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Chapter41[逆鱗に触れる]

「とにかく、謹んで辞退申し上げます。広い情報網をお持ちのヴィクトリア様なら街の噂はご存知でしょう? ドレイクを売って旅の路銀は稼ぎましたし、奴隷を買ってもまだ余裕はあります」


「壁の外は危険ですのよ? 小人や獣人の奴隷などでは身を守れませんわ。バロックワークス家に仕えれば優秀な護衛も貸して……いいえ与えて差し上げますわよ?」


 それは魅力的な提案だが、そのために貴族の面倒くさい政争に巻き込まれるのはごめんだ。


「ドワーフは屈強と聞きます。自らの手で打った名剣でもなければ力に耐えられず折れてしまうといわれるほどの剛力を持つ彼らは優秀な戦士として、十分に俺の魔法を助けてくれるでしょう」


「鉱夫風情に過大な評価をしたものだな」


 フィリックスの鼻で嘲った言い方にフランクの眉が吊り上って鼻柱に皺が寄った。

 ドワーフは鉱人種の中でも技術者集団のドヴェルグと違って生粋の戦闘民族だ。トレンス鉱鉄王国の起こりから発展まで、他種族から、危険指定種から、大自然から自国を守るためにひたすら鉄を打ち、鍛えた武器を持って白兵戦を挑み続けている。


 狩猟民族では狩りの上手いものほど尊敬されるように、農耕民族ではより肥沃な土地を有しているものが敬われるように。

 ドワーフの中ではより勇敢に戦った熱い血潮を持つ戦士ほど尊敬され、命がけで敵を葬ることこそが誉れとされている。


 そのドワーフの一員として、弓矢や魔法に頼っている惰弱な人間ごときに鉱夫風情などと侮られるのは相当な侮辱であるらしい。

 よく見ればこめかみのあたりでぴくぴくと浮いた血管が痙攣している。


「フィリックス。あなたはさっきから黙っていなさいというわたしの命令が聞けないのかしら?」


「お嬢様。本来であればこの距離でさえあり得ないのです。誇りと歴史あるバロックワークス家のご息女がケダモノや鉱夫を抱えた開拓者などという野蛮人と接するなど言語道断」


「だから、あなたがいると……」


 はた、と。ヴィクトリアが言葉を止めて数秒硬直した。


「いえ、そうですわね……。止めないほうが事態を好転させるかもしれませんわ。引き込もうとしてだめなら押して押して突き落せばいいの」


 ぼそりと物騒なことを言ったかと思えば、俺たちのほうに向きなおって……いや、俺じゃない。視線は俺よりも後ろ、フランクとサクラに向いている。

 そして、いかにも高慢そうな表情を浮かべた。

 猛烈に嫌な予感がする。


「おい、お前、まさか……」


 一瞬、ニタリと悪い笑み。


「そんなに震えて、もしかして怯えて口が利けなくなってしまったのかしら。戦士として何か言い返すことはなくて? やはり辺境の()()()トレンス鉱鉄王国の鉱人種は勇猛などと見栄を張っているだけの意気地なしなのですわね。そんなずんぐりむっくりでちゃんと剣が振れますの? 子どもと一緒に木の棒でチャンバラごっこをしているほうがお似合いでしてよ?」


 嫌な予感通り、おーほほほー、とわざとらしい笑声まで重ねて、フランクを挑発しやがった。


「ッッ……!!」


 これ以上ないほど怒りの形相でヴィクトリアを睨みながらフランクが握りしめた拳からはボタボタと赤い液体がしたたり落ちていた。


「……や」


 唇をわななかせながらドワーフは口を開いた。

 もしかして激昂するのだろうか。


「安い挑発には乗らん……ッッ!!」


 喉の震えで烈火のごとき怒りが言葉にまで乗っているそれは、ヴィクトリアにというよりは発言することで自分を言い聞かせて衝動に封をするような目的でのものに聞こえた。

 憤怒のあまり歯がガチガチと音を立ててさえいる。


 さすがにフランクに貴族を殴らせるわけにはいかないからいざとなったら隷属の呪印を使って止めさせてもらうつもりでいたが、正直、ここまで侮辱された以上は殴りかかっても仕方がないかと思っていたのに。

