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Chapter5[奴隷商人]

連続投稿してますのでいきなりここに来た読者様は一話?前からどうぞ。

 俺の首に剣を押し当てた人は、俺が起こした爆発の音を聞きつけてきたらしい。

 いったい何をしたのか聞かれたが、草原が続くのがむかついたのでファイアボールで吹き飛ばしましたと言ったらただの危ない人扱いされるのが目に見えていたので適当にわからないふりをする。

 レイモンドというらしい男に連れられて行った先では馬車の一団が数人の護衛に守られていた。話を聞いている限り、人間を売買する奴隷商人の護送馬車のようだ。


 身分証などを持っているか尋ねられたので素直に持っていない、無一文で街がどこにあるのかもわからない遭難者だと答えると、頼み込むまでもなく、馬車に乗せてもらえることになった。

 なんて人情あふれるいい人たちなんだろうかと感動した。


 俺を奴隷たちと同じ檻の中に放り込んだのでなければ。


「じゃあこの奴隷の分は売却ということで、よろしいですね?」


「ああ」


「出せーーー! どういうつもりだこんちくしょう! 燃やすぞクラああああ!」


「うるさいぞ!」


 木の棒で檻の外側から突かれ、痛みに悶絶する。

 容赦ない。


「くすん……()が何かしましたか……?」


「黙ってろ」


 また棒で突かれる。

 同情を引いてみよう大作戦、失敗。


「トイレ! 漏れそうです!」


「端のほうに桶が固定してあるだろうが」


 マジですか……?

 軽く絶望感が漂ったが、あきらめるものか。


「大のほうなんです!」


「桶にしてろ」


「下痢かもしれません! くさいです!」


「桶」


「ごほごほ! 伝染病もちなんです!」


「黙れ健康体」


「本当です! 見てくださいこの吐血!」


「全部ツバに見えるが」


「血が透明になってるんですよ!? しかもねばねばです!」


「ラッキーだな。レア物は高く売れる」


「あ! エイリアン!」


「なんだそりゃ」


「欲求不満で死にそうです!」


「諦めてろ。俺もだ。町に着いたら報酬で女を買うのさ」


「男でもいい気がしてきました! お兄さんとかどうですか!」


「寄ってきたら叩くぞお前」


「乱暴にしないでください! 妊娠してるんです!」


「お前男だろうが!」


「ぐうううう! 急につわりが!」


「ただの腹痛だ! 桶で済ませてこい!」


 だめだ。まったく相手にならない。


「おかみを呼べえい!」


「いい加減にしろバカ」


 ついに殴られた。

 完全敗北だ。俺のウソをここまで完全に見破る人がいるだなんて異世界恐るべし。教師にいったら「だめだコイツ……」みたいな顔で見事にだまされるのに。


「やっぱり早とちりだったなレイモンド? こんなアホだぜ」


「うるさい」


 異世界に行っていきなり魔法ぶっぱして奴隷商人に連れてかれるとかついていないにもほどがある。そういえば各種ステータスの項目の幸運値は随分と低かったっけ。


「俺、運悪いなあ……」


 それも半端なく。

 奴隷たちは男女で分けているらしく、俺と同じ檻の中にいるのは男ばっかりだ。動物をオスメスで分けるのと理由は一緒なんだろうなと思うと悲しい気分になる。自分がその中にいるせいだ。

 ファイアボールで逃げるか、と思ったが、よく考えてみればこいつらは奴隷商人、どこかに奴隷を売りに行く最中なのだ。このまま乗っていればどこかの町にはつく。


「なあ」


「ああ?」


 馬車の御者をやっている男に話しかける。


「どこに向かってるんだ?」


「おまえ、自分が売られに行く先なんて知りたいのか? 変わってるな」


 別に売られる気なんてさらさらないのだが、ここは合わせておこう。


「やっぱり不安だし。せめてどこに向かってるのかくらい教えてくれよ」


「王都だよ。王都レニングヴェシェン。ちょうど奴隷オークションの時期だからな。俺たちみたいなちっせえ奴隷商人は広場で売り出すのがせいぜいだが、特設会場ではすげえのが集まるんだぜ」


