段で売れた。しめて小銀貨一枚と大銅貨一枚、銅貨二枚に小銅貨三枚で百七十三デロー。


 デローっていうのはこの国の通貨だ。【FAQ】に書いてあった。グリニャード王国で作られている貨幣で、魔法で作られているから簡単には壊れない。

 買い取り商から受け取ったばかりの銅貨を一枚突き返して、手っ取り早く金を稼ぐ方法を尋ねてみる。


「ああ? アンちゃん開拓者だろ? 開拓者は危険指定種を殺してなんぼ! ギルドで依頼をこなせば金になるし、こうやってクソどもの持ってるものも売れる!」


「開拓者か……ギルドってのはどこにあるんだ?」


「なんだ、田舎者(おのぼり)かよ。壁の中だ。入るには身分証か金が要るけどな」


「へえ。ありがとよ」


 壁の中に入るために必要な金額は聞いていなかったが、大銅貨一枚だといわれて安心した。もしこれで銀貨一枚ですって言われたら払えないところだ。

 そうやって入ったレニングヴェシェンの壁内は、外とは違ってきちんとした石造りの建物が並んでいた。全体的に煉瓦の色をしている。


「おお……」


 これはこれで感動的である。外国の建物などは俺の世界でもこんな感じになっているところもあるが、築二百年三百年ものの建物など日本ではまずお目にかかれない。

 問題の開拓者ギルドはすぐに見つかった。大通りに面した石造りの建物。高さは四階分くらいありそうだ。大きいドアは開けていて、中の様子がわかる。


 イメージでは丸い机のようなものがあって、そこに無頼たちが酒のジョッキ片手に飲んだくれている感じだったのだが、実際の開拓者ギルドは二階分が吹き抜けのホールの真ん中よりちょっと向こう側くらいの場所でカウンターがあり、人はいるが整然としていて大きめの銀行を思わせた。

 お約束の美人の受付嬢もいたが、なぜかその中の一人がガラガラだ。その女の受付には一人もいないのにマッチョの受付に人がいるというおかしなことになっている。


 もしかしてこの世界はホモ文化に浸食されているのか、と心配になってくる絵面だが、他の受付嬢のカウンターには人が並んでいる。

 しかしどうせ受付をしてもらうなら断然女の子だ。誰も並んでいないのもちょうどいいので、そちらに向かうと、並んでいるやつらに変な目で見られた。


「?? ……なあ、ちょっといいか?」


「あ、はいいいいいい!!」


 話しかけると受付嬢はカチコチに緊張しているのが一発でわかってしまう感じで返事をした。


「開拓者ギルドってここだよな? 依頼を受けようと思っているんだが、どうすればいいんだ?」


「い、いいい、依頼ですか!?」


 受付嬢は完全にテンパっている。がちゃがちゃ、がっちゃん、とカウンターの上のものを派手に壊して落として、そのたびに泣き声のような悲鳴を上げて一枚の紙を差し出してきた。


「依頼受付書……依頼内容……これ、依頼をする側の書類じゃないのか。俺は依頼を受ける方法を聞いたんだ」


「あ、あわわわわ……ご、ごめんなさいいいい! い、依頼は……掲示板に張ってあるのを剥がしてきてもらうようになってます!!」


「ああ、そう」


 もう少し落ち着けよ、と思いながら掲示板のほうへ。

 眺めているとツインテールウルフの退治、ゴブリン退治なんかの退治系、ストライクボアの牙を二個集めて来い、アヤシ草を二十本集めろといった採取系、急募、魔法剣!とか発()酒を用意しろとかの調達系に分かれている。

 開拓者というのは要するに何でも屋だ。依頼であればなんだってする。


討伐(たいじ)系のは怖いし……ここはアヤシ草とかいうのを集めてみるか」


 二十本集めろと書いてある紙を剥がしてさっきの受付嬢のところへ持っていく。根元から刈り取って五セードメーテルある奴だけカウント。報酬は十七デロー。


「これを受けたい」


「はひっ!」


 片づけをしていたようだが、ガタガタと受付嬢はまたも机の上を散らかして、一分も待たせてから承認のハンコをぺたりと押し、


「何やってんのアンタはーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 横からすっ飛んできた女にドロップキックで吹っ飛ばされた。