 赫怒しているということは、ただ奴隷根性で卑屈に引いているのとも違う……と期待したい。


 どちらにしても同じことか。

 行動が伴っていない。

 この反応は奴隷としてはごく当たり前なのだが、フランクを面罵すると確実に切り口にして説得にかかるだろう面倒な相手(ヴィクトリア)がいなければヘタレカス野郎となじっていたかもしれない。

 殴り掛かれと言っているのではない。遠吠えをするくらいならせめて腹に一物抱えたまま鉄面皮を貫いていろと言うのだ。

 または泣け。


「……」


 ヴィクトリアは思い通りにならないドワーフに口をとがらせたが、すぐに貴族らしい余裕気な笑みを取り戻す。

 まるで明王のように怒髪天を衝く勢いで怒り狂うフランクから、つう、とサクラに視線をやった。


「ふっ」


 ヴィクトリアは鼻で笑った。ああ、人間はここまで腹の立つ失笑の仕方ができるのか、と思わせる笑い方だ。

 貴族の社交界でのやり取りが目に浮かぶ。


「……何よ」


「失礼、少し鼻の調子がおかしいみたいですわ。でも、あら? なんだか話し方がおかしくてよ?」


 眉をしかめて不機嫌そうにしているサクラをニヤニヤとした愉悦の混じった態度でヴィクトリアが跳ね返す。

 あの刃のような視線をものともしないとは、お嬢様なのになんてクソ度胸なんだろう。

 さすがストーカー。ちょっとやそっとじゃ倒れない。


「我がバロックワークス家に仕えれば名門貴族のお抱えになれるうえ、メイドを三人あてがわれ、さらにわたしの傍で働けるというのにどうして拒むのかと思えば、なるほど、そういうことでしたの」


 言いながらヴィクトリアの視線はゆっくりと下に降りていき、吊り目がちな大きい目、すっと通った鼻、薄桃色の唇、小さなおとがい、奴隷紋の刻まれた真っ白い喉、浮いた鎖骨を通って胸で固定。


「個人の性癖嗜好についてどうこう言う趣味はありませんけれど……さすがにわたし、わざわざ女の口調をさせてまで同性同士というのはいかがなものかと思いますのよ?」


「んなあっ!?」


 素っとん狂な声を出してサクラが目を見開いた。


「ど、どこをどう見たらわたしが男に見えるってのよッ!?」


「どこだなんて……そんな、はっきり言わなくても一目瞭然ではありませんの」


 コマリマシタワー、なんて言いながらヴィクトリアが両腕を組んで自分の胸を下から支え持ち上げた。


「確かに華奢な体をしているとは思いますけれど……いくらなんでも女性と言い張るにはいささかばかり扁平だと思いますの」


「へ、へんぺ……っ」


 ガツーンと頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた様子でサクラが絶句する。まさかこうも真正面から身体的特徴を指摘されるとは思わなかったのだろう。


「ねえショウタさん? やはり殿方としては柔らかな感触を好むのでしょう? メイドは厳選させていただきますわよ?」


 それはうれしい心遣いだが、一つ勘違いをされている。


「いや、俺はぺちゃぱいでも抱けますが?」


「ぺっ……ぺちゃぱぁっ!?」


 確かに柔らかくたわわに実った果実は甘く、多くの人に好まれるだろう。

 俺も大好きだ。

 何事にしても限度というものがあるので大きければ大きいほど好みに近づいていくというわけではないが、飛んだり跳ねた時にぽよんぽよんと弾む鞠のような大きい二つの果実の揺れは双掌に収めたいという筆舌に尽くしがたい魅力がある。


 だが。しかし。

 胸の薄いことを気にして羞恥と屈辱に染まるこのほほえましくも嗜虐性を刺激される表情は胸の大きな女性では持てない。

 異性に見られることによる羞恥はあっても、異性に好まれる価値観を知っているのなら誇らしく思う女が多数派になるはずだ。


 ぺったんこなら、ぺったんこでいいのだ。胸の大きな女性を、太陽をいっぱいに浴びた果実と表現するのであれば、あれは雲間の月光に照らされた野花。光の加減でいくつもの表情を見せて楽しませてくれるものだ。

 誰も貧乳などと、貧しいなどとマイナスイメージで表現するべきではない。


 あえて俺はこう呼ぼう。ぺたん子……いや、よりマニアックにぺたん娘ジャンルと!!


