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Chapter6[ピンチとオオカミと救出劇]

 日本の道路と違って舗装されていないため、自動車並みの速度で走っていてもやすりのようにアスファルトに削られるということは起きなかったが、それなりに擦り傷を作る羽目になったし、関節のところで嫌な感じにねじって後に残るダメージを受けた。

 手かせが付いたままになっていたのでなおさらだ。


「まあ、回復魔法……というか医療魔法があるからいいんだけどな。熱く乾いた成長と膨張の活性。偉大なる創造の力、汝は変化の象徴。転輪する破壊と再生。フレイムヒール」


 自然回復の見込みがある範囲という話になるが、肉体の中にある設計図を参照して魔力を使って肉体を再構成するのだとか。

 肉体には「かくあれかし」と定められた設計図が宿っている……という話だが、多分DNA、遺伝子のことだと思う。


 そしてこの医療魔法だが、地、水、火、風、空、無、各属性に対応した呪文があって、どの属性でも使える医療魔法があるのだ。ゲームなら水属性の魔法というイメージだが、現実なので差異があったのだろう。

 フレイムヒールとか、なんだか火の怪物を治癒しそうな名前だけど、これは火の力を使った医療魔法。

 細菌とか毒とかを熱の力で分解して変性させたり、火の属性である成長や膨張、変化の性質で細胞の自然治癒力を向上する方式らしい。


 魔力の火が全身を包んで、消えた時には傷がきれいに消えている。実際の炎ではないので別にやけどしたりはしない。

 ほかの属性でも医療系の魔法はあるが、このフレイムヒールはなんだか不死鳥みたいでかっこいいのでこれからも使っていきたいと思います。まる。


「この手枷も邪魔だな……。あまねく土に結合する水の穢れ。赤く青く、鉄壁を腐食する雨の侵略。静かに深くまで突き刺さり、神殿の表面を溶かして削る。水の中に潜む暴食の悪魔。ヒドロキシド!」


 枷の金属をボロボロに錆びつかせて、軽く岩にたたきつけて壊してしまう。木までボロ屑になっていたため、グシャリと崩れるように壊れた。

 奴隷商人の馬車を使って王都、レニングヴェシェンまでたどり着いた俺は、その間の二日間、御者の男と話して集めた情報から【レポート】を使って神に質問を投げていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【Q&A】


Q1:王都がレニングヴェシェンだとかいうところにいるんだけど、ここなんて国?

A1:グリニャード王国だね。メニューにマップ機能あるから使ってね? ぶっちゃけggrks(ググレカス)


Q2:ファイアボールですごい威力出たんだけどこれってデフォ? みんなこうなの?

A2:チートのせい。魔力の量が多いからそうなる。魔法に使う量を増減すれば加減できるよ。


Q4:>ggrks

だったら検索機能付けようぜ。地名だけある地図があっても探すの面倒くさい。

A4:我がままだなあ。これでいい?


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 抜粋だがこんな感じ。【Q&A】は俺と神の間で交わした質問のまとめログのようなもののようだ。

