Chapter35[種族考察・後]
「獣人種でも半獣種でも虎のは半端なく強ええから高けえんだが、同じくらい強いのが竜人種でよ。空を飛ぶし竜の砲哮を撃つ。身体能力だけで竜人種に渡り合えるってんで虎獣人は高けえな。数もいるからレアリティは弱えし、値段は断然竜が高けえんだけどな」
ドラゴンの血を引いているってことで竜人種は半獣でも半獣種とは呼ばず、半竜種として別枠扱いらしい。なんでも口だけじゃなくて全身からブレスを吹けるし、頑丈な鱗を持っているから、竜人種よりも人気が高い。
反対に半獣種は人間よりケモノっぽいからさげすまれやすくて、獣人種より値段も低いらしい。
人間種からすると獣姦してるような気分になるようで、性奴隷に向かないのも一因だ。
「あとは……」
「妖精種ってのは? 見たことないんだが」
「数はいるから、今日とか、しばらく王都を探しゃあ見つかるんじゃねえか? 愛好家もいるしな。ちっこいのが好きな変態、ドヘンタイだけどな」
妖精種の特徴は大体三十セードメーテルくらいの大きさで、背中に薄い、虫みたいな羽が生えていることらしい。羽ばたいたりするが、その羽で飛んでいるんじゃなくて、羽を触媒に魔法を使って飛行するんだそうだ。
まあ、三十セードもある人間をホバリングさせようと思ったら結構な大きさの、骨格の入った羽がいるだろうし、妖精種の羽はそんなに大きくないらしいから飛ぼうと思ったら魔法でもないと無理か。
小さいから比例して力が弱く、労働力にはあんまり向かないが、そろって魔法を生まれつき使えるから開拓者が後衛として雇ったりしているようだ。
「でも俺、見たことないぞ?」
「妖精種はそれなりに優秀な魔法使いだからな。中には飛べるだけの虫けらカスもいるけど。雇えるのは大体シルバー以上なんだよ。だから一階にはいねえ」
他にも小さいからこそ細かい細工をさせるといい品ができるので、工房もほしがっているようだ。ちょっとばかり短命なのが玉にきずらしい。
どちらにしてもほしいのは前衛だからこれはいいか。火力職は俺とロナルドで十分。ラナもゆくゆくは高火力の魔法が使えるようにしてやる予定だ。
「じゃあ鬼人種は?」
「力やら魔力の強い種族だな。それから酒。鉱人種もだけど、酒に強い。どんな酒豪も奴らからしたらお子ちゃまよ。うわばみってやつだぜ。人間に似てるけど、一発で見分ける方法がある」
こつ、こつ、とスパインは自分の頭をつついた。
「立ぃーっ派な魔羅が頭にあるから一目でわかる。竜人種でもたまに持ってるけどな、形が違うしな」
なるほど。悪鬼か。
オーク、ゴブリン、オーガなどの鬼型の危険指定種とはどう違うのかといえば、力が桁違いに強いらしい。それだけなら危険指定の号格が上がるだけだが、人間とコミュニケーションをとれるだけの理性を鬼人種は持っている。
「巨人種……はもう話したな。その対極的な種族が小人種だ。あいつらはチビで、人間種の半分くらいしか上背がねえ」
「なんか鉱人種と似てるのな」
「そうだなあ。力も弱いし、まあ鉱人種の劣化バージョンって感じだけどな。でもあいつら、魔力が多いのがいるし、長寿だったりするからな」
つまりこいつも後衛タイプの種族か。
「鉱人種と違って寸胴じゃねえし、森人種みたいに若いままあんま変化しないから妖精種と同じで、ロリコンには人気だな」
「だったらそれはいいや。精霊種っての頼む」
「精霊種もあんま前衛向きじゃねえけどな。あんま覚えてねえけど、たしか魔力で体ができてんだ。この世にいるためには魔力を使ってる。俺たちが食って出してるように、魔力を取り入れて使ってるらしい。人間と契約して、魔法を使う代わりに魔力を貰ってる共生関係のやつもいるぜ。さっきの小人種とか、魔力の多いやつならいつか向こうから寄ってくるだろ」
だったら俺はいつか契約できる可能性があるってことか。別に契約しなくても魔法を使えるから要らないけどな。
似た種族では動骸種というのがあって、精霊種は魔力だけで実体化したりしているが、こっちは人間とかの死体に定着して安定化を図ったタイプのようだ。
ぶっ叩いたらパカーンと散らばるので前衛に向かないように思うが、また集まって復活するし、傷がついたら別の死体に憑依しなおすので盾にできなくもない。
詳しい違いは分かっていないが、とりあえず何かの死体に憑依してるのが動骸種で、そうしなくても人間とコミュニケーションをとれるのが精霊種のようだ。
魔法の才能がなくても、魔力さえ持っていれば契約して魔法を撃たせることができるから、精霊種は貴族が良く買っていくらしく、高騰しているらしい。
末端価格、だいたい一億。
ハンパねえ。そんなに魔法使えるのが偉いのか。
最後に神霊種だが、これは魔神本人を含む、なにがしかの魔神の血を引いている種族がそうらしい。
「魔神っていうのは、なんなんだ?」
たしか神の話ではこいの世界に神は介入できないはずなのだが。