「だいたい、俺の女の好みに何か文句でも?」


「貧乳がお好きですの?」


「ひんにゅう……っ!!」


「いいや、バストサイズは大きい方が好きですよ? 毎回買ってた愛読書は『月刊ホルスタイン』だったし。でもこいつは……」


 片頬に笑みを浮かべた俺は、屈辱にうつむいたまま肩をわななかせて今にも爆発しそうになっていた猛禽の腕をサクラから遠い方の手でとって引き寄せ、反対側の手で肩を抱き寄せた。

 柳眉を逆立てていたのにいきなり引っ張られて一転、驚いた表情(かお)になったのがよくわかる。


「こうやって(かご)の中に閉じ込めて、一生飼っておきたいとさえ思ってる」


 離してって言われても絶対に離さない。

 暴れられないように掴んだ手からすこーしだけ魔力を流したのは抵抗を弱めて逃げられないようにするついでに、触れたときに快感を得たことを刷り込んでおくことで心の防御とハードルを下げさせておく、ゲスっぽい調教工作の一つだったりする。


 オークション会場でサクラを初めて見たときには美少女と思うだけで済ませていたが、ホルストのところで事情を聴いて俺はこいつをかなり気に入った。


 奴隷になっているのに主人に逆らったって得なんてない。

 もしも売れ残ったら鉱山や辺境の農業地に払い下げられて重労働の上に慰安婦にされ、あげくに病気にでもかかって数年で死ぬんだから、開拓者にでも買ってもらえたら普通は大事にしてもらおうと媚を売ったり、転売されないように主人の機嫌をうかがうだろう。

 でもそうしなかったから、サクラは商館に払い戻された。


 器用に賢しいフリをして、環境に合わせてうまくやろうとしていない。

 誰かとぶつかったり、なあなあで歯車を回している社会と摩擦することを怖がっていない。

 当然だ。この女が守っているのは対外的に向けられた見栄や虚栄心ではなく、自分にだけ通用すればいいという意地(わがまま)なのだから。


 良心の呵責があろうと平気で嘘をつける俺は、そういう、自分を偽らずに、嘘をつかずに、正直に生きている人間が好きだ。

 欺瞞と嘘で自分を塗り固めてしまわずに正面から赤身で頑張る人間が大好きだ。

 うじうじと悲劇を気取って諦めてヒロイックな境遇に酔って自分の気持ちをごまかしている嘘つきよりもよっぽどかっこいいと思う。


 憧れている、と綺麗に言い換えても、または妬んでいると普通に表現してもいい。

 自分にないものを持っている人が羨ましいから、その憧憬を、持っている人ごと手元に置きたがっているわけだ。

 もちろん、蹂躙して屈服させて首輪をつけることで自分の下劣な征服欲を満たしてくれるという裏返しも多分に交じっていることも否定はしない。


 そうでなければ奴隷として支配するんじゃなく、普通に告白して振り向かせるところから始めてる。

 恋人を作るでもなく、奴隷紋(くびわ)で自由を奪った奴隷で欲望を満たそうとした時点で、どう言いつくろっても俺がどういう心性の持ち主かというのは明るみになったようなものだろう?

 こういうゲス野郎だぜ☆


「からめ手なんていやらしい手を使ってきやがって……」


「あら、ばれていましたの?」


 口元に手をやり、驚いたような表情を作ってヴィクトリアが答えた。

 わざとらしい。


「わからないわけがあるか。普通に頼んでいたんじゃあ俺は絶対に首を縦に振らないと見て、奴隷を挑発して「命令して襲わせた疑い」をかけるかどうかの交渉を持ちかけるつもりだったんだろう?」


「言いがかりですわ。人聞きの悪い事をいうのはよしてくださいな」


 封建社会の中では貴族とは民より上位にあたる支配者だ。これに危害を加えた者を見逃したりすればそのまま支配者の特別性、上位性を失ってしまう。

 国家を、つまり集団を取りまとめる人間が下から侮られている状態や、危害を加えられても問題にならない状態では民は何か貴族が気に入らないことがあれば「いざとなれば殴って黙らせてしまえ」という考えで存在を無視できるため、みんなが好き勝手をして無法地帯が出来上がる。