 王都、ということはここはどこかの王国なのか。さすがにそれを聞き出すと遭難者ではなく密入国を疑われるので自重して、話を続ける。


「すごいの? たとえばどんな?」


「美人だよ。それと凄腕の開拓者が身を持ち崩してたりして売られることもあるな」


「凄腕? にげだしたりしないのか?」


「無理に決まってんだろ? 隷属の呪印(どれいもん)があれば主人には逆らえないんだからよ。もし主人を攻撃したりなんてしたら……」


 御者は自分の首を絞めて舌を突き出して見せた。


「息ができなくなったりものすごい激痛だったり……そのあたりは使う呪印(呪紋)次第だが、ペナルティが来るぜ。お前も余計なこと考えんじゃねえぞ?」


「覚えとくよ……奴隷オークションってのもよく知らないんだけど」


「田舎もんめ。奴隷オークションってのはだなあ」


 御者と話している間に情報を集めつつ、馬車は二日後に王都、レニングヴェシェンに入った。

 レニングヴェシェンは何重もの巨大な壁に囲まれた階層型の都市らしい。中心に王様の城があって、周囲に貴族の屋敷や大商人の邸宅、壁を挟んで中流家庭の民衆の住宅や店舗が並び、内側のほうに向かうにつれて金のある人が住んでいる。


「お前ともここまでだ。ひまつぶしにはなったぜ」


「いや、こっちこそ」


「本当に変わってるなあ、お前。この商売やっててお前みたいに明るいバカ、初めてだよ」


「照れるじゃないか」


「ほめてねえ」


 ここ二日ばかりでお約束のようになったやり取りをして、御者が馬車から降りてしばらくすると、棒を持った屈強な男たちに囲まれた状態で檻が開けられる。

 ここもレニングヴェシェンの中ではあるが、壁の中に入るために検問のようなことをしているらしい。


「出ろ」


 嵌められている手枷は鎖で一直線に繋がっているので、全員まとめての移動だ。ばらばらに散って脱走を試みることもできそうにない。

 そろそろ頃合いか。隷属の呪印とかいう魔法をかけられたら逃げられなくなるらしいし、ここは逃げの一手だ。


「有形無形、あるものは崩れ、ただ砂になるのみ。分け、隔て、削り、抉り。風の爪牙は大地を壊す。ウィンドランサー!」


 ほかの奴隷と俺をつないでいた鎖を風の槍で切断する。

 手枷が残っているが、これで自由は取り戻した。


「なっ!? おまえ!」


「やはり魔法使いだったか」


 護衛の人間が気付いて俺に迫るが、それより早く魔法を詠唱した。

 ほかの人はまだ走り始めたところだっていうのに剣抜いて振りかぶって走り出してるとかレイモンドさん反応早すぎ。


「投擲の魔石となりて飛べよ炎塊! ファイアボール!」


 狙いは俺から少し離れたところにある地面。

 予想通りに爆発して、石畳が吹き飛んだのか、迫っていた相手との間に土煙が立つ。


「もう一発! 投擲の魔石となりて飛べよ炎塊! ファイアボール!」


 手枷の付いたままの両手を向けると、土煙を超えようとしていた護衛の男たちはよこに飛び退った。

 だがそちらには打たず、囲んでいる屈強なマッチョどもの一人に向けて発射する。

 屈強そうな男の一人はぎょっとした顔になってよけてくれたので都合よく道が開いた。

 もう一度ファイアボールを打ち込んで爆発を起こし、その煙に紛れて逃げる。

 追いかけてくる護衛が意外に速い。もっと速く走りたいと思ったら魔法が頭に浮かんだ。


「帆船を押す追い風を求む。西に歩を進める我が背を押し、世界の形を机上へと! セールウィンド!」


 自分だけの追い風が体ごと押してくれる。合わせて肉体を強化する魔法を使ったらシャレにならないくらいスピードが出た。自動車みたいだ。

 最初からこれを使っていれば捕まることもなかったんじゃあ、と思った。

 ほかの奴隷は置き去りにしてしまったが、いいのだ。

 あいつらパンを横取りしたから。

 この恨み、ここで晴らさせてもらおうか!


「はーっはっはっは! さらばだ! 明智くん!!」


 なんとなく気分が乗って、後ろに叫んだ瞬間。


「うおおおお!?」


 見事にバランスを崩して転びましたとさ。

 うん。手枷ついたまま走ってるのに余計なことをしちゃいけないよな……。

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