いや、こっちにも神はいるんだったか。あのイケメン神が介入できないだけで。
「お前みたいなやつだ」
「俺?」
「ああ。魔神っつーのは、なんかの理由で神様みたいな力を持っちまったやつだからな。魔法姫がいるだろ? ああいうのを言う」
人間核弾頭ってことか。たしかに、だとしたら俺も該当する。
「種族についてはこれで全部だな」
「全部?」
「おう。ねーちゃん、火酒! もう一杯!」
火酒を一気にあおって、お代わりを店員に頼むスパインの姿はうそをついているようじゃない。
だから俺は首をかしげた。
おかしいな。たしかオークションでは有翼種だとか飛行種だとか聞いたのに。
「そりゃ特徴だ。羽があるとか、血を吸うとか、種族の中でも細かく分けるときに使うわけよ。一口に獣人種っつっても、混ざってるもんが鳥と魚じゃあ全然違うだろ?」
「なるほど。ちなみにどんなのがあるんだ?」
「純血種、有鱗種、有翼種、飛行種、水棲種、吸血種、食人種、長寿種、不死種……あとは純血種に対する混血ってところか」
当人からさかのぼって、どの枝をたどっても六代以上他の種族と混じっていないのが純血種、つまり種族的に一〇〇パーセントその種族と認められ、奴隷ならそれだけでかなりの値段がつくようだ。
特に人間種は数が多いばかりで際立った能力がなく、ぶっちゃけ種族的にはカスといっていいわけだが、この純血種に限れば血統もはっきりしているということもあって、何もできなくても五〇〇万くらいにはなるんだとか。
まあ、血統書つきのペットと考えたらそんなものか。魔法の道具で、調べる道具があるらしく、その道具の限界が遡って五代までだから当人から六代で純血種なのだそうだ。
有鱗種と有翼種は聞いたら大体わかる。鱗があるかとか、羽をもっているかってことだろう。水棲種は水の中で生息できるってことだろうし、吸血種と食人種もそのまんまと見た。
「飛行種と有翼種との違いってなんだ?」
「羽があっても飛べない奴もいるんだ」
「ああ、ダチョウとかニワトリとかか」
あとペンギンもそうか。
「吸血種だの食人種はよく危険指定種あつかいされないもんだな」
「されてるぜ。グリニャードじゃあ単純に殺して食人したら犯罪者としてしょっ引くだけだがよ、クリシュナムルティ皇国じゃあ人間種以外はぜぇーんぶ出来損ないだし、まあ、お国によりけりってやつだな」
このグリニャード王国では人間種主導の風潮はあっても、獣人種も半獣種も人間として認められているが、ほかの国では事情が違うようだ。
特にクリシュナムルティ皇国は人間種至上主義のようで、逆に獣人種主導のペルオカヤ王国というのもあるらしい。
「なるほど。気を付ける」
クリシュナムルティは獣人を連れているときには獣人が肩身を狭くしそうだし、ペルオカヤ王国では人間種の俺たちは危ないってことだ。
あとは長寿種と不死種だが、長寿種は森人種や小人種なんかが持っている特徴で、似た種族……この場合は人間の五倍以上の寿命を平均的にもっている種族が該当する。どのあたりで老化が緩やかになるかは種族によるようだ。
不死種は、普通には死なない種族だ。寿命が無限だったり、外的要因や内的要因で死ななかったりする。
「死なない奴がいたら一方的に増えていかないか?」
「不死種は固有能力っつって、当人だけの特別だからな」
純血種以降の話は人間に限った区分じゃなく、危険指定種や魔獣なんかにもつけられるらしい。
たとえば、タイラントドレイクなら有鱗種、食人種の爬虫類型危険指定四号種。
「なるほどな……。これで全部か?」
「全部っつうか、もう思いつかねえな。何か聞きたいことがあるなら聞けよ」
「じゃあ次は奴隷の値段についてなんだが……」
さらに相場や、性別による差、奴隷の扱いなどの例を貴族の黒いゴシップ交じりに聞き出すことができた。おまけに酒の勢いで雑談として開拓者としてのどんなことをしたかまで話してくれたし、ユヴェルの森にある聖鍵宝窟という面白い話もしてもらえた。
話によると、ものすごい宝が眠っているらしいが、誰も見つけられないまま二〇〇年も経っている不思議遺跡だそうだ。
「参考になった。こいつで飲んでくれ」
「おお! いいのか!?」
「予定外の話までしてもらった礼だ」
金貨を置いて立ち上がる。一〇万デローもあればあの店を一晩貸切れるだけの金になるので、誰にどれだけ飲まれても大丈夫だろう。エールは一杯四デロー、火酒も一杯で六デローだし。開拓者ギルドと提携しているから、ギルドカードを出せば火酒一杯五デローで飲める。
結構話し込んでいたのか、店の外に出て聞いたことをメモついでに時間を見るともう八時前になっていた。
ロナルドはもう三十分前に待っている時間だ。一度出て店に誘ってやればよかったな。
竜の砲哮。ドラゴンブレス。日本語は咆哮が正しいのですが誤字に非ず。
 