 国家を国家として整え、他国や他民族に対抗する力を保つためにも、貴族に手を上げた民を貴族は決して許してはいけないというわけだ。


 ここでヴィクトリアに危害を加えた場合、確実に生死不問の賞金首(デッドオアアライブ)として懸賞金さえかけられかねない。

 それが嫌なら、とヴィクトリアは取引を持ちかけようとしたんだろうと思うわけだが。


「箱入り貴族娘の考えるアイデアじゃねえぞ」


 暴漢に襲われるのだから、当然危険だ。怒り狂ったドワーフに殴られたら人間種は成人男性でも……どころか兵士でも打ちどころが悪ければ死ぬ。

 すぐ近くに騎士がいても不意を打たれることを考慮に入れたら一〇〇パーセント安全とは言えないというのに、ためらいなく実行してきた。


「実家でもおてんばと言われていましたもの。それに、あなたが厳正に試験を行ってくださっていればこんなふうに付きまとうようなことはしませんでしたのよ?」


「……」


 反論できない、痛いところを突かれて喉でつっかえた。


「他の方に比べてわたしに向けた魔法の強さと。弟子に取った娘がわたしよりも明らかに魔法の能力に劣っていることを言っていますのよ?」


 目線をそらそうとしていたら正面から睨まれた。

 けれどその通りなんだよな。


 もともと、純粋な魔法の能力ではラナを優に上回っているのに、貴族だからという理不尽な理由で身勝手に弟子に取らなかったのは明確な不正行為だ。


 条件は共通三項に加えて実戦レベルの魔法がつかえて身を守れ、才能と努力が光る者、だった。

 周りがどうであれ、本人は旅の不便も外の危険も覚悟の上で、覚悟を決めてテストに挑んでいたのだから、弟子を取る教師として俺のあるべき姿は教え子のために面倒を受けて周りの人間を説得するなり、魔法の力技で納得させることだったはずだ。


 それを俺の都合でねじ曲げて捨て置いているのだから。

 腹が立とうとどうだろうと、悪いのが誰かと言えば俺に他ならない。

 入学審査不正もいいところである。


 挙句にこうやって自省しているワケが生徒(ヴィクトリア)への思いやりからではなく、自分の理想的な教師像と自分の行動が違っているからという、いかにもナルシズムにあふれている理由だというのが最悪にタチが悪い。


「だからと言って、それを言われたところで誰かに罰されるわけでもない。その言葉で俺に有効な攻撃ができるのは俺だけだ。俺が勝手な後悔をするだけで、お前に返すものは何もない」


 あるべき姿と。取りたい姿はまた別だ。

 より正確にはやりたい事が、また別だというべきだろうか。

 理想は理想だ。現実ではない。


 それを割り切っているから、こんな風に適当に現実と折り合いをつけようとしない、生きていくうえで邪魔になるとわかっていて捨てられないモノを持っている馬鹿が好きなのだが。


「ふん。だから平民風情と言うのだ。自らの行いにやましいと知りながら償おうともしないとは卑賤もきわまる。いかに力があろうがその胸に誇りを持っていない。恥を知れ、この愚図が」


 心底から見下すようにしながら敵意をたっぷりのせて峻烈(しゅんれつ)な視線と侮蔑の言葉を吐きつけるフィリックス。

 だが。


「盛大に勘違いしてるぜ、そりゃあ。俺は自分の恥じる所を自省したうえで、責めるのは自分だって言っているんだ。俺はお前たちに怒りの代弁なんて頼んでいない」


「何だと?」


 フィリックスは犬歯を剥いて睨んだ。


「そして恥を知れと言葉を返すぞ。お前たちこそ、いったい何をしているんだ。俺の温厚さにかまけて主人の令嬢に虎の尾を踏ませているんじゃねえよ。主人を守ることさえできていない護衛風情が、どの口で偉そうなことを()()()()()()()()?」


 俺は不正をした人間に対しても正面から本人が話をしに来ているヴィクトリアに敬意を表して使っていた敬語を捨てて口調を完全に攻撃に用いるものに変えた。

 こいつらはヴィクトリアがこの瞬間にこの世から消えてもおかしくないことに気付いているのだろうか。

 虎の尾ならぬ、俺の地雷を全身全霊の全力で踏み抜いたことを。


「本当に誇りを考えられる臣下なら主人をいさめなければいけなかった。まさか俺が自分の奴隷(モノ)に侮辱を受けて怒らないとでも思っていたわけでもないだろう?」


 意図的に抑揚を低くした声は自分でも軽くビビりそうなほどに威圧的な響き方をしていた。


「さっきのは報復で一族郎党、領地領民まで含めて風と消えるつもりでの発言と取っていいんだろうな?」


 胸にたぎる暴力的な衝動を滲ませた直言を受けたヴィクトリアたちは思わずといったように怯んだ。


 激情を抑えるために癒しを得ようと、先ほどからもぞもぞと身をよじって腕から逃れようとしているサクラの体に回した手を首筋からそっと頬にやると、きゅっと目を閉じてびくりと体を震わせる。