「………………」


 あまりに急展開過ぎてついていけない。ひょっとして世界は終末的暴力思想に染まってしまったのだろうか。

 俺もこれからはいきなりドロップキックを食らったりするのだろうか。

 ナニソレ怖い。


「ちょっと待っててくれる? そのまま行っちゃだめよ! わかるでしょ!?」


「お、おう……」


 まったくわからないが、ものすごい目で睨まれながら言われたのでは恐ろしくてどこかに逃げることなどできない。


「アンタねえ! ちゃんとギルドカード確認しろってあれほど! あれっほど言ってるのにまだわかんないの!?」


「ごごごご、ごめんなさいいいいいいい!」


「謝ってりゃいいってもんじゃねーっつーのよ! 仕事なの! 給料もらってんだからちゃんと働けカスっつってんのよわかる!?」


「ひいいいいいいいい!!」


「悲鳴あげてんじゃないわよ! わかるかどうか尋ねてんでしょうが!」


「だって、ドローレス先輩怖いですしいいいいいい!」


「言い訳無用! さあ立て! 大体アンタはねえ! どうしてハゲのカウンターに人がいて、女のアンタのカウンターに人がいないなんてことになるわけ? ふつう違うでしょう? 人気のないハゲのところに人が流れるくらいアンタが無能ってことよね!? クビにするわよ!?」


 大声で言っていてホール全体で丸聞こえだ。

 ハゲハゲと連呼されているマッチョがしょんぼりと肩を落としている。どこかで見たような気がするのだが……ああ、神の面接でキャラクターシートの時にサムズアップしてくれたマッチョだ。


「そ、それだけはああああ! わたし、ほかのお仕事はすぐにクビになっちゃって、ここしか働けるところがないんですうううううう!」


「わたしだってクビにしたいわあッ! 奴隷にでもなってろッッ!」


「そんなあ! やっと一か月続いてるお仕事なのにいいい! 助けてくださいよせんぱあい! 後生ですからああ!」


「そういうの何度目だッ! 続いてるのも全部わたしが後始末してるからだってのよ!」


「お母さんが「あなたもやれはできる子だと思ってたんだけどねえ」ってこの間ほめてくれたのにクビになったなんて言えないんですうううう!」


「ほめられてるんじゃなくて諦められてるのよそれは!!」


「あー、あのさ」


「なに!?」


 ギヌロン、と刃物のような視線を浴びる。

 怖っえ。思わず反射で謝りそうだ。土下座で。


「先に受付してもらっていいか? 説教は後でやってくれよ」


「あ……、ああ、そうね。そうよね。悪かったわ」


 ドロップキック女は荒くなった息を整えて、


「ええと……アヤシ草二十本の採取。報酬は十七デロー。これを受けるのね? じゃあギルドカードを出してちょうだい」


「ギルドカードなんて持ってないぞ」


「はあ?」


 ドロップキック女はそこでもう一度ギロリとダメ受付嬢を睨み付けて悲鳴を上げさせた。


「じゃあ何? あなたルーキーなの?」


「そうなる」


「それでこのカウンターに……納得したわ」


 目をつむって何度もうなずくドロップキック女。

 気持ちはよくわかる。あのときは空いててラッキー、くらいの感覚だったが、人がいないのには人がいないだけの理由があって、それがダメ受付嬢の仕事ぶりというわけなのだ。

 見れば、並んでいた人間の大半が同情的な目を向けてきている。

 わかってたなら教えてくれよ。


「じゃあ登録してもらう必要があるんだけどいいかしら?」


「なにすりゃいいんだ?」


「別にむずかしいことは要らないわ。登録料払って、簡単なことを書いてもらって、犯罪歴を調べるだけ」


「登録料っていくらなんだ?」


「手数料込で百デローなんだけど、持ってる?」


「ぎりぎり」


 門をくぐるときに五十デロー持っていかれたから残りは十三デローだけ。


「そう。なら、ええと……あったあった。この紙に必要事項を書いてもらうだけだから。インクインク……ああ、ありがとう」


 横のカウンターのお姉さんがドロップキック女にインクの瓶を渡して、それから俺にペンとインクが渡される。

 差し出された紙には開拓者として守らなければいけないルールが箇条書きにされていた。武器を携帯していても街中では騒ぎを起こすなだとか、そんな当たり前のものだったが。


 必要なのは名前、年齢と種族、身分だけ。種族は人間種と書いておけばよかっただろうか。とりあえずキャラクターシートの時のまま書いてしまう。

 日本語で書こうとしたはずだが、実際に手が書いているのは異世界の文字だ。【FAQ】通り。面倒がないよう、手に翻訳されるように脳みそにチートされているんだとか。


「一応決まりだから聞くけど、何か資格を持ってたりはしないのよね?」


「何にも」


 一応とか決まりだからっていうのは、俺が資格を持ってるわけないって意味ですね? わかります。ええい、中学三年の時にとった剣道二段をなめるなよ!


「あっそう。じゃあこれでよし。じゃあちょっと来て頂戴」


 俺が剥がしてきた依頼の紙と、さっき書かされた紙をとって女はカウンターから出てきて、俺を手招きした。


「アンタはそこにいるのよ! 今度失敗したら……わかってるわね!?」


「ひいいいいい!」


 きっちり後輩をにらむことも忘れていなかった。

 もともとポンコツのようだが、恐怖でがちがちに震えていたので、あの分だとどのみち使い物にはなるまい。


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