 トイレが桶なことについてとかも【レポート】に書いたが、それについても神から返答があった。適当に切り捨てられるかと思っていたが、結構フォローしてくれている。

 ちなみに、送受信は一日に一回なので、この日数をオーバーしている数字の理由は神が勝手に分けたからだ。

 魔法については求めるだけ知識が頭の中から浮かんでくるので、暇だった時間で勉強させてもらった。おかげで理論上はかなり自由自在である。


「しっかし……」


 空腹である。奴隷商人の馬車では粗末な、ガッチガチの黒パンしかもらえなかったので――しかもそれも初日にはとられた――俺はまともな食事に飢えている。


「gggrgrrugrugru……」


 もはや人間でなく獣丸出しのうなり声をあげる俺。

 たった二日で薄汚れてぼろっちくなった貫頭衣も相まって野生児のようである。


「とにかく腹が減った……」


 ふらふらと草原を歩く。

 王都にはしばらくは近寄りたくない。少なくとも空腹を満たさないと魔法を使っている間に集中力が切れて奴隷に逆戻りしそうだ。


「こういう時は動物だ。魔物とか狩って、焼いて食う!」


 この草原にはツインテールウルフとかいう数で押すタイプのオオカミが生息している。王都までの護送中も何度か襲われたので、絶対にいる。

 そいつらを刻んで魔法で焼けば食べれないこともあるまい。護衛の男たちはそうしていたようだし。

 上手に毛皮をはいだりしたら売れるようだが、今は考えなくていい。とにかく肉が食べられればそれでいい。

 だが、そうやって目玉をぎらつかせているときに限って出てこない。


「ニクウ……ハラヘッタ……」


 空腹をまぎらわすためにネタを交えてつぶやいたが、かえってむなしさが増した気がする。

 一時間三十分ほど歩いて、王都近くの森の端にたどり着いた。メニューのマップによるとここはユヴェルの森と呼ばれているところなのだそうだ。

 そのまま入って行って、動物を探すが、やはりなかなか見つからない。


「いたな」


 とか考えていたら見つけた。

 いや、見つかっていた。気が付けば俺は、周りをツインテールウルフの群れに囲まれていたのだ。


「……多すぎ」


 えへ、と笑った後、全力で後ろを向いて逃走した。

 数が多すぎる。魔法を詠唱している間に殺されそうだ。


「集え炎よ――って速えええええええ!!」


 とてもじゃないが詠唱している時間なんてない。ツインテールウルフたちはすごいスピードで追いすがってきて、俺を食い殺そうとしている。


 あわてて詠唱をやめて、息も止める気で足に力を入れる。ギアはトップ。追いつかれたらおしまいだ。

 わかってはいてが、人間に逃げられるスピードではない。あっという間に追いつかれる。

 しかも気が付けば左右もツインテールウルフに固められていた。加減されていたのだ。わざと追いつかない程度のスピードで追いかけて、仲間に退路を塞がせた。

 プロだ。狩りのプロ。野生動物というものをなめていたかもしれない。


 ぐん、と後ろを走るツインテールウルフたちのスピードが上がる。

 仕留めに来た。

 もうだめだ。俺はこれ以上スピードを上げられない。魔法を使えばそうでもないが、詠唱している暇がない。ファイアボールでも間に合うかどうか――。


「しゃがめ、坊主!!」


 突然の声が前のほうから飛んできた。

 普段なら戸惑うところだが、今は緊急事態にギアもトップ。迷わず直感で声に従って、飛び込むようにしゃがみこむ。

 しゃがみこむというか、本当に飛び込んだ形だ。

 直後であった。


「フレイムランサー」


 背中をかすめただけでやけどさせた炎の群れがツインテールウルフを吹き飛ばした。俺のファイアボールよりも強力な火力が木々をたやすく貫通し、森に火をつける。

 掃射。機関銃よりも激しい炎の連弾。五メートルもある火炎の槍が無数に投射され、絨毯爆撃の様相を見せつける。


「森が燃えるぞ! どうにかしろ、姫さん!」


「では潰します。グラヴィティサークル」


 風鈴のように透き通った声は女というより少女のもの。

 重力増加捕縛陣。頭の中の知識では上級魔法に位置している、重力を倍加して動きを悪くする魔法だ。

 それが、俺の後ろを丸ごと平面に変えていた。


 まるでプレスにかけたように木も茂みも雑草もキノコも土も石もまっ平らに均されている。

 ツインテールウルフを探してみると、木の下敷きになっているのが十匹くらい、直接追いかけてきていた残りは何もないのに自分から地面にめり込んでいくように埋まっていく。

 べきべきと音がするのはその骨が砕けて()す音だ。


 倍加だって? これが?