 逃げられそうになる都度に引き寄せては流す魔力の量を増やしているから今や体の反応を隠すことに必死になっているらしく、目じりに薄く涙が浮かんでいる。


 何も知らないで自分の身体が言うことを聞かなくなったと思っているサクラが必死に我慢しているのを見ているともっといじめたくなってくるが、柔肌に爪を立てて押し倒すような気分ではない。

 あんまりいじめてもかわいそうだし、俺が我慢できなくなったらもっとまずい。

 暴れなくなったらそこでやめておこう。


「よくも逆鱗に触れてくれたな。フランクは俺を守る戦士で、サクラ(こいつ)は俺の玩具(オモチャ)だ。俺のモノを俺に断わりもなくはずかしめられると当たり前にむかつくんだよ」


 誰だって好きなものを馬鹿にされると腹が立つ。


「いいか。言葉だろうが暴力だろうが、相手を傷つけたなら同じように殴り返されることを心得ておくべきだ。俺は「怒った」ぞ。さっきの放言はどうけじめをつけるつもりだ?」


 相手が貴族でも、持っている力関係は俺のほうが上なのだ。

 単純に魔法で今すぐこの場からバロックすワークス家の領地一帯をまとめて焼き払うことも、ほかの貴族にコンタクトを取り経済攻撃を行わせてバロックワークス家を没落させて真綿で首を絞めるように後悔させることもできる。

 時間がかかりすぎて面倒くさいからやらないけど。


「ところで。ひとつ雑談をするが、殺人事件がコロシとして扱われる第一歩目を知っているか? 創作物(ドラマ)の中ではやけに勘のいい刑事や捜査官が証拠もなく「これは殺人でっす! 俺には、私にはわかるんでっす!!」なんて傍迷惑な気合い入れてストーカー並みの執念深さと違法捜査で検挙するわけだが、現実では腐乱臭の通報や肉片や凶器の発見、目撃者証言からってパターンが多い。なにも「それらしきもの」が見つからなければただの行方不明者って扱いになっちまうんだよな」


 日本では「特異行方不明者」という区分での捜査もされていたが、あれはそもそもすでに「殺人などがあったのではないか」とかそういう疑いが掛けられた後の話なのだよ。


「どうしても妬み嫉みで敵の多くなる大貴族のお嬢様はこの話についてどう思う?」


 俺の言いたいことがようやく伝わったらしい。

 ヴィクトリアが血色を失って顔を蒼白にした。


「とはいえ、俺もこれ以上王都の治安を乱して出禁にされるのは避けたい」


 まだ聖鍵宝窟の財宝探しができていない。

 金に困ってはいないが、宝探しという面白そうな(浪漫溢れる)事を断念はしたくないのだ。

 エリーゼとの約束もある。


「そっちも城下で騒ぎを起こして陛下に睨まれたくはないはずだ」


 俺のような根無し草(一度言ってみたかったセリフだ。)と違って、貴族という大樹には立場というものがある。強風に耐える反面、根を張っていると森のバランスを保つために問題を避け、立場を考えなければならない。

 邪魔な木は、森を朽ちさせないために伐採される。

 国もまた。


「かと言ってこのままなし崩しにすれば俺の魔法は王国を出たときにでも国外からバロックワークスの領地をあとかたも残さず消す。いつ魔法が飛んでくるかもわからない状況を作るのは嫌だろう?」


 だから。と言葉をつぐ。


「どうだ? ここはひとつ、勝負をして白黒つけてしまわないか?」

今回、殺人事件の捜査について語りましたが、あくまでも作者の偏見と素人目です。実際の警察の捜査はもっと的確で迅速化されているはず。

年間行方不明者の数で殺人事件が行方不明者に埋もれてしまうという話を聞きましたが、大部分が捜索活動により、すぐに発見されていますし、殺人事件を隠すというのは事実上不可能でしょうね。


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