 数字が桁で間違っているだろう。

 重力によって押しつぶされ、上空から吹き付けた強力な風が周囲の大気圧が小さいほうへと吹き付ける。

 たっぷり時間をかけて丹念に潰したのか、ようやく魔法が消えた。

 なんて力技。森ごと燃えなくなったってこれじゃあ環境破壊もいいところだ。今の魔法で百メートル向こうまでが丸ごと更地になったのだから。


「おい、大丈夫か、坊主」


 呆然としている俺に、角刈りにした中年のおっさんが話しかけてくる。しっかりとしたつくりの鎧甲冑に身を固めているところを見る限り、結構身分もよさそうだ。

 王都に近いことだし、国の騎士や戦士団のひとなのだろう。

 最初の注意を呼びかけた声はこの人か。


「坊主? 大丈夫か? まさか当たった――わけはねえな。命中してりゃあ消し炭だ」


 こくこくと首だけでうなずく。


「今のは……」


「魔法さ。姫さんのな」


 中年の騎士が目を向けた先には小さな女の子がいた。

 くるぶしまですっぽり覆う丈の長い藍錆色のゆったりとしたチュニックに金糸で刺繍された黒いケープを着ている、十かそこいらの女の子。

 彼女がやったというのか。


「お姫様……?」


「おうよ。つっても本物の王女様じゃねえけどな」


 愛称みたいなものだ、と騎士は笑ってみせる。


「じゃあもう一人は……」


「もう一人?」


「だって今、二連続で魔法が……」


 いぶかる騎士を置いておいて、きょろきょろと周囲を見回す。

 おっさんの他にも数人ほど甲冑の男がいるが、女の子はいない。ついでに女の子のような恰好をした人もいない。


「ああ、お前も魔法の知識があるのか。ふつう、大人数で詠唱しないと出せねえもんな、あんな威力」


 その通りだ。

 そしてあれだけの魔法ならかなりの詠唱時間が必要なはずで、


「あれ? だったらなんでいきなり攻撃できたんだ?」


 俺は見通しの悪い森の中を全速力で走っていたのだ。気づいたとしてもそんな長い詠唱を済ませられるとは思えない。不可能だ。

 だから連続で魔法が使われたから最低でも二人、普通なら数十人からの合同魔法になるのでそれを探したが、よく考えてみればおかしいではないか。

 ここを通るのがわかっていでもしなければ、そもそも詠唱が間に合うはずがないのだから。


「ああ、混乱してるのも無理はねえよ。ありゃあ姫さん一人でやったことだ」


「ど、どういう……!?」


「うちの姫様はな、詠唱しねえんだよ。どんな大魔法でも詠唱なしで発動する。んで、この威力と範囲さ。覚えとけ? これが我らグリニャード王国の切り札ってやつよ」


「ニャルコ。雑談をするのならわたしは先に行きますよ。今日中に依頼を終えるつもりなのです」


「アルバートですよ、俺は」


「そうでしたか? 覚えにくい名前をしていないでください」


「どこが覚えにくいっつーんだ……」


 がっくりとうなだれる中年騎士。

 彼を無視して女の子のほうは自分で叩き潰した更地の中に入っていく。


「ああ……ったく。とんだじゃじゃ馬だって言われるわけだ……。くそっ貧乏くじ引いたなあ。坊主、無事でよかったな。俺はもう行くが、これに懲りたら森の中に一人で入るんじゃねえぞ?」


「あ、ああ……」


 とんでもないものを見て、聞いてしまった。

 詠唱しない? そんな馬鹿な、と否定したいところだが、しかしなら現実として誰がこの大破壊を引き起こしたのかという問題が浮上する。


「マジかよ……」


 ありえないけど。ほら話にしか聞こえないけど、しかし他にないのならそれが真実だって体が子供で頭脳が大人の名探偵も言っていた。


 異世界調査三日目。


 とんでもない魔法使いが、この国にはいる。


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